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ユグドラシアの麓にて  作者: どらいあい
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第1話『ユグドラシアを目指して』

バニーと言う謎多き美少女な女執事を連れて草原を進む事しばらく。

彼女が言った通り細い道っぽいのにたどり着いた。

舗装はおろか石畳すらない地面を晒した田舎の山道みたいな道である。

まぁこれから山に入ったりするのだからな仕方ないよな。

山登りとか小学校の時以来である、歓迎遠足ってヤツの一環だったっけ。


「それではこれからこの道に沿って行きますよ、一時間も歩けば山に着きます。そこで休憩して登山開始です」

「あのー登山は良いんですが、それだと山の上の方で夜になったりしません?」

「しますよ?まぁ夜はキャンプで野宿と行きましょう」

「キャンプ用品なんて何もないよ?」


山に登ってキャンプして野宿とか、連休とか余裕で取れて給料もいい社会の勝ち組にしか許されない行いである。貧乏がスタンダードな社会の底辺には無縁の話だ。


それにこの世界はモンスターとか普通にわく世界である、どう考えてもろくな事にならない。

普通は日のあるうちに町とかについて、安全な宿とかにでも泊まるのがロープレの定番だろ。

しかし旅の指揮権は残念ながら目の前の美少女にある。


何故なら彼女はモンスターを瞬殺出来るくらい強くて、俺はモンスターに瞬殺されそうになるくらい弱いのだ。

ここはこの世界の情報を持ち、さらに自衛の力も持った彼女について行くしかないのだ。


まぁ大丈夫だろう。しばらく歩いても他にモンスターとか出てこなかったんだ。

案外ゲームよりもリアル異世界はモンスターとのエンカウント率が低いのかもしれない。


「キャンプ用品ですか?それなら私が何とかしましょうか?」


今、何て言ったコイツ。


「何とか出来るんスか?」

「それくらいならまぁ何とでも……っあそう言えば慎司さん。喉とか渇いてませんか?飲み物要りますか?」


要ります。超要りますよバニーチェさん。


彼女が魔法を使うと彼女の手のひらの上に小さな魔法陣が現れた。

そしてその魔法陣から当たり前の様に缶ジュースを出してきた。

まさか異世界で缶ジュース(しかもオレンジ味)をいただけるとは。


「飲んだ空き缶は私に、此方で処分しますから。はい」

「どうもっいただきます」


まさかあんな感じで色々な物を出せるのか?完全に未来のロボットに搭載されるお腹のポケット見たいな能力だ。

万能である。何処まで物を出せるのかは分からんけど。

渡された缶ジュースを一口飲む、美味い。俺が知ってるあの味だ。


「美味いです。それと何とでもなるって言うと、どれくらいの物までが何とかなるんですか?」

「まぁ流石に車とか飛行機とかはダメですよ?実は私もこの世界で貴方のサポート役になったその時に力や能力を殆どを制限されてしまって、あんまり大きな事は出来なかったりします」


成る程、制限ありきで考えろって事か。

しかし殆どを制限されてる?それでもこの余裕なのかよ、実はコイツ自身がチートキャラじゃないか?。

……しかしそりゃあそうだわな、少し考えればそんな何でもありなんて話はない。

むしろ多少なりとも手助けしてくれる意志があるだけバニーには感謝しなければ行けないのが俺の立場である。


確かに今はそんな立場に甘んじるしかないのが事実だ。しかしずっとこのままなんてのはあり得ない、貰った能力を生かして必ずこの異世界で再就職を果たして、安定した生活をゲットして見せるぜ。


