表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

馬場春樹。初めての闘い。

初めて書いてみました


ほの暗い藍鼠あいねず色の雲に覆われた空、

雲は二つの山にかかり、中腹までしか挑めなかった。

そんなそびえ立つ二対の険しい山裾から千歳緑や常磐色といった深い緑色の塊が流れ出したかのように大きな森があった。


その森を二つに分ける川は、うねりをあげ、

渡ろうとする者を襲いかかる勢いの砂色の激流で、

岸は、深く彫りこまれ、ゴツゴツした岩が流れに押されたかの様に幾つも岸の壁にめり込んでいた。

そして、その岩は時々増水による流れてくる岩にえぐれたようになっていた。

さらに両岸から上がった辺りには人を標識とするほどの大きな岩を幾つも弾き飛ばされたかのような跡と岩を見かけた。

その先にも、さらに弾き飛ばされた多くの大きな岩や岩により倒された大木が押されて、

光の入らない森の中では岩や倒木の周りに苔が生え、上流の方へと進むのを阻むように自然の城壁のようになっていった。

森に生えていた針葉樹も岩や流木により倒れ、

それが間引きになり、残った一本一本が大きく育ち、

さらに一日中、光もはいらぬ森へとなっていった。

早朝は、雲の中に迷い込んだのかと錯覚を起こすほどの深い霧の中では、

苔を纏った倒木に座る烏羽からすば色の衣をまとった女を見たとか

泰然と見える無表情な僧でさえ

人の二倍はあろう大きな少し赤みがかった源氏鼠げんじねず色の狼を見たと、逃げ帰ったとか

人を餌とも思えないほど、大きな鳥が羽ばたく影を見たとか

噂が多発し

いつしか旅人から『黒き魔女の住まう森』と恐れられ、


実際立ち入り、戻らぬ者も百人二百人ではすまなかった。

その為、皆、ここを通らず、10キロ程下流の馬車が通れる橋へ迂回していた。


そんな右岸の深い森を上流に向かうと、山際に急に拓けた平地が現れた。


その半分くらいは畝が幾つもあり、普通の野菜に混じって、見たことない野菜が栽培されていた。

その先には崖を思わせる荒々しい岩を組んだ高い塀とそこにくり貫かれた下から3分の1くらいの放物線型の10mの鉄扉。

扉の両側斜め上に小さな覗き小窓が二つ。

塀の内側はみかん山より、

なだらかな斜面が迫って、

沿って幾つもの蔦に覆われた長方形で上部の辺りに数える程しか窓がない殺風景な伽羅色のローマンコンクリートによる建物が建っていた。

建物の横には階段があったが

建物の周りには大木が幾重も生え、

屋上は土を盛り、草や小さな木々が生えてる為、上からでさえ見えにくくなっていた。

そんな幾つも山を登るように建つ中で、一つ。

小高い中腹辺りの丘に、明らかに違う一段と高く長方形の建物が建っていた。

その正面に城壁と同じくらいの鉄黒色の重い鉄扉が入ろうとする者を拒んでいるようで、

両扉の横に、扉と同じくらいの背で、

塊という言葉そのものの、筋肉が弾け散るのじゃないかという程で張った青朽葉あおくちば色の肌で腰当てと自らの背より半分ぐらい長い青龍刀を片手で軽々しく持つ東洋では鬼の類いか?

