#32
部屋が片付くと、白渡は急に立ち上がる。
「伊折君、散歩にでも行く?というか、行くよ」
「嫌だ。今日は散歩日和じゃない」
「伊折君にとって、散歩は土砂降りの日に行くものなの?早く立って」
白渡は僕の手を掴むと、そのまま引っ張り出す。家へ勝手に入って中の人を連れ出すとか、やっていることはほぼギャングである。
それでも抵抗する気が起きないのは、きっと僕が流されやすい人間だからで、彼女に惹かれていたからではない、と思う。
旅行で都会を歩いた事はあるが、田舎で生きる人間としては、正直あそこで散歩は出来ない。
道路は平気で真ん中を通れるし、自転車や歩行者を気にするは殆どない。騒音はたまに通過する車の音だけで、何も考えず歩く事が出来る。
ダラダラと道を進む。隣を歩く彼女は声を発さず、ニコニコした顔でこちらを見ている。
「...何処まで行くんだ。ちなみに南葛城から出ると爆発する」
「それじゃ、南葛城120周ツアーでもしよう」
「僕の死体を運ぶつもりか?死後に晒すのは骨と名前だけにして頂きたい」
「死なせないよ。伊折君は命の危機なら、柿を食べて喉の渇きを凌いでくれるでしょ」
「確かに食わなかった武者は切られたけど、多分食っても変わらなかったと思うんですが」
健康なうちに身体を大切にしよう。そう考えながら歩いていると、奥に、見知った少女が立っているのを確認出来る。