前の世界では安定とは無縁の仕事だった俺だ。

交通誘導員って一年を通して安定して仕事がある仕事じゃないんだよ。四月と五月は特に仕事がなかったなぁ。

故に今度の仕事はその辺りを吟味して就職したい。異世界での再就職先の斡旋所とかあるのか?。


「?、どうかしましたか慎司さん」

「え?何もないですけど?」

「そうですか?何か変な物を飲み込んだ人みたいな顔をしていましたよ?」


何だよそれ、どんな顔だよ。


◇◇◇


踏み固めなれた道を進むとやがて少し急な坂道が見えてきた。

あそこから山道になるんだろうな、道中とかに変な森とかなくて一安心だった。


何せここは勝手も知れぬ異世界だ、見た目普通の森でも住み着く虫の類いがあちらの世界とは一線をかくす場合があるかもしれない。


デカイムカデとかゲジゲジ。

カラフルでキモい動きをするイモ虫。

ああっダメだな、そんなものと遭遇したりしたらキモすぎて気が狂ってしまいそうになる。


読み物でさ、ファンタジーな世界の森で平然としながら生活する主人公とかいるけど、あれ絶対にヤバい虫とかいる筈だろ?。


その手の描写が全くないヤツとかご都合主義も大概にしろと言いたくなる。虫は常に俺達の側にいるんだ、ゾッとする話だよ。


何故にいきなり俺が虫に大してここまで敵意を示すのか、それの理由は単純だ。


「フシュウルルルルルルルルルル!」

「フシュウルルルルルルル!」

「フシュウルルルルルルルルルルルルルル!」


理由はひとえに目の前にいるこのデカくてキモくて赤と青と黄色のカラフルなムカデである。

虫まで鳴くとか勘弁してよ本当さぁ。

デカくてキモくて鳴く虫が三匹も目の前で通せんぼしているのだ。殺意が湧いても仕方ないだろ?。そして怖い、怖すぎるんですけど。


「あれはマゴニアセンチビートルと言うムカデ型のモンスターですね。そこそこ強くて素材も高めで売れますよ?」

「ムカデが高く売れるんスか?流石は異世界、狂ってますねぇ…」

「私なら余裕で始末出来ますから少し待っていて下さい」

「お願いいたします!」


俺は頭を下げて麗しき男装の英雄に出陣してもらった。


まるで散歩にでも行くように自然体で歩くバニー、デカイムカデ達は一体が正面から残り二匹は左右から挟み込む陣形を取る。


虫のクセに以外とものを考えてるか?あれを狙ってやってるとするとあれだ、頭も使うキモいヤツである。犯罪者か。


「それではさっさとかかって来てくださいねぇ~」


バニーの挑発が効いたのかは知れない。

しかし正面のデカイムカデは一気に距離を詰める、互いの距離がニ、三メートルの所でいきなりあのムカデが口から紫色の煙を吐いた!。


恐らく毒の息である、油断した。ゲームなら定番だと言うのに、完全に失念していた。


「!?……バニーさん!」


更に左右の二匹が突進をしながら突き進んで行く。

とどめをさす気だ。

俺はただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。


しかしその時だ。


蒼い光が紫色の煙を切り裂いた。

全ては一瞬であった、瞬く間に光はデカイムカデを全てをバラバラにしていった。


あの蒼光剣(クラウソラス)とかって言う自動で相手を切り刻む派手な光の剣だ。


そして煙が消えるとそこに佇むのはバニーだった、かすり傷一つなく平然としている。


「はいっおしまいです。どうしました慎司さん?また変な顔をしていますよ?」


変な顔とかしていない。

ただそんな真似が出来るんならああいう見てる人を驚かせるまねはやめてくれよ。心臓に悪いだろう。

俺が黙ってジッとバニーを見ていると。


「あっ!まさか私を心配しちゃってました?すみませんねフフッ…」

「…………………………………」


美少女の笑顔がこれ程ムカついたのは生まれて初めての経験だ。

俺が無言で歩みを進めると、何故か上機嫌の女執事コスプレのバニーが慎司さんこわーいっほほほほっとか抜かしながら先に進んでいった。


「登山開始前にここで休憩するって話はどうなったんだよ…」


ブツブツ言いながらも彼女についていく俺だ。


山道を行くっと言ってもよくある登山コースの様な道を行くわけじゃない。


魔法で異世界のよくある話で、物流は行商とかが馬とかを使って運ぶとかが定番ってのがこの世界でもあるのか、山道も幅は広めの緩やかな坂道が続いている。


ただ本当に少しずつ傾斜が上がって来ているのでいずれはそれなりに急な坂になるのだろう。

ちなみにあのムカデ以降も二度ほどモンスターとの戦闘があった。


名前は知らないけど見た目は大きなカエルが二匹来たのと赤いイノシシが四匹出て来た。

どちらもバニーさんがノリノリで光の剣でカットしていった。


遠目から眺めていて気付いた事は、バニーはチートは能力とかを異世界転移とか転生した俺みたいな連中に与える側だったからなのか、ちょっと俺の想像以上に強い。


流石は俺をポカして死んだ事にしたり、世界からいなかった事にしたりした神とやらを折檻した女執事だ。何者だよ。


