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勇者召喚が決まった国の将軍と騎士団長の憂鬱

全話と補足が読めます。

 人馬寝静まる夜半のこと。城に通る地下道のその中ほどに、二人の男が陣取っていた。


 一人はみっちり筋肉の詰まった胸の前で窮屈そうに骨の太い腕を組み丸太のごとき両脚を広げて道のど真ん中に立ち塞がる、人体にして要塞の威容を湛える男。


 全身を筋肉と、さらに鋼で鎧う壮年はこの国の将軍である。如何にもな頑健でしかめっ面の大男であった。


「…本当に我が王はここを通るのだな?」


 将軍の問いにもう一人が応じた。


「ええ、信頼できる情報です」


 そちらは打って変わって線の細い、優男だった。細目と柔和な表情、丁寧な口調。鎧も流麗で壁に背中を預ける姿勢がなんとも気障ったらしい、しかしよく似合う色男でもある。


 あまりに戦の匂いから遠い彼を歴代最年少で騎士団長を拝命した若き天才だとは誰も思うまい。


「…そうか」


「…不安ですか?」


 冗談めかした問いにふ、と声を漏らした。将軍本人としては笑みを浮かべたつもりだったが、いかんせん顔面まで山岳のごとく峻嶮なのであまり笑顔は上手くない。


「不安だとも。親の代から仕える王に初めて反駁しようと言うのだから」


「それでも、私たちは行かねばならない」


「ああ」


「「必ずや、勇者の召喚を止めてみせる…!」」





 話は数日前に遡る。


 将軍はその噂を聞き思わず筆をへし折り、騎士団長はその容貌を至極嫌そうに歪めた。


 なんでも、王がこの世界を脅かす魔王とその配下たる魔物に対抗するため伝説に従い異世界より勇者を召喚する、とか。


 筆まめな彼がお気に入りの筆を反射で砕き外面を誰より気にする彼が人目もはばからずブサイクを晒したのは理由あってのことで。


「「勇者とか、ありえん」」


「だよな!」


「ええ!」


「妨害するぞ!」


「がってん!」


 という流れがあった。


「普通に考えてそんな伝説などに縋ろうなどと。いや、王家には神との約定がある。勇者の伝説は本当だろうというのが我が家の予想だったが」


「まさか本当に踏み切るとは思いませんでした。全く嘆かわしい」


「信じたくはないものだ…聞いたことがあるか?召喚の儀式で勇者に姫を捧げるんだそうだ。倫理的にありえなくね?」


「えっ…我が国の姫は御年十三歳、資料によれば大抵の勇者は若い男なのでもしかしたらイケるかもしれない辺りが非常に生々しい…ないわ…」


「勇者については昔から今に至るまで多くの伝説が語られているが、大抵姫か身分の高い女を引っ掛けるのでおそらくそれをなぞっているのだろう。ぶっちゃけ十三歳の姫をどこかの馬のアレにくれてやるなら国滅ぼすわ」


「なんて悪質!メインヒロインとは限らないなんて!やはり勇者は害悪…!」


「ともかく、我が王には申し訳ないが直接理解していただく他ない。覚悟を決めよ、騎士団長」


「ええ、無論です…そんな話をしていれば。いらっしゃったようですよ」


 なるほど、王族にしか知られていない通路を来たはずなのにいるはずのない忠臣が立ちはだかるのを見て怪訝な顔をしているのはいかにも二人の主であった。


 後ろに従う姫(身長が低いわりに胸が大きく自身もとても気にしていらっしゃる)も不安そうな表情を浮かべている。


「…よし、行くぞ」


 巨躯が動いた。次いでゆらりと細身が通路に躍る。


 目にも止まらぬ身のこなしで主君の前に迫り、そして


「我が王よ!どうかお考え直しください!異世界から勇者を呼ぶとかこの国の歴史の汚点ですよマジで!」


「そうですよ!どうせなら早く隣国から婿を迎えて人類の結束を強化する方が有益ですよ!どこの馬のアレかわからないアレよりかは由緒正しきアレにしましょう!」


「大体、『打つ手がないから最後の手段として』みたいな顔しときながら一度も大規模な征伐とか企画すらしてないでしょう!俺たち魔王倒すためにめちゃめちゃ鍛えたのに最初からまともに戦争する気さえないんじゃこんな国滅んだ方がマシです!」


「あなたに王としての器なんて一度たりと期待したことはありませんでしたがそれでも王なので進言します!どうか、勇者召喚をお考え直し下さい!」


「「お願いします!!!」」


 憂国の士は万感の思いを言葉にし、道を誤ろうとする主に訴えかけた。


 拳を握り、不退転の意志を込めた熱い語り口と時折冷や水のようにぶちまける日ごろの不満。


 二人の武力と求心力があればこの場で王を拘束し、国をも乗っ取ることができたであろうに。


 暴力を用いるをよしとせず、思いの丈をぶつけることでその憂慮を晴らそうとしたのだ。


 臣下の鑑であった。


 そして、訴えは確かに心曇りし王の耳に届いた。

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