西洋ではトロールと呼ばれる様な者が立っていた。


その扉が開くと

外側の無機質な壁と違い

漆喰を塗られた月白色げっぱくしょくの壁。

そのまま天井まで塗られ、光の反射により、埋め込まれた数々の宝石でほんのりと輝くのであった。


床は舞踏会が開かれるような華やかな幾何学模様の踏むと無重力さを感じる絨毯じゅうたん

壁際には、領主が認めた画家の画や国王からの褒美などの自画像や宗教画、

東洋の国から輸入された陶磁器の大きな壺などが幾つも飾られていた。

奥には三階辺りまでの長く風格のある両側から真ん中へ斜めに上る階段。

階段上の廊下は中あたりに大きな柿渋色の二枚扉。

そして両端に見えづらいが同色の一枚扉。

六階あたりの高さまである天井には5m円の細かい硝子による細工で森を表したように施されたシャンデリア。

階段の登り口の裏側に黒地に小さな金粉や銀粉を施した流れ星の上に赤き小さな星を描いた漆塗りの漆黒の扉があり、鍵をあけて、開くと地下に降りる階段。

岩の壁に囲まれた階段を降りると、同じ様だが、下辺りが紅緋べにひに塗りられた漆塗りの扉。

開くと、一階の高さの半分くらいの同様のホール。

絨毯には神と悪魔の争いを描いている絨毯。

天井には、ドラゴンを中央に神と悪魔で分けられた絵が描かれていた。


奥に向かい、突き当たりの壁の左端に向かい、端の壁を叩くと隠し階段が。

押し開け、降りていくと

同じ大きさの部屋はホールというより周りをゴツゴツした岩の中に 弁柄色の液体の流れる堀が囲い、

その内側に

幾つもの華やかに彫られた彫刻や塑像。

宝石が散りばめられた棺桶が幾つも整然と並べられていた。

その一番奥に向かって赤い絨毯を敷かれ、その先には一段が1mはある五段の階段。

上ると

深紅の薔薇の花びらが敷かれた黒い床に他とは異彩を放つ漆塗りの棺桶が一つ。

棺桶の上面は宝石や螺鈿で描かれた蒔絵には闇の住人による解釈の天国と地獄。

側面は動植物を描かれていた。


これが、この城の主。

領主竜騎士バラクル公ともいわれた吸血鬼族の祖の一人であった。



この城には無敵の主力兵『くろがねの鎧兵団』がいた。


侵略は出来ないが、

一度、そよ風ほども動けば、敵は業火のごとく勢いで焼き付くされ、

その兵が進むにつれ顔まで隠した鉄兜は返り血を浴び、

真紅に幾重にも染まり、

戦いの終焉の頃には、

返り血が赤黒く固まり、

まるで狼か魔界の化け物が笑っているように兜は映るため退却した生き残り兵から『魔狼兵団』とも呼ばれ、

それは周りの地域に噂として駆け巡り

人々からも恐れられていった。

その兵団にも秘密があった。

初めは10人程しかいなかった。

それは、まだここの領主になった数年の事。

敵方がこの城を取り囲んだ時のこと。

囲んだ昼間は、攻めるより、畑に植えられていた野菜を『青田刈り』と称して取っていった。

しかし、その中にはジャックオーランタンの蕪があるとも知らず。

夜、兵の食事に振る舞われると、あまりに甘く、みずみずしい蕪に取り合いになるほどの勢いで…。


『まだあったな。明日また取りに行こう』


と、兵の中で話題となっていった。


しかし、彼らにはすでに明日はない。


眠りについた兵達は夜中の0時を境に

一人…、

また一人…、

静かに目を覚ました。

しかし目を覚ました者は、瞳は深い血液の色となり、すでに人でなく、体の中側から湧いてきた鐡の鎧を纏う兵へと姿を変え、そのまま周りの夜間警備している兵を襲いだした。

それに合わせて、塀の右端より少し離れた外れの崖の小高い丘の墓場の墓石の一つが


ズズッズズッズズッズズッ


とずれ動き、

中の地下に通じる階段より、鐡の兵も音もたてずに出でて片膝をつき待機し、同じ時刻に後方を攻めだした。

大混乱を招き、同士討ちもあり、結果として一夜にして関わった部隊は十数人の目撃者以外は命を奪われた。

以後も、幾度と攻められたが、

鐵の兵もその度に増え、出口も幾つも造られ、

圧倒さにも磨きがかかり

今の平穏な日々になっていった。


しかし、そんな領主はある日、

サンタクロースのようなカールのかかった立派な透き通った白い長老のような髭だったのを

鼻髭だけムースでもつけたようにカチカチの三角形な感じに固めセットした。

それは片手で掃く小さめのホウキのような形で、真顔で向き合うと笑いを堪えられず、吹いてしまうほどに。


顔を合わせた一族も笑ってしまったが、

最近、敵対する領主がいなくなってきた為に、退屈な領主が舐められて攻めてきて欲しいのが解っていたので、皆、何も言わなかった。


しかし、彼の願う結果にはならなかった。

どこもここを攻める事が出来る兵団もいなければ、

無謀という衣を纏う若僧の領主でさえも怯えるほどで。


結局、領主は欠伸と友達なる退屈な退屈な日々は続くのであった。


そんなある日、ついに領主は溜め息をつきながら

キレた口振りで


『あ−−。面白くない。

色々、やってみたのだが。

もういい。

ワシは、なにか面白そうなもの探しに行きたい!』


と。

この気まぐれな一言が元で、

一族とその郎等は放浪の旅に行くハメとなった。


ただ一番下の弟はつながれて忘れ去られていた。

それは別の話。


一族は、純白に金縁の飾り鎧そのものを模した四頭だての馬車に大きな木箱の鞄を積み、港に向かった。


兄弟の中の一人と従者はその港町の宿で


『面倒なので。

帰る。

じゃあ。』


その一言を残し、自らの城に帰り、

それを見て、

その隙に一番下の弟の従者も幽閉された彼の元へと姿を消した。


後に、ある者は船旅のなか、立ち寄る港で恋をして消えた。

またある者は、また馬車旅になり、泊まった町にて恋をして去っていった。

ついていった中にも、そんな生活自体に飽きて


『あ〜〜〜あ。


眠い。

もう30分寝かせて。』


の一言で姿を消すなど、

一族は郎等と共に散り散りとなった。


そして彼ら14人の一族とつき従う郎等は

400年の間、逢う事がなかった。



その一人、9男坊。

名前はビンセンツ・セバスチャン・バッハ(仮)。

彼と従者は名を代えては東洋をウロウロと徘徊するかのように移り住んでいった。

彼らの名前は、知り合いや、前の住処で気に入った者に似せたり。

と、名前自体に執着もないので

適当な組み合わせで、なんとなく名付けて生活していた。


そして1999年の日本。


広島県と山口県の県境。

そこは寂れたというより、

ほぼ昭和40年代あたりには知られていなかった城跡がある地。

江戸時代の文献には豊臣秀吉家臣。

後の功績で廣島の大名となった福島正則ゆかりの者により、この辺りに城が建てられたと記録されていたが、それは専門家の中での話。

町の小高い緑に覆われた山が城という事実は地元民でさえ知らなかった。

そして、その麓は

今は旧国道で

格子窓のある昔の建物が並ぶ中を駅に向かう学生や会社員の自転車による通勤通学、そして子供の通学路があった。

そのほんの20m先に今の国道があり、その先には小さな漁港があり、港は十年ほど前に埋め立てられていた。

江戸時代はこのあたりは浜辺か浜辺の小さな漁師町だったか、その小山の裏手の大きな山との狭間を通るくらいであっただろう。


現在の中心は、そこから約4キロほど下った辺りの一階建ての、JR系のコンビニとキオスクが合わさったくらいの小さな駅の町。

ただ、やはり地方の悲しさ。

マンションを建て、人口減少に抵抗しているが過疎の臭いがほんのりと漂っていた。

商店街は、古い塗り壁のむき出しの赤土色の壁土がポロポロッポロポロッと落ちる様に店舗がひとつ…。

またひとつ…。

と、空き、

新しく入る店舗は中々なかった。

時々、入るがマッチせず…。


そんな町の彼の家は、商店街や駅前マンションがある駅側ではなく

踏切や地下道により駅の反対側の海側へ向かい、国道を渡った公営住宅や住宅地に近いところにあった。

その家は昭和初期に造られたかのようで

例えるなら、そこだけ映画『青春の門』に出てきそうな、

周りが焼杉板のとは違う、煤けて、茶黒い重ねられた板壁の二階建ての長屋。

その道路側の部屋には

玄関の同じく煤けた壁にかかった焼杉板の看板に白い文字で

『馬場医院』と書かれていた。


その家には、光に当たるとキラキラと輝く白銀の髪を市販の白髪用で黒く染め、その長髪を後ろで黒い組み紐で縛り

こめかみあたりから頬あたりにかけて一本の筋のように髪を前に

黒ぶちの眼鏡をかけ

金色の瞳にはブラウンのカラーコンタクト。

よれよれの黄色いタータンチェックのシャツに紺色のすれた様なジーンズ。

白衣を羽織り、

昔からの便所でお馴染みの青い硬めのゴムのサンダル。


彼は、今、『馬場春樹』と名乗り、

内科医を生業としていた。

そして今日も朝から診察してる。

ガラガラガラガラ。


横開きの戸をあけると


カラッカラッカラッ


緑青が吹いたような古ぼけた乾いたカネの鈴の音が鳴る。

『おはようさんです。』


歳は八十過ぎ。

髪は薄い紫と白髪。

細面で、腰は曲がってるけど、灰色というべきかクリーム色のワンピースに和柄のパンツを履き、

薄茶色の柄の少し厚めの羽織るものを着てやって来た。

いつも買い物カートを転がすと中々のスピードで歩く

自称、足の悪い国友のおばあさん。


『おはよう』


待合室にはストーブに大きなやかん。

そこからお茶をつぎながら佐々木の爺さんが応えた。

彼はいつも農作業してるから浅黒く、グレーの作業着を上下着てるが、ジャンパーの前はしめないので、白いTシャツの下に筋肉が見える屈強で

病院来る意味あるのかというくらいの人だ。

『武志ちゃんさあ、朝からなんでいるん?』


国友のばあさんがお茶を貰いながら聞く。


『ハハハハ。愛ちゃん。儂も嫌なんじゃけど、血圧の薬貰わにゃいけんけえねぇ。』


椅子に座りながら、佐々木の爺さんは笑った。


『おう!

いたんじゃね−。』


国友のばあさんが驚く先には、長椅子の端で陰薄く、

昔の公務員の人がしてた四角い金属色の眼鏡をかけ、通勤時のクセだろうか、八折りにして新聞を読む小林の爺さんがいた。

白いワイシャツに茶色いジャンパー。灰色のスラックスで、見た目はまるでミスターオクレさんのような感じで


『おはよ』


ボソッと聞こえるかという声で言うと


『はあ?』

耳をわざと口許にして


『おはよう。元気?』


『小林さんは昨日もいたそうじゃから。元気言うんも。』


と横から佐々木のじいさん、が突っ込んだ。

そして、診察室に向けて


『あ!

先生まだかいねぇ?』


中から、男の声で


『ゴメン。佐々木さん、少し待ってくださいね。』

年寄りの女性の声で


『ありがとうございました。』


『ありがとう。』


『お大事に。』


中から

小学生低学年の頭がクリクリの男の子が、割烹着着たふっくらして髪を後でお団子のばあさんに連れられて出てきた。


『あら?どうしたの?千恵ちゃん』


国友さんが聞くと、


『おはよう。愛ちゃん。鼻が出てねぇ。風邪なのよ。』

『寿くん、ここのお茶飲んだ?』


『飲ませたわよ。』


『私はここのお茶飲んでるけえ調子いいんよ。ハハハハ…』


受付から


『何、バカな事言ってるんですか。

はい、佐々木さん、薬。

三田さんは少し待ってくださいね。』


『先生。

恵子ちゃんはどうしたの?』


『ああ。

藤田さんは風邪です。

インフルエンザで。

冬の忙しさもありましたので、一週間くらい休んでもらおうと思います。』


※[実際は、この年代、インフルエンザになっても長めに休ませてもらう

決まりはなかった。]


『あらあら、大変。

若いのにねぇ。

やっぱり、インフルエンザの患者さん沢山来たけえ、うつったんかねぇ?。

春なのにねぇ。


あ、先生は、大丈夫なん?』


『僕、風邪ひいてないですよ。』


『違うわ。

恵子ちゃんいないとダメなんじゃなかろうか?て』


『ああ。』


春樹は微笑んで


『まあ。

一人じゃ少し大変ですが、臨時で何でも出来る人は中々いないですからね。』


『で、終わったら往診?』


ハハハハ…


といういつもの朝も過ぎていく。

夕方、青年とおじいさんが待っていた。


『山田さ〜ん。


『はい。』


と春樹に呼ばれ、診察室に入って椅子に座ると


バタッ


大きな音が待合室でした。


『ちょっと待っててね。』


春樹が、すぐ待合室に向かうと、御爺さんはうつ伏せから横に倒れた感じで、

ほとんど座ったままの姿勢を変えず痙攣を起こしていた。

春樹はすぐ姿勢を仰向けにして、口の周りを唾か泡を吹いたようにしてる御爺さんの上に乗り、心臓マッサージを始め


ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダ


待合室に音が寂しく響く。


『上戸さん。上戸さん…。

山田さん、すみません。

119に電話してください。』


青年は言われ、電話をした。


『山田さん。すみませんが、少し時間ありますか?

あるようでしたら、留守番を頼みたいのですが、

駄目でしたら、ここから道路に出て、左側3軒先の田崎さんを呼んできて頂けないでしょうか?』

『わかりました。今でいいんですね?』


『はい。』


カランカラン。


春樹は指を少し切り、血を一滴だし、口の中に擦り付けた。


実は、春樹の血は少しだと人間には劇的ではないが治癒を助ける効能があった。

それは病院のお茶にも少し…。


しばらくすると青年と一緒に田崎のおばちゃんがやって来た。


『田崎さん。ちょっとですが、5時半まで留守番お願いしたいのですが?』


『ああ、いいよ。』


『夕方ですから、ご用があれば、鍵しめてもらっても。』


ピーポーピーポーピーポー


『病人は?』


『この人です。上戸太郎で……。

僕も乗ります。』


『わかりました。』


病状を伝えると、一人は救急車に乗り込み、収容先を探しだした。

二人は黄色のストレッチャーにのせ、道路で救急車用の大きめのストレッチャーにのせかえた。


カチャ。カチャ。


そして救急車に載せ、

横に春樹も乗った。


『おばちゃん。宜しくお願いします。

山田さん。ごめんなさいね。

40分くらいしたら帰ってきますので、

もし我慢出来ないようでしたら来ていただければ…。

夜中でも上に住んでますから大丈夫ですので。』


しかし、中々収容先が見つからず、救急車は動かなかった。

20分程してやっと見つかり、

救急車は走り出した。


ピーポーピーポーピーポー…


近くに収容先がなく、少し離れた病院に向かったが、病院でしばらくして、上戸さんは亡くなった。


それを見て、廊下でご冥福を祈る春樹だった。


帰ってすぐ

往診バッグを持ち、看護師の藤田の家に向かう。

1Km程、国道を県境に歩くと四階建てのアパートが左側に見えた。

そこに向かって、道を何度も曲がると入り口のある道にさしかかる。


『えっと。109号だったかな。』


ドアの番号を見ながら廊下を歩いていった。


『あ、これか。』


トントン


しばらく待っていると


『はい。あ、先生。


ドアを開けた藤田は

首にかかるくらいのショートヘヤーで、いつもニコニコしてるきょとんとした瞳の、

よくいるいい子だねぇ。

という子で、

薄い桜色のシンプルなパジャマに淡いパステル調の黄緑のカーディガンをかけて裸足で出てきた。


『大丈夫ですか?』


『すみません。』


『とりあえず診てみましょう。


藤田が少しよろけたので、春樹はささえながら


『ランダ、大丈夫ですか?』


そう。藤田は従者の一人であった。


『はい。』


熱の為か、心の火照りか、

ほんのり顔を赤らめ

玄関でもあるキッチンから

ベッドのある部屋に二人は入った。


そこには、ベッドと、ハードカバーの本が幾つも並べられた本棚と

色々な薬草が瓶詰めされたものが並べられた棚。

調合する道具が小さなテーブルと椅子の横の足下のスペースに片付けられていた。


春樹はすぐに藤田をベッドに寝かせ、

お腹に手を当てた。


手の平をお腹の上下左右触れないぐらいでゆっくり擦る様に探りだした。


ふと、手が黒く光ったと思うと、おもむろに手刀の構えをして、ヘソの右側を刺した。


『ランダ。頑張って。』


『うう…』


春樹が優しく声をかけると

藤田は強い痛さであったが、

我慢してか、

囁くほどの言葉にならない声を出したが


ググッ


春樹は何かを掴み、

中から手を抜いた。

その手には、一節がツルツルとしたピアノのような深い黒に赤茶色の丸い斑の約1cmのが黒真珠のネックレスの様に30cmくらいの百足状の見たことない寄生虫が出てきた。


『春樹様。すみません。』


『ランダ。私の油断です。

もう少し、早く見つけてあげてれば、ここまで生命力を奪われなくてもよかったのです。』


擦るとお腹には傷も何もなくなった。


500ccくらいの茶色い瓶に

入れると両手を拭いて

藤田のお腹に両手をのせ、しばらくそのまま目を閉じて、指に力を入れた。

10分くらい続けると


『はぁ。春樹様。ありがとうございます。』


藤田はまだ頬を赤らめているが、

『春樹様。すぐに…』


『いくら、力を分けたからて、僕のと融合には時間かかりますから、ゆっくり休んでくださいね。』


そう言うと、荷物をしまい、


『時々、診に来ます。

あ、あと誰か来させるから。


少し藤田が哀しい瞳をするのを

後目に春樹は部屋を出た。

帰路、


『そういえば、この間の、魔界の風穴が開いた時に、魔界の薬草を探しに、

山に連れていったのはランダでしたか。

何か、山で起こってるのかな?』


ひとり思う春樹であった。


その夜中、2時ごろ。


ベッドで、

元々春樹は夜行性だから眠ってはいないが横になっていると


『先生。』


ふと、聞き覚えのある声に

春樹はベッドの上に起きて、正座をした。

枕元に亡くなったはずの上戸さんが膝を立てていて

春樹は見上げながら


『上戸さんかあ。

助けてあげられなくてすみません。』


上戸は、笑いながら


『い−え。

ワシは末期だったんじゃけえ。

先生のお陰で長く生きれたんじゃし。

あっちの病院の先生も、驚いてたんじゃ。

胸がキュッていうんしか覚えてないけえ、心臓マヒか何かじゃろ?


