#46
白渡を放置すれば、筆談殺しと呼ばれた汚い字が晒されるだけでなく、こいつの犯罪行為を助長することになりかねない。大体、奴からは逃れられない。目をつけられた時点で、懲役刑は確定していたのだ。
そう自分を納得させ作業に取り組み1週間経過。やはり怠い。早く帰らせて頂きたい。授業を受けるだけで疲れるのに、学園祭の仕事なんかやってられるか。
「何ぼーっとしてんのよ!早くやりなさい!」
「...うっさ、20µPaより小さな音で叱ってくれ」
後ろからヤジを飛ばしてくる少女は瑠璃垣杏里。生徒会役員らしい。
「その意味分からない返しを考える頭と暇があるなら、そこの書類の整理でもしなさいよ」
「おいおい...そこは"人間には聞こえねーよ!"ってツッコむところだろうが。黒瀬でもやるぞ」
「どうしてアタシが怒られてんのよ...」
不幸な事に、このうるさい同級生の指揮下で働かさせられていた。僕はガラスのハートの持ち主なので、怒鳴り声はかなり傷つく。これ以上叫ぶなら良い精神科を紹介して頂きたい。
仕方なく、ステージ発表の申請書に目を通す。人数、使用器具、希望時間などをチェックしながら、不備がないか確認していく。
「......」
歌、ダンス、漫才、劇...クラス発表の話し合いでも思ったが、学生達はあまりにも活発である。
自然とやりたいことが浮かぶのか、自分を誇示したいのか、行事を楽しむのに必要なのか、とにかく思い出を作りたいのか。彼らの思考回路は分からない。
「.....?」
まぁ、理由が何であれ、僕には関係無い。そう結論づけていたのに、とある紙に書かれた名前が、僕の頭を再び働かせた。
「黒瀬...楓?」




