#50
「あぁ、ごめんごめん。別に罰ゲームとかじゃなくて、ちょっとした手違いがあったんだよ」
抗議に答える白渡の笑顔に反省の色は無い。毎度の事だが、人を面倒事に巻き込んでいる自覚を持って頂きたい。
「手違い?どんなミスをしたら僕の名前がある申請書が出来るんだよ」
「申請書なんて書いてないよ。あれ?楓ちゃんから何て言われたの?」
まさか質問が返ってくるとは思わなかった。まぁ逆らう理由も無いので、素直に応じる。
「黒瀬は...委員長が言ってたって。お前が前言ってた罰ゲームだと思ったから、それ以上は特に聞いてないが」
「伊折君、その調査スキルじゃ名探偵になれないよ。いつまで経ってももろたで、もろたでって唱え続けるだろうね」
「そんな頻繁に早とちりしてるのか?知らんけど」
やれやれといった様子で首を振ると、白渡は簡単に成り行きを話す。
「ここの学園祭って後夜祭があるらしいじゃん。流石に伊折君でも知ってるよね?」
「去年熱烈に勧誘されたから覚えてるぞ。行かなかったけど」
後夜祭には有志の人間、実際にはほぼ全生徒が参加するのが伝統らしい。絶対昼間で疲れ果てるのに、狂信者だったりするのだろうか。
「委員長が後夜祭の進行を手伝ってくれる人を募集してたんだ。あと2人ぐらいいませんかーって」
「おい、何か嫌な予感がしてきたぞ」
「それで、楽しそうだったから希望したら、『伊折ちゃんね!オッケー!』って言って、君の名前が書かれたって訳」
呆れる。確かに自己紹介で嘘をついたのは悪かったが、あの人ずっと誤解したままだったのかよ。それ以上に、誰も訂正してくれないとかどうなってるんだ。
「もし後夜祭で君の名前が呼ばれて、本人がいませんってなったら、ただでさえクズ呼ばわりされた経験を持つ君の居場所が無くなるかもしれないよね。仕方なく"白渡蓮花君"も希望してたって伝えて、参加が決まったんだ」
「おい、その時点で誤解を解けば良かっただろ。しかも白渡蓮花君が参加するとか言う必要あったか?僕の評価よりも、まず委員長が大恥をかくリスクを考慮しろよ」
「それなら伊折君が訂正すれば良いじゃん。私はお叱りを受けたり、児玉先生が放置してそうな訂正作業を手伝いたくないからね」
一瞬戸惑うが、あのやる気の無い先生の顔を思い出し理解する。名簿のミスという問題が今になっても対処されてないのは、恐らく担当教師が確認を怠っているせいだ。陽キャに加え、まともに仕事してない大人から偉そうに文句を言われるのは流石に腹が立つ。
「まぁ私の責任ではあるから、罰ゲームを無し、というか後夜祭で処理してもらう事にするよ。それでいいよね?」
「...その罰ゲームって、数時間拘束されなきゃいけないぐらい重いものなのか?」
無駄話をした分にしては重すぎる。いくら知識があっても、彼女は刑事に関わるべきではない。