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#26-2

「...共に苦難を乗り越えてくれる奴」


 言い捨てると同時に、記念品を強引に持たせる。そのまますぐ、自分の列に戻って行く。


 言えなかった。黒瀬の悲痛な顔を見て、耐えられなかった。人の言葉を勝手に使って、大切な時に逃げ出した。


 座るや否や、下を向いた。1年生の方も、生徒会の方も見れなかった。自分は何をやっているのか、自責と羞恥に苛まれていた。



 新入生歓迎会の前半が終わり、用がない上級生は帰宅している。僕と白渡も、バスに乗って駅に向かっていた。


 白渡は相変わらず笑顔を浮かべている。こいつには何か楽しいことでもあるのだろうか。


 何となく、黒瀬にした質問をしてみる。 


「白渡、学校は楽しいか?」


「私?好きな人と毎日過ごせるから楽しいよ?」


 白渡は表情を変えずに答える。なんでこんな発言を平気に出来るのだろうか。お陰でバスの雰囲気は最悪だ。


「僕は知らんけど、好きな奴と一緒にいるってそんな良いことなの?」


「当たり前だよ、伊折君、感受性足りなさ過ぎない?今すぐ私を好きになって、この思いを実感すべきだよ」


 白渡に呆れられる。どうやら僕の感性の問題らしい。黒瀬には豊かだって言われたのに。


「ねぇ、伊折君は呉越同舟って言葉、知ってるよね」


「突然何だよ、人間の生存意欲はやたらと高いって話だよな?」


「そうそう、それって、仲の悪い呉の人と越の人同士でさえも助け合うって話だったじゃん」


「まぁ、仲良しが出てたらただの良い話だからな」


「それさ、納得いかないんだよね。私だったら死にそうでも、嫌いな人と全力で助け合えないよ」


 真剣な目で話す白渡。共感出来ないと思いながらも、白渡の話を聞く。


「私、昔は無気力な人間だったんだ。何をしたって無駄だと思っていたし、誰かが手を貸してくれても、途中でその手を離しちゃってた」


「接着剤が足りなかったんだな」


「伊折君の口元に付けてあげようか?...でもね、そんな私は、ある人と出会って変わったんだ」


 そう言うと、白渡は大きく息を吸い、再び僕を見つめて話し出す。


「あの時、一緒に頑張れると思える相手に出会ったんだ。それで、今の私がいるの」


 彼女は笑顔のまま。しかし、さっきまでとは少し違う、暖かさのある表情。幸せそうな顔をする彼女に、少し惹かれてしまう。


「だから、私は呉越同舟なんて信じてないんだ。伊折君はどう?」


「そうだな、僕も信じてない」


 ちょっとだけ鼓動の音が強まるのを誤魔化すように、口を動かす。


「僕は嫌いな奴とでも、そうでない奴とでも頑張れないからな。そもそも、共に頑張るような相手がいないし」


 バスは進み続ける。去年よりずっと濃密な入学直後も、なんだかんだで学生の日常に戻っていく。

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