もしかしたら結構偉い神様だったりするんだろうか?。

………まさかな、そんなのが俺の異世界生活のサポートとかナビゲートなんてやってる場合じゃないだろう。


きっとあれだ、彼女的にはちょっとした休暇気分で来ているとかそんなんだろう。見るからに趣味に生きてるって感じの女だし。


「慎司さ~ん、また休んでるんですか?」

「すんませーん!また俺の足に回復魔法をかけてください!」


足の疲労回復の為に回復魔法をお願いする。

使い方として間違っているとしても足が痛いと山をのぼれないのだから仕方ないのだ。


ああーっレベルとか上がって、ステータスも上がったら足腰強くなんねぇかな~。


所々でもたつきながらも何とか日が暮れる前に山頂に到着した俺達だ。

空は赤く染まり太陽(この世界のヤツの呼び名とかは知らないけど)と反対の方向にはうっすらと紫色の闇が見える。一時間もすれば夜になるだろうな。


山頂と言っても回りにあるのは草くらいで木々は見当たらない。踏み固めなれた道が山頂では少し広めに取られていて、円形の広場見たいになっている。


尚、登山コースの山頂見たく看板的なのは皆無だ座れるイスの類いもないので一日中歩いて棒の様になった足を休めたいのに地べたにあぐらをかくしかない俺だ。


「バニーさん。キャンプがどうのって話はどうなったんスか?調理道具もキャンプ用品ないですよね?」

「勿論今から出しますよ?ただまずは料理からですね。私もお腹が空きましたしね」


やっぱ出せるんだな、缶ジュースとか普通に出せるから大抵の物は出せんのかなって思ってたけどさ。


登山の最中も何回か飲み物を出して貰ったんだよな。缶ジュース以外にもペットボトルのも出してくれた、飲み終わった後のゴミはバニーが処分してくれると言うので渡すと魔法陣の中にポイポイしていた。


途中からバニーが喋って移動する自動販売機か何かに見えたりした。疲れていたんだろう、ゴミ箱も併設されていて助かった事は覚えている。


ただペットボトルはもしかしたら使えるかもしれないのでリュックサックの中に入れた、そして彼女が言う料理なのだが……。


「……何で俺が?」

料理とかしたこと無いんですけど。

「え~~だって今日私ばっかりモンスターと戦って慎司さんついてくるだけだったじゃないですか」


ぐっ…それは事実だ。仕方がないので料理をする。

とは言っても俺に料理のスキルなんてない。バニーが魔法陣の中から出してくれた諸々の道具で適当なクッキングをするだけだ。


地べたにまな板を置いてその上に肉を置く。

そして包丁で一口サイズにカットしていってフライパンの底を深くした様な調理道具に放り込み焚き火の上に持っていく。


焚き火とかを用意したのもバニーだ、キャンプ素人には火を起こす事すら出来なかった。

ちなみにこの肉、一体どこから来たのかと言うと、今日バニーが倒したカエルの肉である。


俺は生きているもの以外なら何でもそして幾らでも入ると言うチートなリュックサックを転生特典としてバニーから貰っていたのだ。こんな便利アイテム持っていて、目の前に倒されたモンスターの死骸があったのならやることは一つだろ。


俺は今日バニーが倒した全てのモンスターの死骸を回収済みである。

牛サイズのトリケラトプスのナイゴン。

そしてマゴ……それ以外は名前すら知らねぇわ、ムカデとカエルとイノシシだ。


何故に回収したのかと言うとモンスターを倒すタイプのゲームって大抵モンスターから素材を剥ぎ取ったりしてそれを金に変えるとかが定番だったりするし、場合によればそのモンスターの素材で新たな装備とかを作ったりする世界観かもしれないからな。


完全に無一文の俺だ。金になりそうなモノなら気持ち悪い虫系モンスターの死骸も集めるさ。


リュックサックを開けて死骸に向け、入る様に念じるとデカイモンスターが吸い込まれて行ったのにはビビった。

バニーがビビる俺を見てニマニマしていた、あの女執事の説明した通りにしたのが間違いだった。


そして調理をしているとバニーが隣に来て俺に話し掛けきた。


「うーん、流石にカエルの肉を焼くだけでは食欲がわかないのではないですか?」

「仕方ないでしょ、調味料も何もないんスから」


ぶーたれる俺にバニーはスッと何かを差し出してきた。


「フフフッそれならこれを使って下さい、玉ねぎと塩です!」

「おおっ!」


正にジャーンって感じで万を持して出してきたのは玉ねぎと塩だ。向こうの世界ならさして珍しくもないが正直、現状ではとても助かる。

何故なら肉は玉ねぎと焼いて塩をふるだけで美味しくなるものなのだから。

しかし一言だけ言わせてもらいたい。


「そんなのまで出せんのなら肉も頼んますよ。俺カエル肉とか食った事ないから豚肉とか欲しいです」

「ダメです。いいですか慎司さん?私が渡すものは嗜好品だと思って下さい。つまり贅沢にバンバン使うものではありません。慎司さんが生きる世界は既にこの世界なんですから、この世界の食べ物にも慣れていただかなくてはなりませんから。カエル肉は臭くなくて美味しいですよ?」


