世界を救ったら伝説になった件
「いやはや。まさか魔王が既に斃れていたとはな」
「魔王どころかあの黒騎士以外の四天王も討たれていたなんて驚きですよ。遊び惚けていたところに報告を受けた他国の勇者が袋叩きにされたそうですね」
「通りで魔物が街や村に攻めて来ぬわけだ。わははは」
「はははは」
などと。二人は和やかに病床で談笑していた。
「名もなき英雄というのもいるものだなぁ、是非一度会ってみたいものだ」
「あなたは尊い…しか言わなくなって話にならないんじゃないですか?ああ、そう言えば我が国の勇者なのですがね」
「おお、聞いたぞ。竜にあっさり溶かされたそうだな。…なんでも、生物を従える魔法の持ち主だったとか」
「そのようですね。操られていた癒し手の少女が正気に戻って急ぎ帰ってきてくれなければ私たちの命も危うかった」
「何度聞いても胸糞の悪い。人を操る術を用いて女を誑かした上に強くあれと命じることで強化し竜を倒そうなどと…ないわー」
「ですねぇ…将軍、黒騎士の最期の言葉、聞きましたか」
「おぼろげながらに覚えているとも…もしや、奴もまた反勇者の同志だったのかもしれんな」
「出会い方が違えば、心強い味方になったでしょうね…おや、枕元のそれは?」
「ああ…実はな。なんと我らの活躍が伝説になったのだ」
「えっ…マジ?」
「マジ。一番に読ませてくれるって」
「テンアゲじゃあありませんか!早く読みましょう!」
「ふふ、お前がそこまで喜ぶとはな。待っておいてよかった。では読むぞ…この詩人は…聞いたことがないな、他国から流れてきた者か?」
「私たちの戦いを書き留めようと王が呼んだのでしょうか?何せ十日は生死の境をさまよっていてもう二十日ほどは眠っていたようですからねぇ」
「そこまでさまよわれると看病する側も迷惑だったろう…後で礼を言わねばな。えー、タイトルは…何ィ!?」
「…はぁ!?」
「「『秘密のダンジョンでレベルカンスト!チート無双を叩きのめしたった』だとぉぉぉ!?」」
「ふっ、ふふふざけるな!こいつ今流行りのチートに勝つタイプのチートを書きたかっただけだろうが!」
「わ、私たちのあの修行の日々がこんな陳腐なものに…?ふ、ふふふふ…これだから人間ってのはァ!!あの頃と何も変わっちゃいねぇじゃねぇか!!」
「許さん…我らどころか敵まで辱めるこの屈辱…!人間など、人間など滅びてしまえ!」
「「これからは、俺たちが魔王だぁぁぁぁぁ!!!」」
こうして、平和が戻った世界に新たな火種が生まれた。
この物語は間もなく本として発行され、本人たちの意志に反し大ヒット。
怪我も治りきらぬ内に出奔した二人が知るところではないが、その後人間に裏切られた勇者が魔王になる反転モノが流行ったそうな。
めでたし、めでたし。