プロローグ
「え?どこだよここ…」
俺は気が付くと何処とも知れない草原に突っ立っていた。
は?何だよこれ。俺、さっきまで普通に車を運転してたんだぞ?。
一度深呼吸をする。
すーはー、すーはー。
二度してしまった、そんな事はどうでもいいんだよ。
落ち着け俺、落ち着けよー俺!。
まずは頭がおかしくなってないかの確認だ。
俺の名前は森岡慎司。23才の童貞野郎。
アパート暮らしの社会の底辺。
交通誘導員の仕事、っまぁ殆どバイト見たいなもんだがそれが職業の彼女なし顔面偏差値、中の下人間だ。
うんっどうやら記憶力には何の障害もないな。
………あれ?なんか悲しくなってきてる自分を発見したよ?。
「って自分の冴えない人生に悲観してる場合じゃないだろ。そんで?現場に行く途中で、時間に余裕があったから車停めて仮眠とってた筈だ。それが何でこんな草原にいるんだよってか車何処だよ……」
車がないとか洒落にならないんですけど。
俺の仕事道具は全部車の中なんだぞ、あのピカピカ赤く光る誘導灯とかヘルメットとか制服とかさ!。
「アレがなくなったら、これからどうすんだよ……」
色々と混乱している。しかしいきなり知らない場合に一人ポツンとか、まるで……。
俺は頭に浮かんだある考えを咄嗟に否定した。
まさか、異世界にでも来たとか?イヤイヤイヤ、フィクションだからなアレ。
「けどっなら俺は何がどうしてこんな所にきてんだって話だよな」
酔ってた?まさか仕事前だし、そもそも俺は酒が嫌いだ。それなら寝ている間に誘拐とか?ん~こんな冴えない若者を?意味不明過ぎる。
そんな事を考えていた時である。
何かが近づく音がした。
草原だから草が擦れる様な音である、不意に気づきそちらを振り向くと……。
何か恐竜みたいなのがいた。
「ギュリリリリ!」
「………はい?」
対峙する恐竜は頭にトサカみたいなのがあるトリケラトプス見たいなヤツだ。
身体の色は図鑑とかで見る感じで身体の大きさは大人の牛くらいと、想像よりも小柄である。
しかしその瞳は敵意満々で直ぐ様、頭の二本の角で此方をブッ指してやろうという意気を感じる。
当然俺は完全にビビってる、マジで逃げ出す五秒前。
しかし熊とかライオンは背中を向けると襲ってくるとか聞いたので、なけなしの勇気を振り絞って何とか向かい合っている俺だ。
何で恐竜がいんだよ、意味が分からん。
「ギュリリリリ!ギュリリリリ!」
「ひっ!」
こんな威嚇すんのかよ恐竜野郎。
あの有名なジュラシックなパークとかワールドとは全く違うじゃん。
ってか恐竜が何で当たり前の様にいんの?。
色々とワケわかんないけどこのままでは危険である。
やがて小さめトリケラトプスが此方に突進を開始した。マジ勘弁。
「ギュリリリリ!ギュリリリリ!」
「のわぁあああああああああ!?来んなよーーーー!」
危険とか考えながらもいざとなれば全力で背中を向けて走り出す。当然だよ怖いんだし。
全力で逃げるが向こうがスピードに乗ると、元々あった距離とかないに等しい、瞬く間に追い付かれたぞ。
トリケラトプスの角が背中に迫るのを意識して、俺は訳もわからず死ぬのかと考えた。
「蒼光剣」
「……………へ?」
その時、突如としてトリケラトプスの頭上に蒼い光の剣が数本現れた。
その光の剣は一瞬でトリケラトプスを貫いた。
悲鳴すらあげる間もなく絶命する恐竜を、俺は見つめていた。放心状態ってヤツだ。
「いきなり災難でしたね。間に合って良かったですよ森岡さん、でしたよね?貴方の名字は…」
「っ…………!?おっ俺の名前!おたくは……?」
声のする方を見ると、そこには息を飲むほどの美少女がいた。
肩で切り揃えられた蒼い髪、何故か執事服みたいなのを着ているけど胸の辺りの主張がスゴイよな。
そしてとんでもなく美人だ、大人びて見えるけど、高校三年くらいか?そんな子が此方に歩いて来ながら話をする。
「いきなり失礼しました。貴方がナイゴンに襲われていたので先に片付ける事を優先させてもらいました」
