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#43


「隣、失礼するね」


 彼女は確かに隣に来たが、腰掛けはしなかった。そのままもう1度、スイレンとやらに向かってシャッターを切った。


 知らない子だった。大体この辺の人なら、こんな所で写真を撮ったり、祭りに目立つ洋服で出歩いたりはしない。


「今日は、いつも一緒の子は居ないの?」


 いつも一緒というと、あいつの事だろう。どうやら、僕が一方的に知らないだけの様だ。


 実際、よくある事だった。親戚の集まり、地域の集会、小学校の授業参観でも、僕に話しかけてきた大人の殆どが誰か分からなかった。田舎は人同士の繋がりは濃いが、僕からは手を伸ばさなかったし、伸ばせなかった。


「朝から熱出して寝てますよ。まぁその前から調子悪そうだったんですけど」


「ふーん、そうなんだ」


 そこまで言って、ようやく座った彼女。少し気恥ずかしくて、顔を背ける。


「ねぇ、今暇そうだね。遊ばないの?」


「いや...もう店は回り切ったし、でも親の仕事が終わらないと帰れないし」


 それは事実だった。地域総出でやっている為、家にいる人は殆どいない。


「...残念そう」


「は?」


「君、何か残念そうな顔してるよね。実は何かしたい事があったんじゃないの?」


「......」


 答えず、黙り込んだ。


 なんて分かりやすい反応だろうか。今なら少しは誤魔化せただろうが、幼い僕はあまりにも素直だった。


「祭りって出店だけじゃないよね。踊りとか、ステージでのゲームとか色々あるじゃん。大体、出店に全部行ったらしいけど、手元に何も無いのはどうして?」


 実は、金すら持って来てない。そもそも僕は何も買うつもりが無かったから。


「...大人と話しに行っただけだからですよ」


「...へぇ、そうなんだ」


 満足そうに頷くと、彼女は立ち上がった。


 そして、突然、訳の分からない事をし始めた。


「あのさ...トイレってどこ?」


「はい?あそこですよ、ステージの奥の...」


「指さされても分からないって。ねぇ、連れて行ってよ。あ、そうだ、ついでに私と回ってくれない?正直ここの祭りについてあまり知らないから」


「え、いや...って、ちょっと!」


 強引に腕を引かれ、神社へと戻らされる。


 その時の彼女の笑顔を、今に至るまで思い出せなかったのは、どうしてだったのか。

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