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#14

 そのうち、黒瀬の番が来る。


「...1年6組黒瀬楓、よろしく」


 早い、暗い、聞こえない。


 周りの視線を集めるだけの容姿をしているのだから、少しぐらい他人の気を引くような事を言ってもいいのではないか。いや、逆に寡黙だからこそ良いのかもしれない。


「...何」


 大衆心理の妄想をしていたつもりだったが、気づいたら黒瀬と目が合っていたようだ。無表情のまま彼女に話しかけられる。


「年々高速になってるよな」


「...先輩に言われた通りにしてるだけ」


「まぁ...そうだけど、10年ぐらい前の話の責任を取り続けるのは大変だわ」


 その通りで、あの自己紹介の方法を伝授したのは僕である。


 保育園の頃、その月に誕生日がある園児に向けたお誕生日会なるものがあった。その時1人1人壇上で自分の名前を話さなければならなかったのだが、中には人前での話がどうしても出来ない子がいる訳で、ある子の番のまま進まないなんてことが頻発していた。


 黒瀬もその1人で、重い空気の中、園児や保育士の注目に晒されていた。今では滅多に見ない涙目で助けを求めていた為、僕が派遣されることになった。


『かえでちゃん?』


『...いおりくん...どうしよ...』


『だいじょうぶだよ。たぶんせんせーはじこしょうかいとかきいてないから』


『...えぇ...』


『いい?こういうときはさっさとてきとうにやるんだよ。さくらぐみにいいろいおりよろしく、みたいに』


『...さくらぐみにいいろいおりよろしく』


『......たんぽぽぐみくろせかえで、よろしく』


 何故か名前を奪われたが、その後の黒瀬は本当に自己紹介を"さっさとてきとうに"やるようになった。詰まることは無くなったが、彼女の社会参加を阻害したのなら申し訳ない。


「...じゃあ今後は次の先輩の自己紹介を参考にする」


 おぉ、それは良いかもしれない。高校生ならともかく、今後大学や社会人であれを続けていくとなれば面倒事になりかね無い。


「なるほどな、注目しとけ」


「伊折君、私やるからね」


「お前は突然何?許嫁はやめろよ」


 やたらと自信ありげな白渡にも話しかけられる。もうこいつの番?次の僕にプレッシャーをかけない程度にして欲しい。


 白渡は勢いよく立ち上がり、言った。


「2年6組の新色伊折です。好きな事は耳かき、嫌いな食べ物は葱鮪、座右の銘は遵養時晦です。あと白渡は僕のものなんで、そこんとこよろしくね」


 遵養時晦とか、僕が高校受験の面接の為に適当に調べた言葉だぞ。こいつよく覚えてるな。

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