嗜好品って玉ねぎと塩の小瓶で何を偉そうに、しかし余計な事を言うと没収されそうなので我慢をして頷く。


「分かりましたよ、じゃあ肉も色が変わってきたから玉ねぎを切って下さい」

「ええ~~私も調理するんですか?」

「玉ねぎ切るだけでしょうが」

「目に染みるんですよ?これ」


知ってる、だからおたくにやらせんだろ。

そして完成するのはカエル肉と玉ねぎの炒め物的な何かだ。


味はなかなか悪くない、やはり肉は玉ねぎと塩があれば大抵美味くなるんだよ。

俺達は向かい合う形で焚き火を囲みながら料理を食べる。


「うんうん、初めての異世界メシと言った所ですが、やはり外で食べるからですかね?美味しく感じますね」

「あ~、確かにそれはありますね」


安アパートのせまい部屋で一人で食うのと比べると、キャンプみたいに外でしかも目の前にとんでもない美少女がいながらの食べるご飯だ。格別である。


まぁバニーが守ってくれるからこそそんな事を考えられる余裕が生まれるんだが、俺一人だとモンスターが当たり前の様に出てくるこんな場所でキャンプとか言ってられないと思う。


「正直な話、バニーさんがいなかったらこの異世界で1日目で死んでいたと思います、それに色々と世話になりっぱな…」

「へっぷし!」

「ちょっ!汚ね!最悪!」

コイツ!人が礼を言おうとしたタイミングで、ふざけんなよ!。

しかもくしゃみでとんだ飛沫が俺の服に……。

「なっ!?最悪って何ですか慎司さん!この私のつばとかが汚いとでも!?」

「いや汚いからなおたくのでも!ああー、服に染みが、もうっ最悪なんですけど!」

「なっなななな!?しっ慎司さん、貴方ってば本音が出るとわりと失礼な人ですね!」


そりゃあそうだろう、本音なんてそんなもんである。だから建前とかがあるんだよ。


◇◇◇


正直料理と言っていいのか怪しくなるくらいのお手軽クッキングで空腹を満たした俺達だ。


本当はまだお腹も一杯ではないが、万が一モンスターに襲われた時にお腹一杯で、動けませんとかで死にかけたらバカすぎるのでこのくらいが丁度いい。


満腹まで食うのはマグニフィアって名前の王都に着いた時まで我慢だ。

風呂にも入りたいがそんなのはないのでそれも我慢である、流石は異世界だ、現代人に次から次へと我慢を強いてくる。


ちなみに俺はバニーが魔法陣から出してくれたキャンプでの必需品、テントの中でゴロゴロしている。毛布も完備され大変助かる。

本当に何でも出してくれたよバニーチェさん。

夜風は少し冷えるのでこのテントはありがたい。


「慎司さん。良いものが見れますよ、外に出て見ませんか?」

「え?はっはい……」


夜なのに外に出るの?夜の闇に紛れて夜襲とかしてくるモンスターとか出ないだろうな。


「ちなみにこのテントの回りには私が結界を張ってるのでモンスターとか来ませんから、怯えてないで出て来て下さいね」

「おっ怯えてなんていませんよ!」


何でもお見通しな女執事だな。

バニーに呼ばれて外に出る、すると……。


「おおーっこいつは……」


俺の視界に飛び込んで来たのは、満天の星空であった。

日がある時は青空だったし夕方も前の世界のと大して変わらなかったから夜空も大して変わらないとか考えてたんだけど、いやはやこれはすごいな。

プラネタリウムの星を更に倍に増やしたくらいはある様に見える、正に星の海と言った感じだ。ここまで幻想的な星空は、田舎に住んでいた俺でも見たことがない。

あっ流れを星が、またあったぞ。スゲェ。


「フフッ綺麗でしょう?貴方のいた世界でも美しい夜空は見れますが、この世界の夜空も素晴らしいと思って、貴方に見てほしかったんですよ、それに今日の夜空は流星群が降る、星降りの夜でしたからね」

「いやいやっ俺のいた国じゃあこんな夜空は何処へ行っても見れないよ、本当に壮大と言うか雄大と言うか……あっまた流れ星だ」

「フフッ苦労して山頂まできたかいがありましたか?」

「ありますね、これが見れただけでもこの異世界に来て良かったとか思いますもん」


とにかく凄いっとかそんな感想しか出ないな、こんなに1日で流れ星を見たことが生まれて今まであったか?ないな。ボキャブラリーが少ないのが情けないけどそんな事すらどうでもよくなる程にこの流れ星の夜空は美しかった。


