#27
「お願いします、ラブレターを代わりに書いてください!」
中学2年の夏、部活の後輩に突然頭を下げられる。
「色々頼む相手考えたんですけど、新色先輩しかいないんです!お願いします!」
「お前人を見る目無さすぎるだろ」
そもそもこいつが誰かよく分からない。当然、好意を寄せる相手も知らない。ラブレターを書いたことも無い。
「ラブレターって自分の言葉で書くんじゃないの?僕の字汚くて読めないだろうし」
ただ、年下に無茶振りされるのは嫌いじゃない。日頃の努力のお陰で、教員や同級生からは敬遠されているが、彼らはそんなことを気にせず突っ込んで来る。しかも、こいつらの頼みは昔とは違い、真面目にやる必要も期待に応える必要も無い。彼らは僕を安全策としてではなく、適当な人付き合いの1つとして選んでいるからだ。
黒瀬も見習って欲しい。
「いいっすよ、だって俺自身相手の事よく分からないですし、多分あの人も同じっす」
「冒険家だなぁ、んで、そいつは誰?」
「3年の主膳寺苺先輩です」
「知らんな、とりあえず赤字にすれば良い?」
「はい?何言ってるんですか?」
ペンを取り出し、僕が思うラブレターっぽい言葉を書いていく。可愛いとか美しいとか入れれば良いか。
「出来たぞ、謝礼は5000兆円な」
「嫌です...あの、何でところどころ緑色にしたり、ローマ字になったり、下手な絵を描いたりしてあるんですか?」
「何とか先輩はお前の事知らないんだろ?ラブレターぐらい印象に残るものにするべきだ」
「赤字で十分ですってば!」
「目が痛いし」
文句を言いつつ受け取る後輩。凄い奴だ。
「これ俺のだから良いですけど、先輩が送る時は、しっかり自分の気持ちを書いて下さいよ?」
「書いてない奴に言われるのは心外だが、僕がラブレターに触れる機会はもう無いから安心しろ」
そのまま、想い人のもとへ駆けて行った後輩。
なんだかんだ人気者になり、1ヶ月後に同学年の彼女が出来たらしい。人生は不思議なものである。