大往生じゃ?


ワッハッハッハッハ!


先生にはお世話になりっぱなしで。

今までありがとございました。』


と、深々と頭を下げた。

春樹はそれに頭を横に振り、


『いえいえ。こちらこそ、今まで、お世話になりました。……』


『先生。あんた凄い人じゃったんじゃね。墓まで持ってくわ。…』


『ハハハハ。もう死んでますよ。』


しばらく二人で話していると家族に伝えられなかった事など言い終わったのか


スッ


と、煙のように姿を消していった。


明くる日も朝から診察をいつものように行った。


夜、ふと竿とちょっと餌を持って散歩へ。

夜の国道を夜風に辺りながら、県境へ。


上流より海側がいいかな。


と河岸の道路を海の方へ進む。

あんまり行っても面倒だから、

ランダのアパートよりちょっと先の河口の高いところから竿を垂らして投げてみる。


『おいおい。素人かいね−?』


『ここより上流の堤防が低い辺りなら釣りも楽じゃろ。』


『誰です?』


振り向くと、頭は天辺がはげて、体は濡れた毛がキラキラとした輝く黄金の猿?のような生き物が立っていた。


『襲わんよ。

あんた、ぶち強いじゃろ?

じゃけえ

儂はあんたにお願いに来たんよ。

ここで釣るなら、小舟ないといけんし。

100mくらい上れば、楽じゃと思うし。』


『で、あなたは?』


『ああ。言っとらんかったね−。

儂は猿猴えんこう瀬深丸せみまるいいます。

悪いこと言わんけえ。』


『ああ。河童の?

それで毛がないんですね。』


『河童じゃないんよ。

儂らは緑じゃないじゃろ?

特に儂の毛はサラサラの黄金色じゃし。』


『濡れてベタベタですよ。』


春樹はふと突っ込みをいれると


『ふん。例えばゴリラに日本猿言ったら怒るじゃろ?』


瀬深丸が少しムッとすると


やっぱり同類なんだ。


と春樹は心で呟いたが、すぐ


『すみません。猿猴の瀬深丸さん。』


『ごめん。

そんなつもりじゃないんよ。


あなたを見込んで。』


『海の事は無理ですよ。』


『ちょっとついてきていね。お願いしますけぇ。』


歩きながら、瀬深丸は人に変わり、話し出した。

県境の橋を渡り、上流に向かって道なりに歩きながら。


『実は、うちの子が人を…』


『人を食べたんですか?』


『うんにゃ。

多分、切った爪か髪の毛を食べたら…。

ウチの芸なんじゃけど

入れ替わりを…

ホント、ウチのバカは。

そんで、人の子の姿を写したんじゃ。

前から小学校で遊びたかったらしゅうて。

そんで、遊んで。

替われるのは今までは5時間くらいのもんなんじゃけど

一向に帰ってこんでね−。』


『その子は?』


『え?』


『写したんですから、その間は?』


『てんで関係ないんよ。

和木小学校の子と遊んだだけなんじゃけど。』


『そうですか。

子供ですからね。

でも。この時間まで帰ってこない。

と?

探知は中々骨折れますね。

呼び掛けられないですか?』


『それが…。夕方、電話で、がりゅうが、どうとか。

それで途絶えて。』


『電話通じるんですか。

それにしても困りましたね。

この辺りで、『がりゅう』で

すぐ浮かぶのは二つです。


一つは橋。


一つは梅。


桜なら子供や死体を埋める話はあったりしたようですが。


瀬深丸さんは錦帯橋の下の橋に行ってみてください。

確か臥龍橋だったか。


僕は臥龍梅の方に行ってきます。

その前に、念のため人はほぼ寒気くらいしか感じない気を発しますので

小学校が壊れないように結界張りました。

瀬深丸さんも自分に結界で防御してくださいね。


では、今から発します。


ゴゴゴゴゴ


冷たい気が一気に刺すように周りに散らばり、地響きもなり

瀬深丸も踞り、防御姿勢で強烈な寒気と毛が逆立ち、

冷や汗が止まらなくなるほど震えていた。


『ハアハアハアハアハアハア。


思い出したんじゃけど。

半年くらいか。

白装束の者達に一度ウチの一族を拐われかけてな。

撃退してから、

後をつけたんじゃけど、柳井の山までは。

何分、水ないのわ、不利なんで山からは追わんかったんよ。

あの後、山見たら、変な結界見たんよ。』


『変な結界?』


『そこだけ白と黒の世界じゃ。』


『白と黒?』


春樹も初耳の事に頭をかしげながら考え


『解りませんし。瀬深丸さん。行ってみますか?』


『ありがとう。

ありがとう。』


瀬深丸は泣きじゃくりながら春樹の手を握りしめた。


『まだ早いですよ。

それに川にも幾つか恐怖した者を何人か感じましたが、瀬深丸さんの家族ですよね?

この辺りに、僕の気に敏感に感じたのは他にいなかったから、それも可能性ありますが確定してないんですよ。』


『はい。

じゃあ、連れていくけえ。』


『どこへ?』


『あそこ。』


『どうやって?』


『見てていね。ハーー…』


瀬深丸は黄金色にさらに赤く光り、両手を前にして、大きな丸い円を空に何度も書き出した。


すると、赤い輪が出来て、向こうに別の空間が見え、川が見えてきた。


『あまり留められんけど、一回行った事あるけえ。

何人かぐらいは通れるんよ。

川に落ちんように通っていね。』


春樹は円を跨ぎながら


==あ、ランダ−−。

ちょっと出掛けてきますので、誰かに聞かれたら、出掛けたて言っておいてくださいね。==


==あ、ちょっと。

春樹様。

困ります。せめて私だけでも。==


==ランダは安静中です。==


輪を通りながら、テレパシーで話したが、瀬深丸が渡り抜ける頃には少し空間が見えにくくなり通じなくなった。


春樹は、多分柳井ですかね?

この距離だと通じないのか。

と理解し、一人で納得してると


瀬深丸が通り終わると、ふと消え、


ザブン


大きな音がして川に落ちた。


『自分で言ってたのに。

瀬深丸さん。大丈夫ですか?』


『うううん。あれやったら、皿の水分飛ぶけえ、水に入ったんよ。』


と、

結界が強くなったのか急に空気が変わった。


二人は同じ方向を向き


『あれですね。』


『あ、ウチのいた。』


『そうですか。じゃあ行きましょう。

あ、気は隠してくださいね。


山を見上げると

やはり暗闇の中に色のない変なものがボーーッと浮かび上がってた見えた。


ハーー


ため息つきながら


『僕は普通の生活してたいのですが。』


『すんません。』


『いいえ。あなたの事じゃないですよ。

何でしょうね?

人騒がせな、

あの十人くらいの集団。』


『蛇?猿?』


『ええ。

あの交わった感じ。

人もいますが、ただの人でもなさそうですね。』


身を隠しながら、道路をやめて、険しい山の中を登っていく。


少しずつ、気配がないか木で身を隠しながら。


白と黒の世界の境に着いた。


『これですね。

迂闊に入るとバレますね。

うわあ、それにしても線だけの世界て目がチカチカします。』


手をギリギリのところに当てながら理解を越えた世界に頭を傾げた。


『大丈夫じゃけえ。やるけえ。』


瀬深丸はまた、手で円を作り、境に円の空間を作り上げた。


『何度も大丈夫ですか?

水いりますか?』


水筒を手渡すと頭にかけて、


『ウチの子が心配な以上にしんどい事ないけえ。』


瀬深丸は少しふらつきながら、微笑んだ。


『何だろうね?

この結界。

物凄く気持ち悪いですね。』


手も全て白と黒の縁の空間に春樹が手で体につけてみたり、木の幹の前に手をやって、見比べながら確かめてると


『いたで。』


20m先の木と木の間から、

白い大きな矢倉を組んだ白く大きなメラメラと蠢くような火?

の線。

そして、煙?らしき線。

手前には白い長方形の塊。

上に白い子供の猿猴らしき絵?が寝かされていた。

周りには白装束の白い十人の目あたりに仮面舞踏会にでも付けそうなマスクで隠した人や

白装束から覗く蛇の頭と毛むくじゃらの手。


『おかしいです。』


『何が?』


『実は

猿虎蛇さるとらへび』か?

