#49
勇気というか、勢いが出たのは翌週になってからだった。
「お前、ステージ発表やるらしいな」
「......」
もうすぐ高校に着くバスの中、隣の黒瀬に話しかける。十数日ぶりとなる"いつもの会話"を試みる。
彼女の決定に口を出す気は無い筈だった。だが、好奇心と、妙な空気の息苦しさが僕を動かした。
「...別に良いじゃん、やりたいんだから」
「...そっか、頑張れ」
黒瀬はこちらではなく、下を向いて答える。その様子に配慮した訳では無いのだが、無意識に話を終わらせてしまう。
"やりたい"なんて言葉を彼女の口から聞いたのは、いつ以来だろうか。初めて聞いたかもしれない。あまりにも無縁だったせいで、なんと返せば良いのか分からなかった。
「......」
「......」
結果は逆戻り、もしくは悪化か。少なくともあの妙な空気は消えていない。黒瀬は下を向いたままで、話をしてくれる雰囲気では無い。内容はともかく、一応答えを得られた事だけが唯一の収穫だった。
黒瀬にとっては、"やりたい"だけでも十分な理由になるのかもしれない。分かっていない男が、分かっているかの様に結論づける。
ずっと一緒にいた奴の気すら晴らせないのは、僕らしかった。何せ田舎の狭いコミュニティで、自分の都合で人間関係を絶った野郎だ。1年以上経ってクラスに馴染めていないのも納得がいく。
白渡は僕の事を『変わらない』と言った。短い付き合いの奴でも人の特徴が分かるのに、僕には黒瀬が変わったのかそうでないのか判断出来ない。
アナウンスが聞こえる。今日も無言でバスを降り、学校まで重い足を運ぼうとした、その時だった。
「...先輩も出るんでしょ、れん...白渡さんと」
「は?」