「…………!」


そしてふと気づく。

俺は涙を流していた。

………案外平気な気がしてたんだが、どうやら一段落して、色々と精神的にくるものが来たらしい、例えばもう本当に元の世界に、その世界に住む皆に会えない、それどころかどうやら俺の存在は完全に忘れられてしまっている。

最初はまぁ悲しむ連中がいないのならそれでも言いかっと思っていたが………。


「やっぱ、そう割りきれるもんでもないかぁ……」

「?、どうしました?慎司さん」


俺は速攻でバニーがいる方向とは逆の方に顔を背けた。仕方ないだろ若干ウルッとしてたんだからさ。


「慎司さん?」

「何でもないってば、気にしないで下さいよ」


そしてしばし星空と流れ星を堪能する俺達だ。

やがてバニーが口をひらく。


「さてっそろそろ眠りますか?流石にこれ以上の夜風は身体に毒ですよ?」

「そうっスね、俺ももう眠いんで寝ます」


言ってテントに向かう俺、バニーはもう一つテントを出していたのでそっちで眠るのだろう。

テントも一人様の小さなものだしそれが正解だとは俺も思う。しかし心の奥には残念に感じる感情がある俺だ。

テントの中に用意されていた毛布を敷いて寝る、何故か悶々とするのは何故だろう。


そして翌朝。

テントから這い出る様にモソモソとしている俺だ。

眠い、枕とかなかったから寝つきもあまり良くなかったのか寝不足だ。

しかし朝早いのか空気は冷たく、嫌でも目覚める、寒いな。


「あっ慎司さん、起きましたか?以外と早起き何ですね」

「まぁっ職業柄ですね」


俺の前職は起きてから現場が始まる前にその場所に到着してなければならなかった、車で二時間以上掛かる様な場所だと四時起きで五時には出るとかざらにあったからな。もっと早い時も何度もあった。

おっと昔の事はこの際どうでもいい、それよりも気になるのは……。


「あっ……」

「フフッここで一晩を明かした理由は、実はこれもなんですよ。綺麗な朝日でしょ?暁です」


そうっ言ってバニーがいる方を見るとこれまた見とれる程に綺麗な夜明けである。

更にその朝日と共にバニーがいるとこれまた映える光景となる、コスプレ執事でもやっぱり美少女とは得するものなんだろうな。


「そうっスね、本当に綺麗です」

「フフッそれはあのお日様がですか?それとも……」

「お日様です」

「あっ!即答は酷いですよ慎司さん!」


そんな感じでワチャワチャとする。

しかしいつまでもこんなに事をしている訳には行かないんだよな。


「さてっと、そろそろ行くんだろ?まだまだその迷宮樹とやらは山々のずっと向こうだし」


見ると地平線の先にうっすらと見えるアホみたいに巨大な大樹のシルエットが見えた。

徒歩でどれだけ掛かるのか旅の素人にはさっぱりだな。

やれやれっ俺の文明的な異世界生活が始まるのは何日掛かることやら。


「ああっそうですね。なら今日は私の魔法で空を飛んで行きましょう、数時間程でマグニフィアに着きますから向こうで必要な事を事前に説明し……」


おいっ今コイツなんて言った?。


「………あの、バニーさん?空飛べんですか?」

「出来ますよ?あれ、言いましたよね?ここで一晩明かした理由は慎司さんにこの日の出を見てほしかったってそれに夜空も絶好のロケーションで見てもらえたし、私は大満足です」


いやいや確かに綺麗だったけどさ、その為に足を棒にしながら1日掛けさせて歩かせたんか!?。

うわっコイツの笑顔が急にムカムカしてきたんですけど!?。


「それでは空を飛びますよー」

「なっちょっとま、あぁああああああっ!?」


バニーが指をパッチンとすると彼女と俺の身体が同時にフワリと空中に浮かんだ。

いきなり過ぎる、普通に怖いぞこれ。


「ちょっなってめっ!ふざけんなよ!落ちたらどうすんだこれっ!?おいっバニーさん本当に頼んますよ!?」

「フフフッ慎司さんはそのくらいくだけた感じで話される方が私は好きですよ?もちろん落とすなんて真似はしませんから。さあっ!一緒に空の人になりましょうか!」

「ぬぅおわぁああああああああああああ!?」


朝っぱらから絶叫しながら空を翔る事になった俺だ。

まったく、昨日の感動を返せと言ってやりたい。













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