第3話:幼馴染「奈恵」
トウに連れられるままギルドの案内所の様な所に来た。
道中様々なことを教えてもらった。
前回の憑依で電話していた女性の名前が【ナエラ】であること。
シュンヤとは昔からのパーティ仲間だということ。
憑依なんて現象は聞いたことがないということ。
他にもバーミアの世界についてとか色々教えてもらったが正直そこまで興味はなかった。
何より一番気になったのは宗教関連の話だ。
バーミアの世界ではたまに神が現れるらしい。
それも現人神なんて胡散臭いヤツではなくマジのやつ。
だからこそ教会も沢山あって、一つ一つが違う神様を祭っているらしい。
その情報はシュンヤの記憶には無かった。
トウもシュンヤも会ったことがあると言っていたが、僕が持っている彼の記憶の中に神様に会ったなんてモノは無い。
つまり記憶共有に【干渉】しているってことだ。
もしこのバーミアの世界でその神様と話が出来たなら、この訳が分からない記憶共有現象に何かしらのヒントを得られるかもしれない。
「換金お願いしたいんですけど」
ギルドの受付嬢に先程の檻を渡すトウ。
「係りの者を呼びますので少々お待ち下さい」
受付嬢に勧められるがまま革の椅子に腰掛ける。
なんて低反発な椅子なのだろう、社長室とかに置いて有りそうなふっかふかの椅子。
そのあまりの落ち着かなさに座ることをやめ立ち上がる。
「どうした?」
「この椅子とんでもない高級品だろ、座りづらいよ」
「どこにでもある普通の椅子だと思うんだけどなぁ......」
バーミアの世界ではこれが普通なのだろうか?
まぁどのみち落ち着かないから立ってた方が楽だ。
急に立ったからだろうか、妙に立ちくらみがする。
視界に黒いもやが現れて......まて、これは立ちくらみじゃない。
「すまんトウ、時間切れみたいだ」
「え?嘘!もう!?」
トウが目をカッと開いて驚く中、こっちの視界は徐々に蝕まれていった。
段々と意識も遠くなって......。
―――ハッ!
見慣れない天井。さっきとは正反対の妙に硬いベッド。
......横たわってる?
「あ、起きたぁ?めっちゃ心配したんだよ?」
ぼやけた視界が段々クリアになっていくと、こちらを覗く女の姿が見えた。
明るい髪色、冷たいがどこか澄んだ目、性格をそのまま表したかの様なアホ毛。
幼馴染の奈恵だ。
木村奈恵。幼稚園から同じ学校で、中学はクラスこそ違ったが家が近かったからほぼ毎日顔合わせしていた、言わば腐れ縁だ。
しかし、なんで奈恵が保健室に?
「もう、突然倒れるからぁ......死んだのかと思った」
この妙にスローな喋り方と突飛な発言は本当にどうにかならないものだろうか。
昔はそうじゃなかった筈なんだが。
って、そうじゃない。
「記憶が曖昧なんだけど、なんで保健室に居るの?」
「すごい形相で私のクラスに入ってきたのはそっちでしょ?こっちが聞きたいよぉ......」
「僕が?」
「うん」
「突然入ってきたと思ったらバタンって倒れちゃうし、運ぶの大変だったんだよ?」
「奈恵が運んだのか?僕を???」
「うん、おぶるのはなんか嫌だったから肩にこう!」
ヒョイッと担ぐ様なジャスチャーをする奈恵。
いや、それ人の運び方じゃないし......それでみぞおちが痛いのか。
凄い形相でクラスに入ったって言うのは恐らくシュンヤがやった事だ。
一体何故?奈恵に用があったのだろうか。
奈恵...ナエラ......待てよ。
俊介とシュンヤ、冬弥にトウ、奈恵にナエラ。
やはりそうだ。バーミアの住人とこちらの住人は対になっている。
そして交友関係も似ている......と考えて合っているのだろうか?
ならシュンヤが奈恵に会いに行ったのはナエラの影を見たから...?
いや、それなら冬弥と話し込む筈だ、向こうに居た時間を考えても奈恵に会いに行ったのには特別な理由があるとしか思えない。
なら一体何が......断片的な記憶を見返しても心当たりがまるで無い。
「最近貧血気味でさ、何か用事があったんだろうけど忘れちまった」
「えー?」
「忘れたって事は大した用事じゃなかったんだろ、運んでくれてありがとな」
「ならいいんだけどさ、気をつけてねぇ~」
そこまで言うと、奈恵はテキパキと荷物を片付け保健室を出て行った。
出て行く際に手を降っていたのだが、毎度のことながら振り方がおかしい。
あの壊れたロボットみたいな手の振り方は癖なのかわざとなのか、よく分からない。
保健室の先生は外出中だったらしく、奈恵の他に生徒も居なかったのでそのまま帰ることにした。
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家に着くと、そこにはいつも通りの何もない日常が広がっている。
両親は平日のこの時間家に居ないので、おひとり様を堪能できるんだ。
コーヒーメーカーに粉を入れ水をセットする。
スイッチを入れ、沸くのを待つ。
3分ほど時間がかかるので、座って待つことにした。
「今日は激動の一日だったな......」
そんな独り言も束の間、視界がブラックアウトした。