ぬえ』か?、

とも初め思ったのですが。

あれは人です。』


『でも、あの顔おかしいけえ。』


『顔は猿しか見たことないですね。それで、何らかな力に妖怪の生け贄を合わせたら人と重なるのかな。

と』


『ほう。それは興味深い。』


二人の話す後ろから、バリトンボイスの男の声がした。

一瞬で二人は左右に跳び、左右から、それに構えた。


『おい。おい。お宅らが入って来たんだぜ。』


蛇の顔に、縞の背。

毛むくじゃらの人に似た手。


『後ろ取られましたね。

この強さ。

猿虎蛇の亜種ですか。』


春樹が少し微笑むと


『失礼な。

鵺人ぬえびとだ。

笹野様が、鵺様を臥龍の梅にお呼びしたのだ。

妖怪の生け贄を捧げると

鵺様から力を頂けるのだ。

俺はシンクロ率高いからな。


なあ、あんた。強いだろ。気は感じねぇけど

勘の方はビンビン感じちゃってよ−−。

俺らの仲間にならねえか?』


『これは駄目ですね。

一気に行きますね。

瀬深丸さんは

お子さんを助けてください。』


『そうは…』


その鵺人が喋ろうとする前に

気を上げた。


まだ白装束の『人の形』の4人は


パタパタパタ


と泡を吹き、気を失った。


同時に、足首の返しの一歩で、火の前の並んでた蛇の頭の鵺人を2人を一発殴り、後ろの方へ吹っ飛ばした。


ガッ。ガッ。

バキバキバキバキバキバキ


10mくらい飛び、木の幹が3本か4本折れ、

1人は完全に気を失った様で痙攣を起こしてぐったりとして


もう一人は、


ウウウッ


と呻いてるが鳩尾に入ったから動けなくなった。


『へぇ。

やっぱり強えや!』


春樹の一連の動きに少し遅れて追ってきたさっきの鵺人に

残りの鵺人の一人が口を開いた。


『これ。鵺様の前で騒ぐでない。』


『笹野様。騒いだのコイツじゃねぇかぁ。』


瀬深丸がこの騒ぎのうちにぐったりした子を抱えて走り、火から少し離れ、息があがってしまい片膝ついて、呼吸が荒くなったのを整えようとするが、

連続した空間移動術のダメージの蓄積と、脱水状態もあって、

子を取り戻した安堵で意識を保つのがギリギリなところであった。


残りの瀬深丸を捕まえようとする2人の鵺人も、春樹に後ろから

1人は後頭部を蹴られ、そのまま地面に突っ込み、動かなくなり

残りの1人は首の上あたりの蛇部分を持たれ、

木に顔を打たれ、そのまま

倒れた。


『ほう。これは。

失礼だが、私達の神、鵺様にお仕え頂けないでだろうか?』


『あの鵺がですか?

あの妙な結界を?

違いますよ。

入ったら解りましたよ。

ねぇ。ししおちゃん。』


『え?』


驚く二人に


『お!ビックリした。目をあけたら

久しいね−。

春ちゃん。

すまんが、変な鎖取ってくれ。なんだっけ。

秀頼さんのお付きの者の念たっぷりな溶けた刀、骨喰藤四郎で作った鎖にガチンて。

ここで、でっかい秀頼さんが頭擦るように下げて、無念な気持ちでそこで泣いてるぞ。』


『変な結界に、ししおちゃんを閉じ込めてるのは、君ですね。

笹野さん。

あなたは何者ですか?

人間じゃないでしょ。』


『人間ですよ。あなたと違って。』


笹野の言葉に笑いが堪えられず


『くくく。

九尾なら、鵺に力借りないでしょうし。

猫又じゃあ、こういう結界は大それてますね。

重なってますが、この人は人間が混ざってるのは分かるんですが、

あなたのはどうも隠したやり方にしか感じないんですよね。

お手合わせしてみましょう。


あ、彼はどうしますか?

名前聞いてなかったですが。』


『あ、田貫誠です。』


『態度が急に変わりましたね。

でもタヌキ?

動物の?』


『いえいえいえ。田圃の『田』に、物を貫く貫通なんかの『貫』です。』


『あ−−。

じゃあ、瀬深丸さんを見ててくださいね。』


さっきより少し力を入れて、左足の親指一本踏み込んだ。

周りの皆が見失うくらいスピードを上げ、移動して、


次の瞬間


笹野の正面下側に屈んで現れ、左拳が腹をかすらせながら鳩尾に一発で捩じ込んだ。


ドーーーーン


100mくらい上に飛んで、

落ちてきた。


ガサ。ガサ。ガサ。ガサ。ガサ。

ドン


木の枝に当たりながら岩の上に落ち、鈍い音がした。


倒れたのを見ると気絶した衣を着た狐だった。

すると、白と黒の世界は元に戻った。


『初めての体験でしたね。あ、尾っぽは1234の5。

五尾か。』


さっきまで自信に満ちた得意顔だった田貫は顔が青ざめていた。


『すみません。すみません。すみません。

あの−。ただの人間に戻れます?』


『妖怪成りたかったんじゃないんですか?』


『いえ。スペシャルになりたくて。

それに神のはずの鵺様が捕まってたのがショックで。』


『鍵は?』


田貫は顔を横に幾度と振りながら

急いで倒れてる五尾の狐の衣の中をまさぐると紐に括って、

内側に縫いつけてある鍵を見つけて

渡してくれた。


鵺は、白と黒の時より今の方が見えにくかった。


夜の黒い煙とか細い雷で形をなした鵺は


『ししおちゃん、ダメですよ。綺麗で美味しそうな雷遁の術とか、闇より闇などす黒い闇魔法でも見せられて捕まったんでしょ?』


鵺は図星つかれた事に動揺して


『な、なんで解った?

春ちゃんには敵わんな−。

本当助かった。』


カチャカチャ


春樹が鍵を外すと、鵺は体を伸ばすように背伸びを繰り返した。



『父ちゃん。父ちゃ−ん!』


子供の泣く声に

春樹はその方を向き、

駆け寄り

子を抱きしめたまま、消えそうな瀬深丸を抱きかかえ


『ししおちゃん、少し助けてください。

彼。瀬深丸は今回中々の働きをしたんですよ。

ただ力を使いすぎて死にかけてます。

あなたの不注意でね。』


『そう言うなよ。我も瀬深丸殿を助けてやりたいのはやりたいんだが。

だがなあ。

もうその力?は失うぞ。

ただの河童だっ。』


春樹は声を遮り


『瀬深丸は猿猴ですよ。』


『そうか。ただの猿猴だ。それで良ければ。』


『父ちゃんを助けて!』


『よかったですね。私の力では無理でしたから。』


『えー。春ちゃんの従者になったら完全に治せたろうに。』


『従者てそんなもんじゃないでしょ。』


鵺は話しながらフワッと翼を広げ、

瀬深丸を持ち、

そのまま自分のまるごと闇な腹側に包み、翼で抱きしめた。

急に固まって動かなくなった鵺に


『どうしました?』


『3分、時間をくれまいか?』


『瀬深丸はカップラーメンですか?』


『いや。

我のを分け与えてるんだ。


『あのう、春樹様てお呼びして宜しいですか?』


『様はいらないですよ。』


『じゃあ春樹さん。』


『はい。』


『鵺様て、ししおが名前なんですか?』


『違いますよ。本当はね。

忌み名は誰にも教えないんですよ。

ただ鵺にため口で話すの中々いないでしょ。だから普段呼ぶ名がなかったので。』


春樹は笑って答えた。

そして


『実は、ししおちゃんは一回、源氏の武者に射られて成敗された事になってるんですって。』


『我が話すよ。

その時、面倒で、射られたように見せて、暫く彼の雰囲気が気持ちよかったので影に住んでたんだが。

当時の帝から我を討った褒美に賜ったていう『獅子王』なる漆工芸の鞘の宝刀には一目惚れしてなあ。

それから、刀の中でいつも寝ておったんだ。

それで、手入れの度に頼政に呼ばれてたら自分が獅子王て呼ばれてる気がしてな。』


『だいぶ、後に、ししおちゃんが我を失って暴れてたので、とめる為に闘って。

なんかその後、我に帰って、仲良くなりました。


ね。


その時、酒の肴に話してくれまして。

それは刀の名前ですよ。

とか話してまして。


どうせなら、名前つけてあげましょう。

て事で


同じ音と、


彼、桜も好きて事ですから


ししおちゃんだけの名前『獅子桜』て。


だから、ししおちゃん。』


鵺は少し照れながら


『我の横に横に来てくれ。田貫。』


『はい。』


『お前のを、我が返してもらい、瀬深丸殿にやる。』


『逃げてはいけません。』


隙をついて逃げようとした狐を

首から背中を叩き、

捕まえて、今度は衣を少し破いて、両腕を後ろで結んでいると。


『そうか。春ちゃん。

そりゃあそうだ。』


『一人で。どうしました?』


『田貫て妙に早かっただろ?』


『そうですね。』


『こいつの融合の相手は鎌鼬だ。』


『それなら、解りますね。

生きてます?』


蒼くそして白くゆらゆらとした焔を纏った珠を見せながら


『魂化してるから、どうなるかわからんが、春ちゃん持ってるか?

俗世にいないと、育たんからな。』


と、3分くらいたち、横たわらせた瀬深丸は消えそうだった体は保ってはいるが目は覚まさなかった。


『これで大丈夫だ。疲れは寝たら治る。』


『父ちゃ−−−−ん!!』


子は瀬深丸に抱きついて、

嬉しさと涙で顔をクチャクチャにしてた。


『さて、まずは狐だな。何本取ろうか。』


倒れた教徒化した者を並べている春樹にいたずらっぽく言うと


『そうですね。

ししおちゃんは、迷惑かけられたからと全てと言いそうですが、

すると長年、体内だと怨みも買いますしね。

残すの二本にしませんか?

そして、取ったうち一本と生命力をししおちゃん。残りを魂化された者たちに分けたらどうですか?』


『ああ。それなら。

まあ狐の珠も春ちゃんに預ける。』


元に戻ると、髪は少しカールがかった長髪で、TOKIOの長瀬さんを崩し柔らかくして、5ミリくらいの無精髭を鼻と口の下に生やせて、少し焼いた雰囲気の顔、細マッチョな体。

格好はパンツはグレーを基調としたアフリカンな赤に黄緑を配色した民俗風で、

長めの白いシャツをラフに着流し、

洗ってシワを取らなかったような紺がはげてグレーを醸し出したデニム生地の腰より長いコート。

そんな感じ兄さんだったが、小さい声のバリトンボイスは聞きとりにくい。


『・・・・・』


『どうしますか?この後。

揃ったら、記憶までなくすか、そのまま帰るか?

大それた事ですが、このまま帰って、周りに言えば、痛い人と思われますね。

言えば反省もしてないこまったちゃんですが。

記憶消せば、それが何なのか一生悩む。』


田貫は地べたに座り込み考え出した。


鵺は


『哀しいなあ。』


『どうしました?』


『他の者のベースになった者が…』


春樹が珠を見ると

黒い焔の珠が二つ。

よく見ると、どこからか盗まれたヘルハウンドの仔犬二匹。

呆れてため息つきながら、


『あとは?』


と確かめると小豆色の焔の珠、これは小豆洗い。


『なんのために??』


面倒な一つを発見する。


『よく捕らえたというか、五尾がやったのか血のような赤い焔の珠、小鬼のですか。

ハグレの地獄の鬼ですかね?