「なっナイゴン?」
「あの牛サイズのトリケラトプスみたいなモンスターの名前です」
牛サイズ。貴方のお胸も牛サイズですねっとか言ったら俺もあの光の剣で殺られそうなので聞きたい事を聞く。
「モンスター?やっぱりモンスターなんスかあれ?ってここは……やっぱり」
「はいっここは貴方が先程までいた世界とは違う別の世界、所謂異世界と呼ばれるものの一つです」
異世界、異世界である。
まさかとは思ったけど、マジかぁ~。
「あの、何で俺は異世界に?」
「それは話すと長くなりますが。いいですか?」
「はっはい、お願いします」
多少長くなってもそこは聞きたいよ、当たり前じゃん。
「まず貴方は向こうの世界で死にました」
死んだ、やっぱり何かしらの要因で俺は死んでしまった様だ、アホな理由で死んで異世界に転生するとかラノベの鉄板だよな。
「しかしそれは、あの地球を管理するニ柱の神のミスでした。本来なら貴方は普通に生きていたんです」
それも知ってる。何か神様的な存在のポカで死んでしまった主人公、神様的な存在が詫びも兼ねてチートを与えて異世界で第二の人生をっ的なヤツだ。
「しかしその神達はそのミスを隠蔽し、貴方と言う人間が最初からいなかった事にしてしまったんです」
……………は?。
「お陰で前の世界に貴方の居場所はなくなりました。神と呼ばれる連中は無駄に大きな力を使って下らない事をするので厄介ですね。私としても……」
「ちょっちょっと待って下さい!」
「………はい?」
「え?俺、向こうの世界で居なかった事になってんですか?」
「そうです、貴方の親も同僚も貴方の存在を覚えていません、貴方自身も世界の狭間に幽閉されていたのを私が救いだしたんですよ?」
「あっありがとうございます」
何か救い出されていたらしいぞ俺。
「まぁその時に勢い余ってこの世界に飛ばしてしまったりしましたけど…」
何かぼそぼそと呟く女執事。
何となくだが気になることを言ってませんかね?。
「ああ、もちろんその神々は私がとてもキツイ折檻をしましたので、そして貴方を元の世界に戻す事はハッキリ言って出来ません、ですので貴方にはこの世界で生きて行ってもらわなければなりません」
「………マジっスか、まぁ別にいいですけど」
元々大して向こうの世界に未練もないし、何かしら評価されたりする立場でもなかった俺だ。
覚えていないってんなら悲しんだりする人も居ないのと言う事だろうし、むしろ気楽にやっていけるのではなかろうか。
無論強がりも含めての感想だ、しかしここまで理解が及ばない事が連続して起こるとかえって冷静になるんだな人間って……。
「けど、こんなヤバいモンスターとか普通に出てくる世界で生きろって言われても、俺じゃあ直ぐにエサになるのがオチですよ?」
それが素直な本音だ。
あんな恐竜もどきが出てくる世界に放り出されたら俺なんて簡単に死んでしまうぞ。
正直前の世界の人間が俺を覚えていないとかよりも現状を何とかする方法を教えて頂きたいですな。
「フフッそれについては問題ありません」
女執事は片手をかざした。するといきなり魔法陣が現れた!。
マジかよ、本物か?キラキラと光っている、とてもファンタジーな感じだ。
更にその魔法陣のなかから大きめなサイズの本が現れた。
何かファンタジーゲームに出てくる古文書みたいなヤツだな、角で殴られたら悶絶間違いなしだ。
その本を手に取った女執事は此方の目の前に立つ。
「貴方は異世界、とくに剣と魔法のファンタジーを題材にした物語を好んでよく本を読んでいましたね?」
「え?まっまぁそうですけど……」
なんでそんなプライベートな事を知ってるのだこの女執事は……。
事実であった、だってその手のは大好きだからな俺。
異世界とかじゃなくても王道なファンタジー作品とか普通に好きだ、読み物もゲームもさ。
すくない給料からでもやっぱ買っちゃうだよな。
