#E-1
「今日から皆さんの先生になる、新色伊折です。名前はあまり気にしないんで、いおりんでもにいちゃんでもハーミテージでも、なんとでも呼んでください」
先生の顔は笑っていた。この学校の卒業生である彼は、教室を懐かしそうに見渡していた。
でも、昔見たはずの笑顔とは何処か違っていて、もしかしたら、なんて思ってしまった。
「はい!せんせいはすきな人いるんですか?」
「おぉ、小3で恋愛に興味があるなんて恐ろしい...いらないかな」
「せんせいサッカーとくい?」
「キーパーやった時に色んな人から蹴られたから、ボール役なら任せろ」
次々と質問に答えていく先生。収まってきた所で、私も声を上げる。
「先生、休み時間に勉強教えてくれませんか?」
「勉強?いや、僕なんかより...」
「そうでした!伊折先生は中学校でテストがよく出来ていると聞いています。皆さん、ぜひ授業中も伊折先生に質問して下さいね!」
担任の先生がそう告げると、再び教室が盛り上がった。そして、ようやく確信した。
今まで色んな先生に勉強を教えてもらってきたけど、時間が無かったり、そもそもよく分かっていなかったりであまり意味が無かった。
お母さんは、田舎の学校の先生だからだと言っていた。学校での勉強だけでは私が行く予定の中学校には入れないから、塾に通わせていると話してくれた。
だから、先生の事はあまり信用していなかった。だけど、あの頃彼らが褒めちぎっていた男の子の話だけは気になっていた。
頭が良くて頼りになる、何を任せても心配いらない、おまけに行儀が良い、らしい。
彼の姿はしょっちゅう目にしたが、あまり会話出来ずに卒業してしまった。今の私の"理由にしている"存在と再び会えたのは、偶然であり、幸運な事だった。