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能力者の国

「さて……」

 先生が出て行くのを3人とも見つめていたが、秋山さんは直ぐに俺たちに向き直った。

「大山君、波多野さん。まず謝らせてください。先ほどの話は恐らく君たちを大きく混乱させていると思います」

 秋山さんは頭を下げた。その行動に、俺達はますます混乱する。


「先程の話では、君たちの知能指数が特別高い人間であるので留学の話が来ていると誤解を与えたでしょう。もちろんそれが狙いで、校長先生や、君たちの担任の先生にそのように認識していただくことが目的ではあるのですが……。実は私は、知能指数の結果のためにこの学校に来た訳ではないんです。まあ、テストの結果というのは正しいのですが。私はテスト中に浮かび上がった文字を見た君たちに留学を薦める為に、こちらに来たのです」

 俺は息をのむ。

 隣からはえっという小さな声が聞こえてきた。隣に座る波多野さんも少し口を開けて驚いた顔をしている。

 この反応は、波多野さんもあれを見ていたのか。俺はそのことに改めて驚く。

 すると、波多野さんもこちらを見てきたので、目が合う。俺は恥ずかしくなり目を逸らすと少し冷静さを取り戻した。

「どうやら、御二人ともあの文字を見られているようですね。安心しました。もし、反応がなければどうしようかと」

 秋山さんは微笑んでいる。

「あの文字の通りです。君たちは世界に選ばれた。君たちは、特別な力を持っています。それは、世界の人間は皆一人一人特別などといった話ではありません。本当に君たちは他の人とは違う存在なのです。簡単に言いますと、君たちは、火、水、土、風、そして光を操る力を持ってます」


 一瞬、時が止まったかのような静寂に包まれた。外には部活動に励む生徒たちもいるはずなのだが、そんな喧騒も俺の耳には届かない。

 これまでの話を、ほとんど黙って聞いていた俺だが、さすがに反応せずにはいれなかった。

「えーと。あの、冗談ですか?火とか水を操るって」

「冗談でわざわざ学校まで来ませんし、ましてや校長先生を通したりしませんよ。そこまでするのは、私が怪しい存在ではないと信用していただくためです。君たちは紛れもなく能力者です。そして、君たちが望むなら、私たちの国に招待し、その能力を更に伸ばせる学校を提供させて頂きます」

 これは、本当に俺の願った日常が変わる瞬間がやってきたのだろうか。

 それとも、頭のおかしい大人に絡まれているだけなのだろうか。

 俺が少しの間、黙って考えていると波多野さんが遠慮しがちな声を出して聞いた。

「その、秋山さんが言われる能力者って言うのは、つまり魔法使いみたいなことなんでしょうか」

「うーん。歴史上ではそうやっていわれていた国や時代もありますね。魔女狩りとか。なので似たようなものではあります。ただ、魔法使いとは少し違うでしょうか。魔法って言うのは物理法則とか世界の理を超えて物事をなす力のような気がしますよね。何でも思いのままみたいな。でも、私たちの力はなんでも思い通りってわけではないんですよ。もちろん不思議なことや解明できてないことも多く、自然の力をある程度自分の思い通りにできるので、他の人にはできないことが色々出来ますが、基本的には化学や現代の技術に基づいてます。なので、能力者であってもできないことも多いですよ」

 秋山さんは自分のカバンから1枚の紙を取り出して、机の上に置き、俺たちの前に出す。

「論より証拠ということで、今一度ご自信の力を体感していただきましょうか」

 紙は特に何も書かれておらず、ごく普通の紙だった。

「こちらに、何の変哲もない紙があります。っていうと、なんか手品みたいで、嘘っぽくなりますね」

 秋山さんは冗談っぽく笑う。確かに嘘っぽい。

「というか、何の変哲も無いようで、実は変哲があります」

 ややこしい。

「この紙には、君たちの能力を引き出す素材が使われております。君たちは今は才能があるだけで、自分で力を発動させることが出来ない。しかし、この紙を使えば、触れるだけでとある事象が起こります。まあ、あのテストの紙と同じものですね。さあ、触れてみてください」

「何が起こるんですか?」

「それは、触れてみてからのお楽しみということで」

 秋山さんは子供っぽく笑っていた。いたずら好きなのだろうか。

 波多野さんはどうしたらいいのか少し戸惑いながら、俺を窺っている。

 いずれにしても、触らなければ終わらないし、女の子になんだか分らないことを率先してやらすわけにもいかないだろう。それに興味が無いといえば嘘になる。


 俺は、警戒しながら紙に手を伸ばした。

 少しずつ少しずつ手を近づけていく。

 あと、1cmとなっても特に変化は無い。そして、覚悟を決めて紙に触った。

 

 すると、今までなんとも無かった紙から急に火が点った。


「わっ!」

 俺は、慌てて手を引き、体を大きく仰け反らす。

 なんだよ。今の。驚いたせいで心臓の音がやけに大きい。


「はい。今のが先程言いましたとある事象というものです。大山君が触れたことで紙があなたの力に反応し、点火したんです。しかし、良い反応をしてくれました。それでこそ驚かしがいがあります」

 ニコニコしている秋山さんを見ていると少し腹が立ってくる。あんなの誰でもビビるだろ。

「では、次はもう少し長く触ってもらえますか」

 俺は、改めて紙を触る。もう何が起きるかは分っているので、紙の端っこにすぐ手を乗っけた。

 すると、先程と同じように紙から火が上る。

 考えてみると、火が出てるんだから紙は燃えないのだろうか。このままでは火事になるのでは。そう思いよく見ると、火は紙から浮いており、直接紙が燃えているのではなかった。