あなた方、死んだ後大変ですね。相当、善行積まないと、地獄決定。

それも小鬼でしょ?

同僚多いから

ジクジクジクジク戯れのようにいたぶられますね。』


『お前たち。

これは知らない。

誰々のせいじゃすまん。』


我にかえって聞いた者も青ざめていた。


『それに、これからの人生は閻魔庁に入れなかった周りでたむろってる雑魚連中も胡麻すりの為に、あなた達の人生に少しずつちょっかいだして地獄への道を囁き、誘いますから。』


『なんとかなりませんか?』


春樹も鵺も何も言わず、頭を横に振った。


『じゃあ帰りますか?』


茶色くなった瀬深丸をおぶって、子と帰る支度をしてると

鵺が


『これ。』


『何ですか?』


『我の羽毛2枚。』


『??』


春樹が解らずいると


『人間は無理だが、『鵺の羽毛』は、ハルちゃんみたいな闇の住人なら死ぬ直前の重症でも。

行動一つで変わるけど、近々、最悪、ハルちゃんの身内2人がハルちゃんの力をもってしても治らんくらいの。

気を付けろ。』


『ししおちゃん。

またいつか飲みましょう。』


『ああハルちゃん、またな。

まだ頭のふらつく教徒を連れて

山を降りる事にした。


フワッ


翼でひとかきすると、鵺は空高く飛びあがり北東へ飛んで行った。

皆で山を降りながら、


『父ちゃん大丈夫?』


『お父さんは凄いんです。

強いお父さんなんです。

あなたの為に全ての力を使って。

生命力自体は鵺のししおちゃんに力を借りられたんですが、

疲れきっているのです。

もう少し寝かせてあげてくださいね。』


『うん。』


おぶって下山して、


『皆さん各々帰ってください。では。

あとはあなた達次第です。


『助けてくれないんですか?』


教徒が口々に懇願すると


『やれやれ。言ったでしょ。

これからは自分で変な囁きには耳を傾けず、人生を過ごせばよいのですから。

あなた達は自分達以外は傷つけてもいいけど、自分は傷つけられないというのは虫のいい話だと思いませんか?

もう説教くさくなるの嫌ですか、もう言いませんが。』


川の方へ春樹と猿猴の子は歩き出した。


『そういえば、ボク、名前は?』


『まだないの。

皆、ぼうとか、お客さんは、ぼっちゃんとか。』


『ああ。もしかして大人になる儀式したら名前がもらうのですか?』


『うん。』


嬉しそうに頷いた。


歩いてると


『ウウウッ』


『大丈夫ですか?』


『父ちゃん!』


『少し楽になったけえ。』


『でしたら、もう少ししたら、水補給して、一緒に跳ぶのに付き合ってもらいましょう。


瀬深丸さんの様に移動は出来ませんが』


皆で笑いながら、川に向かった。



数日後

12時半すぎ、いつものように朝の診察の後の書類整理も終わって。


『朝はおわりました。』


と受付で、肩甲骨をほぐしながら背伸びし、

事務をすませて立ち上がろうとすると


うん??


変な気配を感じた途端。


ガラガラガラ…


カランカラン


『スミマセン。』


『外国人?

というか…。』


彼女は透き通るようなきめ細かい白い肌。

細面でパッチリとした瞳は薄めのブルー。

いやエメラルドブルーで

すっととおった鼻。

見たことある少しボテッとした厚みはあるけど可愛い唇。

ヨーロッパの南と北の両方のよいところをもらったように美しく、

腰まである澄んだ白金の髪の毛に、

水色のワンピースに白い可愛い短めのコート。

左手にはとじた少し大きめの日傘。

右手で四角で小さい茶色の皮のトランク。

==あれ?雰囲気は覚えあるけど見た覚えないですねぇ。

でも、この気は…?==


春樹が心で呟くと


==おじさま。==


いきなり頭に声が飛び込んできた。


==なんだ?==


==お母様のお兄様でしょ。フフフ。==


『この匂いは…、イオアナの?』


==あ、お母様は今はゾーイよ。私はマリリン。はじめまして。ですよね?==


小悪魔がイタズラしたような笑顔で微笑んだ。


『いやいや。解りましたから。でも、まず声にだしましょうよ。』


春樹は少し困ったようにしてると


『えー。めんどくさいんですけど。』


『変な喋り方は覚えないでください。』


==第一声が…。

なんだかな。==


とか少し困惑しながらも

最近のゾーイもといイオアナ(春樹の妹)の近況や父親などの事をお茶飲みながら聞いていた。


それから昼の診察前、1時45分頃。

医院に綺麗な外国のお嬢さんが入ったと聞き付けた

すぐに国道をでた所から下りに向かい、

50m程離れたガソリンスタンドの戸籍での同世代?で友達の

社長山井弘春が飛び込んできた。

背は平均より10cm低く、160cmくらいで

細身。

未だ高校生のようにハリネズミみたいに髪をたてて、

少し成金ぽい手首に金のブレスレットをした、

オシャレを勘違いした格好に

医院の前には似つかわしい赤のベンツC180カブリオレが横付けしていた。

待合室でペットボトルのお茶を飲んでくつろいでいた春樹に


『誰?誰?誰?』


『ヒロちゃん。

あなた、おじさんでしょ。

何を盛りついた猫みたいになってるんですか。』


春樹は笑いながら、長椅子を指差した。


『僕の彼女です。』


山井が驚いて腰抜けたように床に座り込むと


『おじさま!』


マリリンが語気を強めて言うと


『へ?

おじさま?』


山井はマリリンの言葉に我にかえり、

春樹に目を向けた。


『ゴメン。ゴメン。親戚の子です。アリス。


春樹は手を紹介するようにマリリンに向け、イタズラ坊主の表情してると、すぐ


『マリリン!』


マリリンはムッとしたが


『はじめまして。

マリリンです。ヨロシクお願いします。』


少しホッとした顔をして


『よろしくね。僕の名前は山井弘春。

うーん。ヒロちゃんて呼んでや。

ヒロポンでもいいよう。


それにしても日本語上手いんじゃねぇ。』


『日本語、一生懸命勉強しましたから。』


マリリンが応えると。


『いやあ、たいしたもんじゃねぇ。

ハハハハ

あれ?マリリンちゃんはハーフ違うよね?』


『はい。』


==彼は何を言ってるの?==


==ヒロちゃんはね。僕をハーフと思ってたようですよ。==


==そうなのね。

でも、おじさま。名前は少し無理あるんじゃない?==


==そうですか?

名前は父さんが日本人なら基本的にありえますから。

それにしても、一族なら、どの言葉も理解出来るから喋られるのは当然ですが、今のは答えとして百点ですよ。

==


心の中で話してると

山井が


『マリリンちゃん、いつまでいるん?』


『せっかくですから、しばらくいようと思って。』


彼女の言葉に、春樹は驚き、


『イオアナに話してますか?』


==話してないです。==


マリリンは心の中で返したが


『話してないです。』


とすぐ言葉にだした。

と共に心の中で


==おじさま。私、幾つと思ってるんですか?==


==知らないけど、人間の世界だと今のマリリンは20前後だから、聞いた方が自然なんですよ。==


==ああ、そういうものなんですか?

わかりました。

==


実際は、二人は話さないで、ジッと見る春樹の顔は深刻そうで、なんとなくマリリンが下をむくのを見て

これは、いけない。と気をきかしたつもりの山井が


『まあ、まあ、まあ、まあ、まあ、まあ。』


と間に入り、


『あとでハルちゃんがお母さんに連絡しとけばいいじゃろ』


と、


トン。トン。トン。

戸をゆっくりノックする音がして


『あのー、そろそろ宜しいでしょうか?』


外の声に


ガラガラガラ


春樹が戸を開けると、修羅場かと、ばつが悪そうに恐縮してる四人が並んでた。


春樹は


『あ、すみませんね。どうぞ。

どうぞ。


彼女も、山井も


『ゴメンなさい。』


『ゴメンなさい。』


と、頭を下げた。


『姪のマリリンです。挨拶して。

終わるまで二階に上がってくださいね。』


春樹は振り向き、患者さんに


『すみません。すぐ診察しましょう。』


頭をさげ、昼の時間は始まった。

………夜7時すぎた頃。

診療後の雑用や整理をすませて上がった。

春樹は二階に上がりきる前に、

心で


==テレパシーとでもいうのか

もう永く使ってないですから、ドキドキしますよ。

それにしても晴れた日に外を歩くなんて凄いですね。==


『あ、おじさま。終わりましたか?

あれはお母様の開発したファンデーションと糸に結界を練り込んだ日傘と服があれば夏以外は大丈夫なんですよ。』


『春樹でいいですよ。


『春樹?』


『いやいや、さんとか付けてくださいよ。』


『春樹さんとか』


『春樹さん!!』


ムキになって言うと、

イタズラが成功したかのように微笑んでいた。

そして、


『春樹さん。大変かな?て。

身の回りの世話させるのに歩いてた女をご用意…』


ドーーーン!


一瞬で、春樹は、マリリンの首に右手で喉輪をいれ、そのまま潰す勢いで壁に叩きつけた。

そして真紅の混ざった生気のない黒い瞳で、マリリンを氷の様な冷たい眼差しで見つめた。


『戻せ。』


彼女は、さっきまでとは全く違う禍々しい気迫に自分では敵わない事を一瞬で理解し、コクッと頷いた。

音に驚いた三軒隣の田崎のおばちゃんが慌てて、外に飛び出して、辺りをキョロキョロとして騒いでるのが、解ったので、

春樹はいつもの顔に戻り、二階から、体を乗りだし、


『すみません。田崎さん。もしかして、さっきの音ですか?

ウチのが、ボリューム上げすぎて。』


ペコッと頭下げると

田崎さんもニコッと


『ああ、確か娘さん、姪かいね?

大丈夫だった?

