#42
涼しくない風が吹いていた。
毎年夏祭りには来ていたが、1人で回るのは初めてだった。寂しいのだろうか、出店巡りは早々に切り上げ、近くの池の縁に座り込んでいた。
池には種類の違う2匹の水鳥がいる。いつも一緒にいて、偶に池の側を通る度に心が温まる光景を眺められた。そういえば今は、いつの間にか1匹になっていたっけ。
しかし、何処かに行っていたのか、暗かったせいなのか、その時彼らを見つけることは出来なかった。代わりに目についたのは、名前の知らない白い花。見える範囲ではたった1つ、ぽつんと浮いていた。
「......」
田舎人は生物とか植物とかに詳しいイメージがあるかもしれないが、残念ながら僕に全く知識は無い。多分、都会人より無い。
テレビ中継上の野球選手と違って、近くに名前や特徴が書いてないからだ。幾ら触れる機会が多いからといって、それを知る事には繋がらない。
突然パシャリとシャッター音が聞こえ、同時に目の前が光る。
灯の少ない南葛城である。内心相当びっくりしていた。飛び上がりそうな身体を抑え、後ろを向く。
「スイレンだね。花言葉は... 清純な心、信仰、そして信頼だって」
少女が1人、立っていた。今ではなかなか見かけない使い捨てカメラを握った彼女は、黒いスカートを揺らしつつ、僕に話しかけてきた。