 火に直接手が触れているわけではないのだが、段々と俺も熱くなってきた。このままではキツイ。


「あの、もう離して大丈夫でしょうか?」

「はい。ありがとうございます。もういいですよ」

 安心した。もう手はわりと限界だった。俺は手を引いた。

熱ぅ。

 手を揉んで熱さを和らげる。


「あの、私も触っていいですか?」

 波多野さんは秋山さんに許可を得て、紙に手を伸ばした。横から垂れてきた紙をかき上げる。

 波多野さんが触った瞬間、俺のときと同じように火がともる。波多野さんはそれからわーとかすごいとか感想を言いながら、紙を触ったり、離したりしている。

 なんだかとても楽しそうだ。


「これは、強制的に発動しているだけなので、火が出るだけですが、訓練をすればそのようなものが無くても可能です」


 秋山さんは右手を俺たちに見えるように開いた。

 すると手の平の上にまたもや火が上がっている。そして、手を動かすとそれにあわせて火も動き、部屋中を飛び回った。火の玉は最終的にまた秋山さんの手のひらに戻り消えた。

 そのあとも、秋山さんは俺たちに色々なものを見せてくれた。指の先から水鉄砲のように水を噴射したり、机の上に大きな鉱石を出してみたり。

 俺達は次第にすごいショーを見ているような感覚になりいちいち歓声をあげていた。1番凄かったのは、俺たちの周りの空気を変化させ、一瞬息が出来ないようにしたことだ。普通に苦しかったが、あんなことは、普通は不可能だ。手品ではありえないだろう。

 これでは能力というやつを信じざるを得なかった。


「すっかりショータイムのようになってしまいましたが、私たちの能力については信じていただけたと思って話をさせていただきますね」


 そうだ。すっかり夢中になっていたが、これは留学の話だった。


「私たち能力者の多くは、現在とある国に住んでおります。そこには、能力者及びその家族しか居住できず、入国も厳しく制限されております。もちろん存在は秘密とされ、ごくわずかな人しか知りません。なぜ、秘密とされているか。それは私たち能力者が辿ってきた歴史には、迫害などといったものがつきものだったからです。人々は私たちの能力を信じようとはしません。もし信じたとしても私たちを恐れ、畏怖の対象とし攻撃してくるでしょう。そうでなくても、私たちの力を利用しようと近づいてくる人ばかりです。そのような者たちから自分たちと同じ能力を守るため私たちは集団となり、現在では国家と成っているのです」


 確かに俺たちだって目の前でされているからこの人の能力を信じることが出来たけど、テレビとかで見ていたらどんなに能力者といわれてもただの手品としか思わなかっただろう。


「私たちの国には大きな都市が7つあります。それぞれの都市は、世界のいたる所にありまして、簡単には入れないように隠されております。その大きな7つの都市にはそれぞれ能力者の学校が一つずつございまして、御二人にはその中のどこかの都市にて、勉強に励んでいただければと考えております」


 留学か。俺は今日話を聞いていてはじめて、家を出て外国に行くことに対して真剣に考えてみた。留学するかどうか。

 その答えは簡単だった。


「話のはじめに申し上げたとおり、留学の際の資金やその後の援助などは最大限にさせていただきます。また、もし高校が合わずに日本に途中で戻りたいとなった場合にも、ある程度希望に添った学校に推薦で転入できるように取り計らせて頂きます」

「あの、なんでそこまですごい待遇を用意してくれるんですか?」


 俺は疑問を口に出す。


「それは、能力者側もそして日本にとってもあなたたちの存在は大きなプラスとなるからです。詳しいことは今の段階では言えません。御二人にも色々質問もあるとは思いますが、今のところ、お話できるのはこれくらいです。御二人が入学されることを希望されましたら、またお話できることも増えるかとは思います。申し訳ございません」


 秋山さんはまた頭を下げる。

 今の段階ならもし話が漏れたとしても、誰も信じることはないし、簡単にもみ消せるということなのかな。


「もちろん海外での勉強となりますので、まだ未成年の御二人だけでは決める事ではありません。後日改めて保護者の方と交えてお話させていただきます。その際は、こちらから出向かせていただくか、学校へとご家族の方にお越しいただくかになるかとは思うのですが、それは担任の先生から保護者の方にご連絡が行くことになると思います。入学時期があちらは九月です。校長先生のお言葉通りゆっくりお考えいただければと思います」


 再度、頭を下げる秋山さんに俺たちも頭を下げる。


「では、最後に何か質問はございますか?答えれる範囲のものでしたらお答えします」


 俺達はまた黙ってしまう。こういうときはなぜか質問しづらい空気がある。だが、1つだけ確認したいことがある。


「まあ、またお伺いしますし、聞きたいことはそのと」

「あの! 1ついいですか」


 俺は話を終わらそうとしている秋山さんの声をさえぎって少し大きな声を出した。

 秋山さんは驚いたように目を丸くしているが、直ぐにいつもの表情に戻る。


「はい。なんですか?」

「最初に波多野さんが質問で、能力は魔法ではないと言ってましたけど、例えばですけど、人を動物に変化させたり、死んだ人間を蘇らせたり、過去や未来にタイムトラベルするようなことはできない、ということですよね?」


 俺は真剣なまなざしを彼に向けた。一抹の期待をこめて。


「そうですね。能力は万能ではありません。私の知る限りでは、現在そのようなことは出来ません。もちろん、科学的に可能なことは今後どうなるかは分りません。しかし、近いうちに可能ということにはならないと思います」

「……分りました。ありがとうございます」


 その答えで俺の未来はどうやら決まったみたいだ。


 俺は今、どんな顔をしているだろうか……。



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