なんか空から落ちてきたのかと思っちゃった。』


と、口に手をして笑いながら、会釈して、家の方に戻っていくサンダルの足音は遠ざかっていった。

振り向き、春樹は


『すぐ戻せ。記憶は俺が入れ換える。


マリリンはすぐに

玄関の前で立ったまま、固まっている女の人を中に入れ、手を額にあて、元に戻し、

春樹により、

風邪気味で診療に来て、終わった後、お茶を飲みながら待っている。

という記憶を植え付けられ、待合室で女の人はテレビを見てる状態で意識が戻った。


『片瀬さん、お薬です。

熱冷ましも入れておきますね。

保険証は後日持って来てくださいね。

お金はその時でいいですよ。』


『ありがとうございました。』


『お大事に。』


彼女は靴を履き、何事もなかったように戸をあけて帰っていった。


『マリリン。今度したら、誰にも感知出来ないくらい地下深くに埋めますよ。


元の微笑む春樹に戻っていたが、マリリンには春樹の瞳の奥から感じた意思は、冗談には見えなかった。


『もう何もしないから、少し町を歩いてきていい?』


『じゃあ一緒に駅まで少し散歩しますか?』


『うん。』


マリリンは微笑んで返事をして、

二人は簡単に身支度をして、暗くなった町の散歩が始まった。

しばらく国道を歩くとY字路で


『そこにあるガソリンスタンドが山井ので−…。』


と説明しながら、一瞬、中を見たが、忙しそうなので

さっさと通りすぎた。

20mほど、さらにまっすぐ行くと右手の道路向かいに古めかしい四階の建物が看板に『ザ・メニー』と書いてあるスーパーがあった。

二人が信号で渡ると、春樹は


『ここは不思議な事に四階建てなのに一階に、酷い雨の日はゆるい滝並みに雨漏りがするんですよ。

古いらしいですしね。

そして、向かいのたこ焼き屋さんは、たこ焼きを焼き置きするもので。

いつも保温器の中にあるから、

フニュッとした食感としゅんだソースが微妙に旨くないのに、何か悪くない味の店なんですよ。』


とか、くだらない話をしながら、さらに進む。


『このデザイナーズマンション?て書いてある建物なんか不思議な雰囲気。』


『そうなんですよ。

この門から中側と空気感が違うんですよ。

何なんでしょうね?』


『そういえばおじさま、違った春樹さん。血はどうしてるの?』


クスッ

春樹は少し笑いながら


『そうですね。

獣とかですかね?』


『獣?それで力て保てる?』


『力は必要以上いりませんし…。

いざとなれば、輸血用の少し保管してますので。』


踏み切りを渡り、すぐ右に折れ、まっすぐ進むと駅に出てきた。


『どうします?何か食べますか?』


『食べないよ。』


『じゃあ帰りますか。

あ、ちょっと待ってください。』


駅で缶コーヒーを買って

春樹はグビグヒ飲んで、また歩き出した。


駅から右手に線路際の道を歩くと、すぐ地下道があり、抜けてしばらく国道に向けて歩くと


『こっちの方が近い?』


『そうですよ。さっきのは買い物出来る所を見せるための散歩ですよ。』


春樹はニコッとして、マリリンの頭をポンポンと叩いた。


二人が医院の前に帰ってくると、

薄暗い中に 家の前についたレトロな傘についたポッと薄明かるく照らす外灯の下に赤らしい車と、

なんか幾つもの買い物袋らしきものを持って立つ一人の影。

『どこ行っちょったんね?

ハルちゃん、さっき、ウチの前、通ったろ。

何で寄らんかったん?』


『ヒロちゃん。

中から何かしてたし、出てこないのは忙しかったんじゃないですか?』


春樹が応えると


『そうじゃけど−。

まあ、ええわ。

それよりカギ開けていね。

重いわ。』


『あ、ごめん。』


ガラガラガラガラッ。


マリリンはサッとあがり、二階に上がろうとすると


『あ−。マリちゃん、一階ね。着替えたら降りといで。

ここ水回り一階にしかないから面倒じゃし。』


山井は勝手知ったるで、待合室の植物の鉢の裏に片付けてあるテーブル出して、袋からテーブルの上にのせていく。

春樹も同じ所から椅子だして、グラスを置いた。


『マリちゃんはお酒飲めるんかいねぇ?』


惣菜や寿司出しながら大きな声で聞くと、


『はい。』


と、上から応えた。


『何が好きか分からんから。

女の子じゃし、サラダは好きじゃろ?』


と春樹に、手でグッドとして、サラダをドーンと中央に置き


『ローストビーフに

鶏の唐揚げと、

後、ハンペンとガンスと〜、

あ、あと揚げてきた小海老の唐揚げでいいかね−?』


春樹は


『よくやるね。』

と呆れながら袋から紅茶の無糖とノンアルコールビールと近辺の日本酒『五橋』と オレンジジュースとビールを並べた。


マリリンがピンクと薄いグレーの可愛いジャージに着替えて降りてきた。


山井は彼女を見て、


『可愛いネ−!』


春樹は


はあっ


呆れたようにため息をついて

山井の肩に手をやり、頭を横に振りながら


『圭織さん、元気?』


『えーー。嫁さん関係ないじゃろ。褒めただけじゃんね−。


『まあ食べましょうか。さあさあ、飲み物各自でいれて!』


各々注いで、


乾杯!


と、一時間くらい話していると、


『あ、いけない。

今晩、商工会の集まりじゃった。

遅刻じゃあ。

車置いとくけえ、頼むね。

明日とりにくるけえ。

あ、電話何番か分からん。

タクシー呼んで。』


駅から近いのでタクシーもすぐ来て、騒がしい彼は去っていった。

山井の乗ったタクシーが出た後、

テーブルのをつまんでるマリリンに春樹が


『マリリン。ちょっといいですか?』


『へ?』


真面目な顔してる春樹に少し驚いていると


『昔、故郷近くの山奥にあった魔界の入り口なら、

似たようなの見た事はあるんですが。

今回は虫じゃなく寄生してましたから。』


と言いながら、茶色い瓶をテーブルに出して、マリリンに見せた。


『何?これ?


どこにいたの?』


マリリンも珍しかったようでマジマジ見ていると


『ジイがいるとすぐ解るのですが。

この辺りは神の力が効いてる場所で、ほとんど出てこないはずなんですが。


実はうちのがやられたんです。

時々、こちらの世界にも、こういうのが来ますが、うちのがやられたていうのが、ひっかかるんですよ。』


『本当にやられたの?』


『ええ。

うちの中では、確かに、ランダは、一番弱いから、やられる可能性はありますが。

ただ彼女でも下級の神の使いの相手なら、倒せませんが、時間稼ぎ出来るくらい実力はあるんですよ。』


『春樹さん。占いしてみますか?』


『出来ますか?

ああ、確かに。

頼みます。』


母イオアナ譲りの力があるというのでマリリンにみてもらった。

『う、う、

昔の橋


神社


怒り


ダキ?



黒い影?


うん。こんなんでましたけど。』


『イオアナより全然駄目じゃないですか。』


マリリンも食って掛かり


『おかしいのよ。春樹さん。

何か分からないけど、深く見せてくれないの。

闇の海をもがいて、もがいて

頭に浮かんだのが、あのワードよ。』


『あの泉アツノさんのセリフでふざけたのは?』


『以前、日本旅行の時、見たのよ。

日本人なら笑ってくれるのかな。て思ったけど…

ごめんなさい。』』


相当汗かいてるのを見て

春樹も何かあるのは分かったが


『古い橋?古い橋?

どんな橋?』


『階段と

あと車は走れない。』


と、マリリンはコピー紙に絵を描きだしたが

残念な事にマリリンには絵心がなく、

ただの試し書きか、幼稚園児の延長の書き筋の線だった。


『こんな感じ。』


『は?』


==何?この輪は?

文房具店のペン売り場に置いてある試し書き?

線だけ。

絵?==


と、つい、無意識に送っていると

それを聞いたマリリンが


==聞こえてる。==


と、頬をふくらませて、ふてくされた。


==可愛いのは10代までです。

==


春樹の頭に、『古い』の言葉

から、厳島神社がまず出てきた。


『赤い?』


『赤?

違う。』


『違う?

厳島神社に橋があったんですが。

他に?』


『他他他…………………』


暫く考えてると


『あ!!

でも、この間行った所からは遠いのですが。

隣の県に錦帯橋ていうのがあるんですよ。

そこぐらいしか分からないので−。

それにしても神社かあ。

ちょっと行った方がよいのかも。』


以前、山井からもらった古い黒のスクーターで夜道を錦帯橋に向けて走った。


夜の2号線は意外に車も多く、少しかかった。


『ふむ。錦帯橋ていっても真っ暗。

周りを探ってみますか。』


春樹は、暗く人が全くいないい錦帯橋を独り言を言いながら、真ん中に行き、

目を閉じて、周りを見てみた。

気は感じない。


『ないなあ。

どこですかね−?』

少し広めにもう一度見ると


『ああ。

何かありますね。』


すぐスクーターに戻り、臥竜橋の方へ向かい、その強い気に向かって、歩いていると


『上に鳥居?

神社??

稲荷神社かな。


と、すると宇迦之御魂神様?

でも、こういうエグい仕打ち?をす・る・の・は、

ダキニ天様の御分霊様ですかね。』


と独り喋りながら上がっていくと、小さな社。

少し片付けられてないのも見え、これが弱る原因かな?と思いつつ、

考えていると

手前の狛犬のように置かれた二つの狐像(けん属の像)の左から白く重々しい気配の煙が漂いだした。


モク。モク。モク………


と、ゆっくりと辺りを白い靄のような煙が覆い尽くしたと思ったら

その煙がす−っと集つまり

異様に強く白くボヤッと光る何かわかるくらいの存在になった。

すると、しゃがれた女の声で


『やれやれ。

よくこんなにすぐ分かったものだ。

お前も何者だ?

えらく強く気を発しているが。』


春樹はこれこれしかじか自己紹介と身内の現状を話してみると、意外にあっさりとわかってもらえた。


『いや、悪かった。

だがな。

それは力は確かにワシだがワシではないんだ。

話は長くなるが聞いてくれぬか。


実はワシがな。

去年の春先、宵の口、人間の花見があって。

しばらくして終わり、

灯りも消えた夜の静まった錦帯橋辺りを花見がてらに御神酒を少し温め、魔法瓶に詰め飲みながら散歩してたのだ。

その時、ワシと同じく、

このあたりで神として祀られてるびゃくちゃん。

えっと、『びゃくだ』て名の白蛇の神に出会ってな。

彼女とベンチに座って、盃を交わしていたんだよ。

お互い、最近の参拝者はマナーが酷い事や桜の枝を折るのはダメだ。とか、最近は春が早くなったなんか。

愚痴や世間話してたんだ。

そんな時、ふと強い風が吹き、花がフワッと散って花吹雪が綺麗だ。

て、目を細めた瞬間に、

いきなり彼女に左の薬指をかまれてな。

驚いて見ると、

びゃくだの青白い肌は、黒より黒い漆黒に変わり、そのまま水のように地に吸われたように消えていったのだ。


後日、びゃくだにその事を聞くと

曰く


『『ワシは、ダキちゃんが咬まれた二日前にじゃ

いきなり飛んできた黒い塊にぶつかったの蛇。

そのせいで背を痛めて、ずっと寝てたん蛇。』』


と。

あ、『じゃ』は彼女の口癖だ。


『と、いう事は?』


『あれは解らぬ。

ただ、今も、何か繋がってる感じがするのだが、ワシにもびゃくちゃんにも見えないのだが

力を吸われてるのだ。

もう一年くらい。


ワシの力はお前に比べると分霊だから、大した事はないんじゃがワシに来るはずの総本社様の分も気を吸われて、変な感じがするんだ。』


ああ、ダキニ天様が

相手か。


と思いつつ、


『ああ、見えますね。この黒い糸みたいですね。

ちょっと実験してみます。

…………○×△○○×△急急如律令!』


依代を内ポケットからだすと、黒い糸に貼りつき、切ろうとしたが燃え尽きた。


『強くないですが厄介ですね。準備いります。』


煙はタバコを吸ってる人が咳をしたようにパッと外に広がり元に戻った。

『驚いた!

