#65
重大な個人情報を公開する奴はいない。しかし、当事者の同意があれば何でもOKという酷いルールのせいで、インパクトが強いものばかりである。
ステージ上の奴が13個目にパクられたゲーム"機"の話を始めたところで、隣を向く。白渡に無理矢理連れられて順番待ちの列にいるのだが、彼女の暴露に同意していないどころか、内容すら聞いていないという状況であった。
「さっきも言ったけど、今の伊折君じゃ誰も味方してくれないからね。そもそも抵抗するにしても、罰ゲームを受けるっていう合意を覆さないといけないし」
「そんなよく分からないものも合意なの?正直どうでもいいけど」
正直ここまで落ちると、もはや恐ろしくない。どんな黒歴史でも笑えるし、醜態が晒されても傷つかないし、焦らした末に僕に一切関係無い話になっても別に良い。訴訟を考えるかどうかは別として。
「ありがとうございました!では次の...」
「行くよ、伊折君」
「っ...あのな、今日強く引き過ぎ...」
明らかに目の冷めた司会を無視して、笑顔の白渡はマイクの前まで進む。ついでに、僕を強引に引っ張って。
「......ん?」
昼に味わった、妙な感覚が頭に浮かぶ。
暴言の嵐の中だとしても、自然と考えてしまう。懐かしさを感じたそれは一体何か。きっとこんな経験をしたのだろうが、強引に僕の腕を引く奴なんているのか。授業とか予防接種とかを除けば、白渡と黒瀬しか考えられない。
高校では白渡に腕を組まれたが、多分これは違う。中学時代は白渡との絡みでしょっちゅう連行されたが、懐かしいと言う程古い記憶ではないし、あんな感覚は無かった。他には5、6年前になるが、黒瀬が僕を草刈に連れ出した時。それ以上前も幾度かあるが、そうなると黒瀬ということに...
「はーい、蓮花ちゃんでーす。これからする暴露は、伊折君についてというか、伊折君に向けてのものでーす」
「......あ」
思い出す。相当昔、黒瀬じゃない人間が僕を引っ張った。黒瀬の為に準備したあの日、知らない少女に絡まれた。
黒瀬じゃない?
「伊折君、これ見て。流石に何の写真か、分かるでしょ?」
「......!」
画質はイマイチだった。しかし、写真を手にしてすぐ、分かってしまった。
真ん中に写る大きなスイレン。髪が跳ねた少年や、端に写る羽っぽい何かを見た記憶は無いが、十分な情報だ。
「泳がすには長すぎないか」
「初恋の相手だよ?期待しちゃうじゃん」
「...お前マジかよ、イカれてんな」
いつも通り笑顔の白渡。だが不思議と理解する。彼女は笑った。