女執事はその本を開き、此方に向けて見せた。
あっこれ本じゃなくてバインダーだった、外装に騙されたわ。
中には文字ではなく裏向きに伏せられたカードが数枚ずつバインダーにおさめられてる。
子ども頃トレーディングカードとかよく集めてはコレクションした事がある、そしてバインダーとかに入れたりするのだ。
しかしこのカードがどうしたのだろうか?。
すると女執事は微笑んで語る。
「なら分かりませんか?」
「………?」
「仕方ないですね。つまりこれは……」
「異世界に行くもの達の希望。チートゲットタイムの始まりです」
「なっ!なんですとぉおおおおおお!?」
◇◇◇
俺は殊更驚いた。
マジで驚いたよ、異世界転生と共にあるあの伝説のチート受け取りの儀式が実在するってんだからな。
女執事は本を開いたまま此方に向ける。
「このカードには貴方が手にする特別な能力や恩恵が描かれています。貴方には一枚カードを手に取ってもらいそのカードに記された力を与えますので」
「おっおぉう……本当にチート能力とかもらえんスね」
あんなご都合主義の塊みたいなのが本当にあるとは、神と言う連中とは俺ら人間が思ってるよりも暇なのか?。
「しかし貴方の異世界転移は此方の部下の不始末もいいところなので、今回は特別に更に二枚カードを取って下さい」
「いっ良いんですか!?」
「フフッ今回だけの特別措置です。ちなみに何を引いても、あまりこの世界の人々に言いふらすのはお勧めできませんのであしからず」
スゲェ、つまりチート能力を一気に三つもくれると言う事だ。
まぁ能力以外の物もありそうだから一概には言えないけど。
それでもこれはとんでもない事じゃないか?。
まぁ引いてみるとハズレでした!とかあったら困るけどさ。そして笑うと美人はやはり綺麗だと思う俺だ。
そして言われるままに三枚のカードを手に取った。裏返すとそこにはそれぞれイラストが描かれていた。
さらにテキストが記されている、恐らく能力の説明文とかでだろう。しかし……。
「すいません、この文字、読めません…」
「あっ……」
そう、恐らく異世界の文字で記されたミミズがのたくった様な文字は、俺には解読不明であった。
そして彼女曰く、異世界言語を理解して話せる様になる魔法をかけてもらった。
魔法陣が俺の足下に現れて、そして消えた。
何も起きてないじゃんっとか思ってたら、再びカードを見ると普通に文字を読める様になっていてメチャクチャビックリした。
魔法凄すぎだろ。
「カードの内容を確認したら、そのカードを使えば効果を発揮して、頼れる能力をゲット出来ます」
「なっ成る程……」
俺は急いでカードの内容を確認する。
まずは一枚目に引いたカードだ、イラストは魔法使いが描かれており、その両手に指輪をはめている。
『アクセサリー作成』
『魔力を宿した特別なアクセサリーを作り出せる能力。高価なジュエリーの作成も可能』
「アクセサリー作成?」
「それはアイテムを作り出す能力ですね。材料は自身で集めなければなりませんが、生み出す物によっては億万長者も夢ではありませんよ」
マジで?アクセサリーって元の世界ならまんま宝石とかをあしらったヤツだけど、ゲームだと少し違う。
例えば冒険者が装備する事で状態異常への耐性を上げたり、身に付けるだけでキャラクターのステータスを上げたりしてくれる。
モンスターがいる世界だし、そんな感じの能力が付与されても不思議じゃないよな。
これはなかなか使えそうだとか考えながら二枚目のカードを確認。
イラストはリュックサックが描かれていた、ファンタジーな少し凝った装飾が見てとれる。
このイラストって普通に上手いよな。
『魔法のリュックサック』
『魔法の力で生き物以外は何でも入るし重量も変わらない不思議なリュックサック。魔法の加護によって壊れたりしない様になっている』
これも良いな。普通に便利だ、しかも壊れないし大抵の物は入るらしい。まさにチートアイテムだ。
