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先輩看護師、里見の謎

 電車を乗り継いで小一時間、アパートに戻った俺はレコーダーで話を聴き直しながら考えをまとめる。彼の話を信じることを前提にすると、まるでミステリーめいた未解決事件(コールドケース)のようで、不謹慎ながら興味深い。


 監視カメラの映像……は恐らく、警察が持ってて確認できないか、何の手懸かりにもならないかのどちらかだろう。

 先輩看護師……はまだ病院に勤めているのか? その場合、口止めされているのか? それとも……?


 この件以外での行方不明者、という点でも気になるな……

 インターネットで少し調べてみたが、若者の失踪は大抵家族関係か色恋沙汰が原因で、当人が帰らずとも何かしらの反応は得られる傾向にあるらしい。確かに若者には少し退屈な地方都市、長閑(のどか)な町で若い彼等がすること、若い二人が夢中になれること……と言えば、まあそういうことだろうが、それはこの際無関係か。



********************************************



先輩看護師、里見の謎



……………………………………………………………………………………………………………………………………………………


「まだ早いけど、ギムレットを」

「独りでお越しなのに、何故わざわざ格好をつけるのですか」

「知り合いが、後で隣に来るからさ」


……………………………………………………………………………………………………………………………………………………



「おや、また会えましたな」

 俺は例の男と再会していた。今回は予め町の中華屋で飲んできたから、酒を残すのも苦にはならなかった。


「隣の方は?」

「いや、他人です。私が来る前から、ここで酔いつぶれてて動かないんだそうで」

 俺は先に聞いていたマスターの言を簡潔に伝えた。

 男は俺が言い終わるより前に、カウンターの向こうでグラスを拭くマスターに視線を向けた。マスターは特に変わりなく微笑んでいた……ように見える。



「では、まず前回のお話について質問したいのですが」

「ふむ」


「当日伊東と一緒だった先輩の看護師は、その後どうなったのですか?」

「うむ。彼女、里見(さとみ)看護師は、1年ほど前に実家に帰るからと病院を辞めたそうだ」

「つまり、事件後もしばらくあの病院に勤めながら、無事でいたと」

「そういうことになるな」

 男は今日もウィスキーをロックで注文していた。それを少しずつ口にして、どこか満足げな顔をしている。


 仮に彼女は関与していないとして、当日伊東の一番近くにいた人間が何年も病院勤務を続けられるのだろうか? たとえ対処法を知っていたとしても、不安、恐怖に駆られそうなものだが。


「ところで、彼女の実家……はどこなのでしょう?」

 里見なんて名字、そう多くはないだろう。可能なら会ってみたい、そう思い訊いてしまった。


「千葉らしい、と聞いたことがある。帰郷後向こうで何の仕事をしていたかは知らないが、関東に居たのは確かだ」

 思いの外あっさりと答えられた。こうなると逆に、単なるでまかせかもしれないと疑りたくなってくる。


「ほほっ、信じるも信じぬも貴方の自由、だよ。ただ、彼女は残念ながら……」

 半年ほど前に、交通事故で亡くなったそうだ。当時の千葉県の新聞記事を調べれば彼女の名が出てくるだろう、これは間違いない話だと。

 そうまで言われると、疑っても仕方がないように思えた。顛末はともかく、あの病院に勤めていた看護師二人、伊東は数年間行方不明で里見は既に死亡している。それは事実なのだろう。


 ……しかし、何故この男は里見の死を知っているのだろうか?




「さて、そろそろ次の話をさせてくれないか」

 そう言ってから、ウィスキーの残りを一気に口へ運ぶ。

「貴方の問いに答えてやったのだ、今度は私の語りを聞いてもらう番……で、良いかな?」


 断る理由はなかった。



「おっと、その前に……マスター、次の一杯を」

「かしこまりました、今回は『ピーキー』でよろしいですね?」

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