第15話【つまんねぇ音楽】
練習と音楽の調整に明け暮れていたら時はすでに前日。
そのころ俺の知らないところで一人の男が今もベースを弾いていた。
「・・・こんな感じの音でどうっすか」
「最高だよ!さすがはもと伝説のバンドグループファイブライブズメンバーのZIN君!」
「やめてもらおうか、俺達の過去の栄光を評価してもらうのは」
真ん中に分けた金髪の髪の毛。
とがったヘアー、黒いライダースジャケット。
中にはボーダーのシャツ。
この男こそ、昔の仲間【蒼 雷神】だ。
「いつもすまないね、君には力を借りてばかりだ」
「いや、たまたま昔やってたことが金儲けに繋がっただけっすよ」
俺はこの時知らなかったが、今アイツはインペリアルレコードの楽曲協力者だった。
「(つまんねぇ仕事に、つまんねぇ業界、俺の青春はこんな奴らにどんどん汚されていくんだ)」
この時のZINは弾いても弾いても満たされない満足感に悩まさていたと聞いた。
心の底では音楽いつだってやめれる構えでいたそうだ。
「なあ、あんたはどう思う、今のこの業界」
「えっ?そりゃもちろん最高じゃないか、トップは我々インペリアルレコード、その下にも四天王と言われる存在も確認し今やネットのブームを支える一大・・・」
「お前らが潰そうとしてんじゃねぇのか、この業界」
「えっ・・・」
「俺は馬鹿だが考えることはやめない主義でね、気になったら考え続けちまうのさ」
「な、なにを」
「確かに上にいる奴らがこの世界を広くしてくれている、間違いないね、ただ、その裏でどんどん深刻な問題になってんだよ、個人で始めた連中が夢を見ては叶えられない壁にぶち当たるのを」
「それは・・・その人たちには才能がなかったんじゃないかな」
「俺はこのブームが始まった時まだ100人にも満たない時代を知っている、バーチャル活動ってやつは視野が広いすぎた、でもなれたらだれでも注目を浴びやすい良い時代だった、そこに現れたのが大手企業【SUN】だ、お前たちはそこの子会社なんだろ」
「それがどういうことなのかね?」
「てめえらが現れてからだ、企業がのさばり下に埋もれていく個人勢を殺し続けて、顔も個性も中身のない量産型を生み出し続けてそいつらでよってたかって弱者を消してんのは、てめえらだ!」
「お、落ち着きなさい!我々は一企業として職務を・・・」
「ほかの商売で負けたから勝てそうなところで妥協し人の夢土足で踏み荒らしてんのに抵抗はねえのかって言ってんだよッ!!」
「ホヒィッ!?」
「・・・失礼した、金をもらって仕事をさせてもらってんのに、ついカっとなってしまった」
「い、いや大丈夫だよ・・・君の気持は痛いほどわかる、おじさんなんとか上の人達に待遇の改善を」
「いや、いいよ、今のまんまで、上がれば上がるほどつまんねぇ場所に興味はねぇ」
「・・・」
この時の俺は、後にそういう怒りをぶつけていたと。
本人から聞くことになるがそれはまた別の話。
この時、アイツは満たされない欲望をどうやったら満たされるのか。
ただ、それだけを考えていた。
「(もし、アイツがまた音を奏でてくれるなら、俺の魂は燃えるだろうか)」
そんな彼のどこに当てればいいかわからない静かな怒りと同時に時は5日前。
俺たちのライブ情報がT区やいろんなところで話題になっていた。
「聞いた?あの伝説のメンバーの・・・」
「聞いたよ!私ファンだから楽しみだわ~!」
「楽器の天使って死んだじゃなかったけ」
「どうして帰って来たなんて・・・」
「当時にならないとわかんないな」
そんな噂を聞いていた、一人の少女。
それはもう一人のメンバー、HYOだった。
「・・・人助先輩?」
多くの者から期待と不安を受けながら、俺たちは明日に向けて最後の準備を行った。




