#36
「出来ますでしょう?息子だって中学受験はしてませんけれど、今まで教えていましたよ」
「...それ、本当に教えられてたの」
黒瀬が口を挟むと、母親は呆れたように声を出す。
「当たり前でしょう?高校生なら小学生向けの問題なんて出来て当然です。そうだったでしょう、榮子?」
「は、はい。そうです」
話を振られると思っていなかったのか、彼女の返事が一瞬詰まった。
白渡はいつもの笑顔のまま、問いを続ける。
「では、もう1つ。楼隠の受験をすることを決めたのは、恐らく本人ではないですよね?」
白渡の視線の先は、母ではなく、榮子がいる。榮子は驚いた様子で、白渡を見つめる。
「どうして楼隠でなければいけないんですか?楼隠へ行く事が娘さんの為になるなんて、どうして言い切れるんですか?」
声色はいつも通りのまま、問い詰めるような言葉遣い。怒っているのかと思ったが、外見からそんな様子は感じない。
「......」
そういえば、僕はこいつの親を知らない。もしかしたら昔授業参観とか運動会とかに来ていたのかもしれないが、クラスメートの親に興味は無かった為記憶にない。
「そうね...」
「......」
きっとなんかあったんだろう。そうに違いない。表情を隠してるだけで、いじめとか何かがあったんだ。
「あたくしの親はもともと...」
「ま、まってお母さん!」
「......っ」
気を逸らし続けられなくなり、握られていた手に力を込める。
気付けば、黒瀬は僕に寄りかかる程近づいていた。彼女はまた、不安そうな顔で僕を見ていた。