これについては女執事もとくに説明はない。
そして最後のカードを見る、そろそろ戦闘系のチートが欲しいな。
イラストは……何かまたカードが描かれているぞ?何だよこれ。
『フレンド召喚カード』
『カードを使用すると一人だけ使用者を助けてくれる助っ人を召喚します。使用後このカードは消滅します』
「………………」
「どうしました?………あっ」
なんだこれ、前の世界の人々からは忘れ去られ、この世界でも知り合いなんていないボッチ野郎を煽ってる内容だ。
助っ人機能だろこれって、アプリゲーとかでよく見たけど、俺あの手ゲームってフレンド申請しても無視されるのが嫌であんまりしなかったんだよな。何がフレンドだよ。
「まさか使えないアイテムを貰うとは…」
「いえいえ、使えない物なんてありませんから。カードを手に取ることが出来たのなら、それは問題なく使える筈ですよ?」
「はっはぁ、そうですか?」
「そうですよ。試しに使って下見てさい、もしも使えなければ他のカードを選んでもらいますので…」
そこまで言われれば使わない訳には行かないな、俺はカードを持って使用する。
………ん?カードを使用するってどうすんだよ。
「カードの呼び名を喋ってください、そうすれば使用出来ますから」
「わっ分かりました。フレンド召喚!」
ボッチ野郎に居もしないフレンドを召喚させるとは、この女執事、実はかなりのドSじゃないだろうな?悪いが俺はノーマルだぞ。
俺がカード名を言うと、カードが光だした。
「!?」
そしてカードが光るとカードは消滅し、その光だけが残った。
空中にフヨフヨ浮かぶ光の玉だ。なぁんかファンタジーだなぁ、少し心が和む、何も状況変わってないのにな。
そしてその光は、何故か目の前の女執事に当たると、役目は終えたっとでも言うように消えた。
「……………………」
「……………………」
しばし無言で見つめ会う、何だよこれ、どうなってんのよ。
すると女執事が右手をグーに、左手を手皿にしてあーなるほどって感じグーを手皿にポンっとのせた。
随時と懐かしいリアクションだ。
「あのー、どういう事ですか?これ……」
「はいっ先程のカードは本来なら貴方のフレンド。貴方が知っていて、相手も貴方を知っている者達限定で、此方の世界か前の世界から今の貴方が必要とする人材を呼び出す魔法なんですが。今の貴方にはフレンドが一人もいない状態でした、だから貴方が知っていて、貴方を知っている唯一の存在。つまりは私にお鉢が回って来たのでしょうね」
「で、でしょうねってそれじゃあ三枚目のカードは失敗って事ですか?」
「はい?何故失敗なんですか?」
「何でって…」
少しムッとする女執事。心外ですねっと言わんばかりのムッとした表情である。かわ……何でもない、うん。
気を取り直して、だってそうだろう?フレンド召喚なのにフレンドじゃないのが来るとか、アプリゲーなら完全に不具合案件だろ?。
すると俺の心配など何でもないように女執事はなんか執事っぽい仕草で軽く頭を下げた。
「まずは自己紹介からです、私の名はバニーチェ。今から貴方の異世界生活をサポートし、この世界の諸々をナビゲートする事になりました。ちなみにこの執事服は趣味ですので召し使いとかではありませんからねフフッ」
マジで?この謎だらけの美少女がサポートしてくれんの?俺の異世界生活を?。
字面だけ見るとそれだけで勝ち組確定な感じなのに全然そんな安心感を感じないのは何故だろうか?。
しかしあちらさんはやる気を出している、ここでチェンジっとか言ったら他に貰った便利そうなアイテムや能力も没収されそうなので何も言わないぜ、沈黙は金とはよく言ったものだ。
「よろしくお願いいたします!バニーチェさん!俺は森岡慎司、この世界について知ってる事は何もありませんから正直ビビってます!。助けて下さい!」
「素直は美徳です。では残りのカードも使用して下さい、話はそれからですね」
分かりましたと返事をする。
