#55
午後、体育館には多くの人が集まっていた。
スケジュールによると、個人や数人での発表の後に、部活やクラス等団体のものが行われるらしい。正直、個人発表に人はそれほど来ないと思っていたから、少し驚いている。
「皆んなー!!盛り上がってるー!?」
生徒会長以上に注目を集める委員長。ノリの良い上級生がはしゃぎ出す。
ステージの奥の方では、白渡達が各種セッティングをしている様だ。僕が存在を気にされてないだけで、自分達監査委員は生徒会の手伝いが仕事なのだ。
もし、隣に白渡がいたら、彼女はどうするのだろうか。何故かふと、そんな思いが浮かぶ。
待っているのは黒瀬なのに、何とも浮気な男である。それは分かっているのに、頭の中は白渡の事ばかり。
腕を引かれたとき、呪いにでもかけられたのだろうか。"他人"を気にする人間では無かった筈なのに。
「ねぇ...アンタ、本番でもサボってるの?」
突然、誰かに声を掛けられる。
「サボりではない。仕事が与えられてないだけだ」
振り向くと、そこに居たのは瑠璃垣だった。影の薄さには自信があったのだが、さっきあれだけ視線を集めてしまった以上、見つかるのはどうしようもない。
「何だ、こんな所でも叱るのか?のど飴はオレンジ味がおすすめだぞ」
「何の話よ...別に、働かせにきた訳じゃないわよ」
瑠璃垣は呆れた様子を一瞬見せる。しかし、すぐに切り替えると、彼女は一枚の紙を見せてきた。
「リハーサルになってようやく気づいたのだけど...アンタ、黒瀬楓さんがイスを2個申請してる理由って、知ってる?」