#23
購買のパンをちまちまと食べる黒瀬。
色々言う気はないが、彼女があまりに少食なのは心配になる。僕も食べない方だとはいえ、これだけで生活していけるのか。
会話は無く、時々視線が合う。いつもなら何とも思わないのに、少し、意識してしまう。
白渡との関係を、僕は聞くべきなのだろうか。
今まで黒瀬の個人的な話を耳にする事はあっても、直接尋ねる事はあまり無かった。というか、質問するのを避けていた。なぜなら、少なくとも彼女独自の事には、彼女の為に、僕が関わらないようにしようとしたからだった。
それなのに、白渡には尋ねてしまったが。
聞いたところで何かを得られる訳でもないし、逆に相談でもされたりしたら目的に違反してしまう。どうすべきかなんて明白なのに、白渡の言葉に囚われた僕はつい、"遊んでくれない"理由を確かめたくなってしまう。
「なぁ」
「...どうしたの」
「その、白渡の事って、どう思ってる?」
「......何その、女子同士で恋愛相談する時の切り出し方みたいなの」
「え、それ美少女ゲームの話だよな?それよりさ、昨日お前ら気まずそうだったし、今後も僕の前で修羅場やらされたら、巻き添えで僕も喧嘩腰になるかもしれないだろ」
「...感受性強すぎるんじゃないの」
「まぁ、僕にはどうにも出来ないけど、関係だけでも知ってれば気が楽だしな」
白渡には負けるが、屁理屈だけは良く浮かぶものである。昨日も口が動きさえすればどうにかなったかもしれないのに。
黒瀬は少し下を向く。数秒して、一言だけ告げる。
「...ちょっと憎い」
「......憎い、か」
彼女から、これ程強い言葉を聞いたのは初めてだった。
憎いから、遊ばない。確かに理屈としては通じる。しかし、肝心な所が抜けている。何故?黒瀬にとって、白渡の何が憎いのか?
才能、名声、容姿、性格...候補を挙げることは出来る。でも、この答えでは他の可能性、僕にとっては違っていて欲しいと思う内容を否定出来ない。
黒瀬を見る。相変わらずの無表情で、何も分からない。
「...学校は楽しいか?」
話題を変える。僕も、どうやら分かろうとしていない。
「...楽しいよ、今は」
含みを持たせた答えを、どう捉えればいいか。今の僕は、考える気にはなれなかった。