もうひとつの、エピローグ
地下で見つかっていた被害者達は、全員が美岐市の市立病院に搬送されていた。
……保護されたとは言え、そのほとんどは今なお意識を取り戻していないらしい。
********************************************
(暑い……久しぶりに来たけど、やっぱりこっちの夏は暑いな)
私は何年かぶりに、美岐市に戻ってきた。こっちで働いている姉に会い、学生時代の友人たちと遊び、そしてもう一つ、大きな目的を果たすために。
姉から連絡を受けた瞬間から、私は居ても立ってもいられなくなってしまった。
美岐市で行方不明になっていた若者たちの一部が、ある日突然市内各地で次々と保護された。その中に三名、身元の分からない若い女性がいるとのことだった。
もちろん、そのうちの誰かが杏子である保証はない。それは解っている。けれど、解っているから納得できるというものではない。
なぜ納得できないのか? 分からない。とにかくその少女が気にかかっているのだ。
私は無理を言って一週間の休みをもらい、美岐市に戻ってきた。
私は姉の伝手を頼り、三人の身元不明の女性と会わせてもらった。杏子とは、あの日一度しか会っていない。けれど、私はあの娘の顔を決して忘れていない。
一人目……どう見ても違う。
二人目……どう見ても違う。
そして、最後の一人が眠る病室へ入らせてもらう。そして私は、眠り姫を見つけたのだ。
この顔立ち……目を閉じていても分かる、力強いが野蛮ではない目元、それとは反比例するように控えめな小鼻と唇。
ああ……本当に、本当に、杏子。
腰が砕ける。涙が溢れる。
「ご友人の方?」
通りがかった看護師の訝しむ言葉など、まるで耳に入らなかった。
杏子に会えた嬉しさと、この現状の原因が自分である罪悪感が交ざり合う。私は一頻り泣いた、気が済むまで泣いた。彼女は何も言わない。
私は家から持って来た、蝶のバンスの片方を杏子の手に握らせた。もう片方は、自分の髪を束ねている。
面会時間が終わるまで、私は杏子の傍で座って彼女を見つめていた。
顔は少しだけ、大人びただろうか? 声は、あの時と同じだろうか?
「美紗、お待たせ」
姉が仕事を終え、私を迎えに来た。今日は帰ろう。
まだ数日はここに通えるが、杏子と離れるのがとても名残惜しい。
「また明日ね、杏子」
私は部屋の出口へ歩き出した。足が重い。とても静かな気がして、耳が痛い。
そのとき。
「ミサ……ねーちゃん……?」
なぜか? わからない。とにかくそう聞こえたのだ。