カード名を言うとカードは消滅した、バニーチェ曰くこれでチートな能力を俺はゲットした事になるようだ。
そしてカードから生まれたリュックサックを装備する。
結果として戦闘系チートはゲット出来なかったけど。実に頼りがいのある(?)旅の道ずれと便利アイテムをゲット出来た俺である。
これならの異世界に向けて弾みをつけるべくバニーチェに話をする。
「バニーチェさん。いきなりですけど、これからどうすんスか?やっぱり人里を探すところからですかね?」
異世界転移とか転生してモンスターが出る上に見知らぬ場所からと言うホットスタートからの定番は取り敢えず誰かしらがいる場所へ行くところからである。
そう言うの好きの知見的にな。
「バニーで良いですよ、さん付けもいりません。私も貴方の事を慎司さんと下の名前で呼びますから」
「そっちもさん付けじゃないですか、俺も社会人やってたから人を呼び捨てにするの得意じゃないんですよ。子供ならともかくどうしてもってんなら呼び捨てで呼びますけど……」
「フフッそうですか?ならバニーさんで構いませんよ?」
「普通バニーチェならニーチェさんじゃないんですか?」
「私はウサギが好きなんでバニーさんがいいですねぇ」
バニーさんだと、スタイルの良さも相まってバニーガールを想像してしまうんだが。
まぁ本物バニーガールなんて見たことがないのでこれもゲームとかでの想像だけどな、ハイヒールを履いてお尻に白いファーをつけて露出が多いピッタリとしたバニースーツにあみタイツとウサミミバンドで武装したカジノの華である。知らんけど。
まぁ本人がバニーさんがいいと言うなら良いのだろうさ、女執事バニーさんである。
「それと人里についてなら一つです心当たりがあります。あちらをご覧下さい」
「あちらって………………………え?」
バニーが言う方角を見る。
俺は絶句した。
その方向には、草原から先、高さがある山々が幾つもあるのだが問題はそこじゃない。
問題はその山の先にある青白く巨大な影だ。
あまりにも遠くて霞がかって見えるがあれは間違いなく、一本の大樹であった。
山よりも高く、雲すら遥かに越える高さにまで届くかと言う代物だぞあれ。これだけ離れているからこそ、その姿の全容を何とか把握する事が出来るだろうな。全長何千メートルあるんだろうか。よくもまぁ今の今まで気づかなかったもんだと自分で自分の事が信じられない。
まるで後から人が来るのを分かってるのにドアの鍵を閉めてしまった人みたいだ。
すぐ後ろにいる人が唖然とする中で我にかえり急いで鍵を開ける人だ、俺も昔やった事がある。あの時は自分がボケたのかと本気で心配してしまった。
「あっあれは………」
「あれはこの世界で知らぬものはいない世界最大の大樹。『迷宮樹ユグドラシア』です。あの大樹の麓には、今私達がいる国。ユードラシア王国の王都マグニフィアがあります。ひとまずの目的地はあそことなります」
「……………」
え?あの大樹の麓?どうやって行くの?まさか歩き?何日かかると思ったんだよ。
「あのバニーさん。行くと言われてもどうやってですか?」
「この草原を真っ直ぐ歩けば地肌をさらした道があります。それに沿って行けばいつか着きますよ」
いつかっていつっスかね?
「歩きっスか?」
「そうですね。この世界には馬車とかはありますが、車もバスもありませんから」
嫌な予感的中だよチクショウ。
「それでは行きますよ慎司さん。レッツゴーです」
そう言うとバニーはスタスタと歩き出した。鼻唄なんぞ歌って上機嫌を撒き散らす。
何か色々楽しんでないかこの人、人間かどうか知らんけどさ。
何しろモンスターがいて魔法があってとんでもない高さの大樹まである世界に飛ばされたのだ。もう何が起きても不思議じゃない。
つまりアレだ。もう楽しんだもん勝ちである、そう言うことにしておくとするわ。
「待って下さいよ~置いてくとかなしですからねぇ~」
言いながら後に続く様に歩き始める俺だ。