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#61

「では、黒瀬さんにも話を聞きましょう。いかがでしたか?」


 僕の前を堂々と通り、白渡はマイクを黒瀬に向ける。僕が邪魔なら帰らせて頂きたいのだが。


 そんな黒瀬は、すぐには言葉が出ないようだった。さっきまで平気に見えていたこともあり、少し困惑する。


「......良かったです」


「何がですか?」


「......」


 やっとでた言葉に対し、容赦なく追及する白渡。いつかのように、重い空気に包まれそうになる。


 やはり逃げようかと思い、足が動く。その瞬間、彼女は再び口を開いた。


「...私だけでも出来る事はあるって、示せて良かった」


「ほーう?詳しく説明してくださいよ」


「...説明って、言葉の通りだけど」


 わざとらしい会話。さすがに、何となくは意味が分かる。


 多分、黒瀬は、自分が人の真似以外の事も出来るのだと見せつけたかったのだろう。新色伊折のなぞり書きをしていると思われてるのが分かっていて、それを否定したかったのだろう。加えて、チェンバロの練習は自分の意思でやったということなのだろう。親とか誰かにやらされたのではなく。


 余計な心配が気づかれていたのは恥ずかしい。自分で出来るなら心配しなくて良い。無難に考えれば、僕が下すべき結論はこういうものだった。


 しかし、妙に腑に落ちない。


 お節介な僕にはここで頭が働く。これって、もう僕がいなくても大丈夫だって話では?僕って、今ステージ上で振られてるのか?それは言い過ぎだとしても、これは黒瀬が自立するって宣言なのでは?

 

 発表は黒瀬が前々から計画していたし、白渡もどうやら絡んでいそうである。そんな舞台で、ただ僕の誤解を解くだけなんて正直変だ。実は、これまでの黒瀬の様子がよそよそしかったのは、これを想定していたとか...


「なるほど。健気な幼馴染ですね、新色さん。付き合ったりしないんですか?」


 そんな呑気な想像は、一気に破壊される。彼女らの視線は端から、こちらを向いていた。

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