#S-2
「やぁ、楓ちゃん」
話したいとは思っていたけど、偶然だった。
いつも来ている訳では無いけど、放課後の教室で姿を見たのは初めてだった。
「......」
「冷たいなぁ。別に今日はちょっかいかけたりしないよ」
「...いつもしないでよ、白渡さん」
「ねぇ、2人なんだしわざわざ他人らしくしなくていいじゃん。前みたいに蓮花って呼んでよ」
睨みつけられたから、笑顔で応える。今回も目は逸らされず、互いに見つめ合う。
「1ヶ月遅れちゃったけど...久し振りだね。寂しかった?」
「...いいえ」
「だろうね。私は寂しかったよ」
「...先輩に会えなかったからでしょ」
「もちろん。楓ちゃん達に会えなかったからだよ」
「...蓮花さんは変わらないね」
「本当?楓ちゃんは大きくなったと思うよ」
正直に、気弱になったよねとは言わなかった。言えなかったのではなく、言わなかった。
会話というよりは、適当な言葉のぶつけ合いだった。それでも、彼女との関係性の確認には十分だった。
「"一昨日"は普通に話せてたじゃん。どうしたの?」
世間話なんてしたくないだろうし、強引に切り出す。すると、彼女はようやく目を逸らす。
「...やっぱりちょっかいかけに来たんじゃないの」
「いやいや、違うよ。これは純粋な疑問であって、裏も表も何にもないよ」
「...何にもないなら答えなくていいよね」
軽く笑う。嫌いな人が相手でも、結局細かなボケに乗ってしまうのは、とても伊折君らしくて可愛らしい。
彼が大切にするのもよく分かる。楓ちゃんはクールに見えるけど、とっても素直で、強情で、怖がりで、守りたくなる魅力を持った女の子なのだ。
「別にいいけど、頼れる人私以外にいないでしょ?このままだと、伊折君も盗られちゃうかもしれないじゃん」
血とか過去とか関係なく、とにかく彼女だからなのだろう。エゴと好奇心だけで生きている自分が、どうしても気を遣ってしまうのは。