お主、吸血鬼だろ。

なぜ陰陽師のが使えるんだ?』


春樹はちょっと微笑んで


『実はですね。

もう50年くらい前に

京都で意気投合した陰陽師と酒を酌み交わした時に教わったんですよ。

昔から、一度、使ってみたくて、

依代もいつも財布に入れてたんです。

でも、これを切れないとなると、倒すと貴方様にもダメージあるかもしれないですね。』


陰陽師ばりの技を少し得意そうにする春樹に触れたら、

何か面倒そうだと察知した分霊は


『うむ。やむを得ぬ。

お主のいいようにやってくれ。』


話せなかった事に少し悔しかった顔の春樹だが


『すみません。もう日の出までを考えると準備が間に合いませんので、明日の夜にまた伺います。』


『そうだったな。

吸血鬼ていうものは、やはり太陽はダメなのか?』


『それもありますけど、診察がありますので。』


『ハッハッハッ

ああ、お主、医者だったな。分かった。夜に頼む。ホント変な吸血鬼だ。』


ささっと下に降り、


バババババババ


春樹はスクーターに乗り、帰った。


『おかえり春樹さん。

どうだった?』


『ちょっと厄介ですね。

棟梁!

棟梁!』


『へい。』


天井より声がした。


彼がわざわざ作った正方形の形の板が重なった天井一つ空いてる所から、鉄の鎧とハリネズミを合わせたような風貌の鼠が現れた。



『春樹様。飛鼠ここに。』


『棟梁です。通 陽介とおりようすけ

て名前つけたのですが、凄く器用で大工仕事から細工事までなんでもこなしますから

名前の一部からも呼びようによっては棟梁のですから、そう呼んでます。』


『飛鼠は?』


『暇な時にでも聞いてください。』


マリリンに紹介して、

棟梁の頭に手を当てて


『わかりましたね。ここです。分霊様から出てる糸を追ってください。』


『は。

おいらで倒せるようなら倒しましょうか?』


『いや。

どうもよく分からないので、出来たら姿を見られたらとは思いますが無理はしないでください。

あと、この御札を…

あの周辺の地図ありましたっけ?

あ!待合室の道路地図を貸してください。』


棟梁はすぐ取ってきて

テーブルの上に開いた。


『錦帯橋あたりを中心に、こことここと……。

5つを見えないように貼っておいてください。』


棟梁はパッと飛び上がり

天井に戻り気配も消えた。


呆気にとられたマリリンは


『何?』


『紹介したじゃないですか。』


『違うわよ。

あの装甲て感じの鼠初めて見たのよ。』


『ああ。鉄鼠ですからね。

初め、単純なツルッとした鉄の肌の鼠だったのですが、

彼に動物図鑑でハリネズミ見せて、鎧兜の図鑑を貸したら、

次の日に、自分なりにあの格好になって来ました。

彼が作ったらしいです。

あれに名前彫っていたら完璧だったのですが。

あと、人になれますから。

その時はまた紹介します。

ただ、今の彼のマイブームがドラマ水戸黄門の『柘植の飛猿』、忍びの者だそうですよ。

だからじゃないですか?飛び何とかと自分を呼んでいたの。』


そして今日も診察が始まる。


今日も朝からじいちゃん、ばあちゃんの憩いの場。


夕方、診察終わった頃、


『春樹様。』


『どうでした?』


『錦流の滝の辺りにいます。

多分。』


『多分?

多分とは何ですか?』


『春樹様のいうとおり、場所までは追ったんですが、土の中に入って。

姿形わからないんです。』


『ああ。

そういう事ですか。』


春樹が頷くと


『あと、呪いは見えませんでしたが変な因果ありますね。』


『因果ですか?』


のぶさんて知ってます?』


『信さん?』


『えっと、織田さん。

あ−−−−。信長でしたか。』


『へ?

織田信長に織田さんとか信さんていう人初めて知りました。』


『すみません。

しかし、時々、彼とは夜中に酒飲みに行って、話してたものですから。』


春樹はハッとして


『まさか因果て棟梁のですか?』


『はい。』


『いや。関係ないと思いますよ。

それに因果て意味知ってますか?

何か幸か不幸でも?』


『エッ?エッ?エッ?エッ?。

すみません。

この間、テレビのセリフ、カッコよかったので使いたかったんです。』


泣きながら棟梁は謝っていた。


『なにも泣かせなくても。』


マリリンがかばうと


『この子はね。

何でも泣くんですが、

なぜか成長するんですよ。

ただ、今の会話に何も泣かす要素はないです。

Mなのかわかりませんが。

泣いたら強くなる子供とかいましたが、

何故か何かしら。

また調査結果も改善しますし。

泣いた次の日は、鎧もマイナーチェンジみたいに変わりますし。

あ、あと強さだけなら、ウチのやられたランダより強くなりましたよ。

日本に来てからの従者ですから、かなり最近、迎えいれた者ですが。


春樹は着替えて、


『では、マリリンもご飯はいいですね。

ちょっと行ってきますね。』


バババババババ


春樹はすぐスクーターに乗り、カゴに棟梁が飛び乗り走っていった。


ババババババババ


『行っちゃった。

なんかスーパーに足りないもの買いに行くみたいね。』


マリリンはボソッと言いながら見送った。


途中、信号で停まると春樹はふと、


『そういえば、棟梁。関係て何ですか?』


『えっと、これから行く大膳川て、信さんの孫で三法師と言われた秀信の有力家臣で後年、福島正則の家臣となった木造大膳具長と歴史が…。』


『ププ。もういいです。

棟梁。

奇妙て言えば、奇妙ですが偶然です。

そういえば、今いる中心から昨日のと同じように同じ方位に御札をまた貼ってください。

頼みますね。』


春樹はポケットから御札を渡した。

近所の森須とかいうお酒屋さんの自販機の前の邪魔にならないところにスクーターを停めて、

自動販売機でトマトジュースを買い

一気に飲み干した。


『棟梁。お願いしますね。』


見ると、棟梁は姿が蜃気楼の様にゆらゆらとしたかと思うと気配も消した。

春樹も走って山に向かっていった。

初めは道路を走っていたが山に入ると

木の上から、砂防ダムを横目に

さらに奥に進むと

関係ない周りの気も全て吸ったように木々は弱って感じられた。

さらに進むと、徐々に枯れかけたものが多くなり、

その中心は何も生えてないが枯れ木や枯れ草が散らばっていた。


『切ってしまうより、本体を弱らせる方がよいのかもしれませんね。』


春樹は構えて、黒い糸を両手で持つ準備をして


==棟梁。いいですか?==


==最後の一枚貼るところです。

貼りました。==


==じゃあ、五角形の外側に出ておいて下さいね。==


春樹はぐっと糸をつかみ、一気に引き抜いた。

糸の先は初めは黒い煙状の塊だったが、だんだん形を成してきた。


ダキニ天様似かと思えば、

頭が狐。

体は、古代の衣を着た男の人型。

尾が蛇。

手足は毛むくじゃらで、

当社比?ガレッジセールのゴリの3倍。


『これは、もう一人関わってるんですかね。』


と、言いながら、春樹が飛び込むと

すっと黒い何かは横に流れるように避けた。

すかさず春樹が見ずに裏拳をそのまま入れてみた。

今度は黒い何かは両腕を顔の前に構えて受けた。


ドンッ〜〜〜〜〜


『音が小さい。

吸収された?

ダメージを受けさせないように…?』


春樹は片足の親指だけを返し、

一気に間合いを詰め、手刀の構えで、左手で右肩から袈裟切りのように斬りつけた。


スパッ


黒い何かは、かわしたが

今度は斬れた手応えがあったよだ、。

右腕の肘なのか半分辺りから塊が落ちた。


カッ。

ドンッ。


???


鈍い石の落ちる音がして、

見ると、黒い石像の右腕だった。


『痛!』


すると春樹の右腕も取れてはいないが、深く傷つき、血が流れ出していた。


今度は右足で、黒い塊の左横腹を蹴ってみた。


『うっ。』


春樹の左横腹も少し遅れて衝撃を受け片膝をついた。



『そうですか。』


コンタクトをはずし、

闇のなか、春樹の徐々に金色の瞳になり、少し気を上げると、

周りの山々から


ギャーギャーギャーギャー……


バタバタバタバタ………


周辺の鳥や獣が騒ぎだし、

遠くに逃げる獣の足音が幾つもした。

しかし、黒い何かも、姿形は変わらないが、同じように黒い気を放ちだした。

『一撃で粉々にするしかないようですね。

イメージは週刊少年ジャンプ北斗の拳の南斗水鳥拳参照ですか。


では、いきますか。』


ふっと上に手を広げて飛び上がり、黒い何かに向かって一気に上下左右、手刀を振った。


スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパッ………


黒い何かは2cmくらいの石ころとなった。

しかし、いつのまにか、いなかったはずのランダが春樹の体の前に入り込んでいて、

血が吹き出してる後ろ姿から


『ランダ−−−!!』


春樹の目にはスローモーションでランダは前に倒れていく。

すぐ、春樹は抱き抱えると

さらに前に


『ランダさんは大丈夫です。』


いつのまにか棟梁が鉄鎧を毛の様にフルに立たせて、ニヤッとしたが

そのまま崩れ落ち、鎧の端から血が大量に流れ出した。


春樹は血がドクドクと流れ傷ついた二人を並べて寝かせ、

左の親指を反対の親指の爪で切り、血をたらした。


まずは二人の口に、さらに

酷いところ数ヵ所には直接塗りつけた。


みるみるうちに、傷を塞ぎ、

二人は穏やかな顔で寝息がしだした。


『とりあえず、よし。

それにしてもムチャをしますね。』


しかし最後に黒く光った本体らしき者は逃げたようで気配はもう弱まった切り刻まれたものしかなかった。


春樹は、黒い残った何かを手に取り。


『これは?

