#38
『いおりだいまおうをたおせ!』
僕が黒板に文字を書いていくと、読み上げる声や笑い声、話し声等様々な声が聞こえてくる。
振り返ると、児童達をしっかり見渡す事が出来る。前の子の机の落書きから、後ろの子の組んだ足まではっきり分かる。そして、不思議そうに黒板を眺める榮子も見える。
今後授業を受ける時は気をつけよう、そう思いながら、彼らに向かって話し出す。
「皆んな、大変だ!恐ろしい"いおりだいまおう"が、みんなの住む地球を侵略しに来たぞ!」
僕が全力で呼びかけると、教室全体が笑いに包まれる。世界の危機なんですが。
「だ、だけど...僕はいおりだいまおうの事は噂で聞いただけで、奴の姿は知らないんだ。皆んな!奴の似顔絵を描いて、僕に教えてくれ!」
先生に協力してもらいながら、1人1人に紙を配っていく。全員に渡した後、説明する。
「皆んなにはいおりだいまおうの似顔絵を描いて欲しい。どんな顔かは分からないから、みんなが思う顔を描いてね。ただし、このタイマーが鳴るまでに描くこと。それと、他の人と話したり、絵を見せ合ってはいけないよ。それじゃ、スタート!」
陰キャが慣れないことをしているからか、既にしんどい。でもとりあえず、児童達は真剣に顔を描き始めてくれている。
僕の授業では、オリジナルのゲームをすることにした。基にしたものは一応あるが、ルールは自分で考えた。パクりではない、筈。
タイマーの音で鉛筆を止めさせ、紙を回収する。
「皆んな、いおりだいまおうの顔を教えてありがとう!だが...いおりだいまおうは怖い奴なのか?優しい奴なのか?好きなものは?特技は?」
児童達が再びお喋りを始める。彼らが授業に乗ってくれていて嬉しい。
「いい?今から皆んなに、誰かが描いてくれたいおりだいまおうの似顔絵を渡すから、その顔を見て奴の性格や特徴なんかを書いて欲しい。いおりだいまおうの事なら、どんな内容でもいいよ。ただし、今回も誰かと話しをしたり、見せ合ったら駄目だからね」
そう言って、集めたいおりだいまおうの似顔絵をバラバラに配る。そして、顔の隣に設定を書き加えさせる。
僕のゲームは、前にかいた人の情報を参考にしながら、全員で1つのキャラクターを創り上げるというものだ。特殊な連想ゲームとでも呼べば良いのか。後で担任に説明した時には、子供達の想像力や文章力、論理的思考を云々とか話しておいた。
当然、そんな事は毛頭考えていない。
榮子を見る。言ってしまえば無駄な授業だが、普通に取り組んでくれている。
しかし、正直彼女がここまでどうしていようが関係ない。肝心なのはここからだった。




