#40-2
「......」
当然、身体は動き出す。
頑張る訳が無かった。僕は今まで面倒な事は避け続けてきた。誰が相手だろうと、その習慣を変えはしない。
「...って、伊折君?あの、すみません!」
慌てて駆けてくる足音が聞こえる。きっと、僕には何人かの視線が向けられているだろう。
しかし、振り返りはしない。彼女に応える気力も資格も、今の自分には残っていないのだ。
「伊折君、どうしたの?そんな心が折れたみたいな表情して」
相変わらずの笑顔で尋ねてくる白渡。普通にしているつもりだが、彼女には何かが見えているのだろう。
「心が折れてるのはいつもの事だ。大体、僕は筆とか骨とかウェハースとか、色んなものを折ってるからな」
「早く折れて私と付き合ってよ」
「僕が能動的に折ってないじゃん。拒否する」
彼女との会話は疲れるが、気負うものは何も無い。だから、僕は白渡との絡みを受け入れてしまっているのだろう、きっと。
「そうだ、今、伊折君にピッタリなあだ名を思いついたよ」
「あだ名?呼名で人格を晒されるのは困るんでやめて頂きたい」
「"折り神"だよ。かみは紙じゃなくて、敬われる方の神ね」
僕の話は聞いてないようだが、まぁどうでも良い。それより、なかなかイカれたあだ名を出してきやがった。
「何、僕の名前をからかってるの?それとも、折り紙は裏が白いから私だよってこと?」
「そうだよ」
即答される。流石に、呆れた目で見つめる。
「いやいや、冗談だよ。伊折君が色んなものを折ってるって言うからだって」
「何か言い方が物騒だな、これからは程々にしよう」
言葉では答える。
しょうもない嘘だと頭では分かっている。でも、それで良い。そのせいで何かが変わったりする訳では無いのだから。
別に、変わらなくて良い。僕が僕でいられれば、それで良い。
「でもね、伊折君。折り神は折ってるだけじゃいけないんだよ」
そんな考えを遮るように、彼女は話す。
「折り紙って、折られないと立てないよね。折り神も同じで、多分何処かで折れないと、いつまでも神ではいれないんだよ」
そう言うと、白渡は僕の前に手を差し出した。
「...アプローチの仕方の問題じゃ無いから」
「あらあら、それは残念」
手を取る事なく、歩き続ける。
相応しい人間になる時がくるかもしれないが、やはり"伊折"は僕らしくない。夕暮れの空を眺めながら、そう、ぼんやりと考えていた。




