#33
向かうと、黒瀬と小、中学生ぐらいの女の子、そして女の子の母親らしき人が話していた。母親は黒瀬に何かを頼み込んでいる。
知らない人なら通り過ぎていたが、さすがに彼女を無視する気にはなれなかった。あんな事があったとはいえ、幼馴染であるのは変わらないのだ。
「黒瀬か。どうしたんだ」
「...先輩。困ってる」
「黒瀬が他人と長話しているときの4、5割は困ってるからな」
「...先輩も変わらないよね」
黒瀬は今まで通り、無表情で話を続けてくれる。その態度に一旦安堵するが、まだ落ち着かない。
ちょっとだけ、彼女の声が暗いのに気付いたからだろうか。ちょっとだけ、彼女の目が自分から逸れているからだろうか。軽く胸が締め付けられる。
「伊折君、試してみようか」
唐突に、白渡が黒瀬の前に出る。そして、いきなり告げる。
「楓ちゃん、せっかくだし私と遊びに行かない?」
一瞬固まった後、黒瀬が白渡を見つめる。今度はしっかり白渡の目を捉え、答えを考えている。
「......」
「......」
いつかの様に、空気が重くなる。
僕は未だに、彼女達の関わりについて知らない。この空気が何を示しているか分からない。
しかし、白渡が言った通り、黒瀬は断る様な気がする。この息苦しさは、それを示唆している様な気がした。
「...私は、その」
「あのぅ、貴方達も高校生の方でいらっしゃいます?ちょっと頼みを聞いて下さいませんか?」
返事を遮り、不安そうな顔をした母親が娘を連れ近づいて来る。
黒瀬は僕の方を向き、隣に来る。近くにいるのに、彼女はさっきより僕から目を逸らしていた。