幾つか、持って帰って、分霊様に見せますか。』


春樹は、残骸を幾つか袋に入れ、御札の中心に集め、結界に閉じ込めた。


あとは二人が目をさますまで暖めてやろうと、

周りの木々を集め、焚き火を始めた。


しばらく文庫本の小説を焚き火の灯りで読んでいると


『春樹様。すみません。』


『起きましたか。

ランダ。ありがとう。

でも無理しちゃ駄目ですよ。

僕は大怪我はしたかもしれませんが、すぐ治るのですから。

でもランダは棟梁が間に入ってくれなかったら、流石に治せませんでした。』


『でも春樹様が斬られるなんて…

あ、棟梁君は?』


『大丈夫です。

鎧はありましたから。

出血はひどかったでしたが。

命に別状はないです。』


『役に立てました。』


『ランダ。もう少し休みなさい。』


『はい。』


ランダはまた眠りについた。

暫くすると棟梁が目覚め、


『うわあ!!あれ?

春樹様。春樹様は大丈夫ですか?

ランダの怪我は?』


『ハハハ

棟梁もですか。

ありがとう。

お前のお陰でランダも助かった。

よくやった。

逃げられましたが。』


『いえ。

主君の為なれば、それで…』


『ふっ。

棟梁。

時代劇のドラマの見すぎですね。』


感動の場面のはずが笑いをこらえ微笑みながら棟梁に肩に手をやった。


少し休んでから、

棟梁はすっと半透明になり、影に消え


『戻ります。』


の言葉と共に棟梁は気配も消した。


春樹は目を瞑ってるが頬を赤らめたランダをお姫様抱っこしながら、下山して、

一番近い御札のところに行き、御札を発動させた。

すると、御札は燃えだし、

火は五角形を導火線のようになぞり、全て御札が点火すると、

一気に中心に向かい、

中心の周囲1mくらいの超高温の火柱が10mくらいまでのぼり、そのまま黒い闇のようなものが地を覆い、

この世の異物、小さな塊は吸い込まれていった。


春樹達はというと、発動させるとすぐに酒屋に戻り、

ランダを自分の影に落とし、スクーターに乗り、

ランダのアパートに向かった。


『ランダ。もう暫く休んでなさい。』


部屋に連れ帰り、

そのまま稲荷神社に、スクーターをとばした。


『分霊様。逃げられました。』


話した像に話すと

今度は逆のけん属の像から

声がした。


『春樹殿。すまぬ。

やはり影響かあった。

今ここから出られぬ。

このくらいのイタズラがやっとだ。』


『でしたら、この黒い塊も今度に…』


『いや。見せてくれ。

ワシの前に置いてくれ。


石の欠片を置くと


フム


分霊は見ながら、見上げたり、下を向き、考えこんだ。


『これはな。

禍津日の黒曜石の腕輪だ。

落としたのか、わざとかわからぬが。』


『逃げたという事は、まだ続くかもしれない。

という事ですか?』


『そうかもしれぬ。だが、お陰で繋がった感覚はなくなった。』


春樹が困った顔をしていたので


『よし。礼に狐の化粧鏡をやろう。』


像の前に手鏡が現れたので、春樹が拾うと


『何ですか?』


『これはな。真実見るなんて、くだらぬ事は言わん。

嘘や、まやかしを暴くのだ。

カツラは難しいぞ。』


ハッハッハ

ダキニ天分霊が笑うと


『ダキニ様?

真実を見抜くとは違うのですか?』


『春樹殿。

あのな、真実なぞ見ても、せんないだけだ。

ただ顔や体を隠し形を変え、

誤魔化す輩の皮をひんむくのが面白かろう。』


『あ、あとカツラは?』


『そうだな。

病気や怪我など事情があってするのは嘘ではないだろ?

年より若く見られ、モテたい。なら欲望がらみだから、暴けるぞ。

ワッハッハ…』


『はあ。そういうものですか。』


少し諦め顔をしていると


『だが、こういう騙そうとしてる煙なら分かると思うぞ。


まだ重さもあって半信半疑にしていると


『バカにしてないか?

これは先々代の先々代の先々代の先代の方が作ったのだ。』


『いえ。そんな疑ったりというわけでは……。』


分霊と話し、スクーターで帰った。


一週間ほど、落ち着いた診察と緩く喋る毎日を過ごしていた後の晩に。


診察が終わって、マリリンも下りて、待合室で寛いでいると


トントン


ガラガラガラ


『こんばんは,す。ハルさん。』


『おじさま。この匂いは。

人?………。

人じゃないわね。あなた。』


『熊田です−。』


春樹は指を指し紹介した。


マリリンは


『熊田?

えっと、けん族?』


『そうですよ。

前に、あの山のふた山?向こうで

夜、たまたま出会って、話してたら面白い子でしたから。』


『で、つげて頂いたの,のが熊田に月に下て書いて『ひかり』て読みます。


それでお土産す。』


外から


『ブヒー。』


叫んでいた。


『熊田月下です−。』


春樹は指を指し紹介した。

『春樹様、助けてください−!』


棒に全ての足をロープでくくった間をひっかけられた猪が

豚の悲鳴に近い鳴き声と共に叫ぶ。


『こ、ここ来る、と、途中にいて、倒したんたったっ。

ら,なんか喋れる,るから変だったから、く,くくってっ連れてきましたてっす…。』


春樹も驚き、


『ロープはずしてください。


猪が泪目で言うと、熊田はやっぱりかて顔で

ロープを解いた。

すると人の形になり


『いやあ、熊田さんでよかったのか悪かったのか。ハハハ。

……しんどい体験でした。二度とされたくないです。』


冷や汗をハンカチで拭きながら


『私、猪田に山師て書いて。『サジ』です。


『彼、なんか話し方が柔らかすぎて胡散臭いでしょ。

あと、この辺りの山の色んな事を知ってますから。』


笑いながら春樹は紹介すると、マリリンが


『もしかして、この人もけん族?』


『そうですね。面白いから。

この子たちは山で過ごせたら一番よかったんですが。

どうしても、それでは無理があったんです。

だから少し力をあげたのです。』


春樹は少し悲しい目をして応えた。


『フキノトウ持ってきたかったのですが…。

熊田さんに食べられて……。』


『ご、ご、ごめん。あ、ひかりでいいす。あ、わしも、フ、フキノトウ持ってるっす。』


『わかりました。でしたら私の事はサジと呼んでください。ひかりさん。』


熊田と猪田はお互い、

頭さげて、肩をたたきあった。

マリリンは


『食べられたかもしれないのに?』


この猪田を驚き半分、二人のサラッと和解したことに笑った。


普通に話す猪田の声は、先ほどと違い、高級ホテルのフロントで聞くに少し低めで落ち着いた話し方で、

格好がダボッとしたワイシャツに大きめのお尻を隠すようなダボッとしたスラックス。


日焼けした顔に角刈り。

濃いゲジ眉で彫りの深い顔。

しかし目を瞑ると、うっとり。


『何か胡散臭いのね。』


ぼそっとマリリン。


『貰い物で申し訳ないのですがお土産です。』


『あ、あ、そだったです,す,か。ワシも、み,みやげ。あ、ハルさん、ない。ごめん。


春樹は


『それでご用は?』


『あ、あ、あ。』


猪田が


『えっとひかりさん変わりましょうか?多分同じかと。』


『あ、ワシの・の・のは、

い・犬のような・な、ヤツ…』


『やはり。

春樹様

実はおかしなのがいるんですよ。

バケモノ?か妖怪?の類いかと?』


ちょっと春樹は驚きながらも


『ハルキでいいよ。

それにしても、バケモノか?

ふーーん。』


なんか面白そうにニヤとして


『何でしょうね?

イタズラする神はこの間ありましたが、バケモノは見かけませんし。

じゃあ、少し会って来ましょうか?』


『春樹さん。何か変身出来るの?』


『いえ。

マリリンは残ってくださいね。』


『なぜ?』


『スクーターなので。』


『え?!』


マリリンが、へ?て顔をしてると、


『あ、サジさん、フキノトウを佃煮にしておいて、ご飯炊いておいてください。


ひかりさんは警戒しておいてください。


『解りました。』


と、ササッと乗って行ってしまった。


『あなた逹は行かなくていいの?』


『ハルさんのご命令がない時は待機でして。』


『ワ,ワ,ワシも。』


『ふーーーーん。で、どんなの?』


『き,牙がガンて。』


『ひかり君より?』


『い,いえ。』


『お,お,大きくて。』


『ひかり君より?』


猪田が間に入り


『マリリンさん。

ひかりさんを虐めないでください。』


『サジきゅん、ありがとうごじゃます。』


熊田はベソかきながら猪田に何度も言葉を繰り返していた。


『気がですよ。

幾ら私達が、春樹様。

あ、ハルさんのお陰で辺りの獣より力を持ってると言っても元が猪と熊ですよ。

全く異質な存在には敵いませんよ。

それで周りの獣たちも襲われたり殺されたりして参ってたんですよ。』


続いて熊田が


『あ、あの』


『何?』


『こ,これ。き,昨日アイツにつけりゃれた。

朝、変な煙でるシルシなてた。』


『うわっ。ひかり君。

何、その梵字みたいなの!

それ呪いの…何て言いましたっけ。………そう。たしか、呪印でしたっけ??

初めて見たけど、

最低ね。

なんか?』


春樹はすぐ本線のコンテナターミナルでもあるため造られた長い陸橋を渡り、

そのまま、交差点をまっすぐ山の方に向かった。

200m程で、段々山に近づいていくといきなり出来たばかりの立派なトンネルが現れ、

そのまま中に入る。

トンネルを出た所で、歩道の端の邪魔にならない所にスクーターを停めて

山の辺りを見回した。

そして、ぼんやりとした気を見つけ


『ああ。500mくらい山つたいに…。

さらに奥ですか。

運動不足ですし、走っていきますか。』


独りでぶつぶつ言いながら、

10mくらい一歩で跳び進んでいった。

気に向かって進むと、

丁度、オスのライオンくらいの大きさで

顔は犬型の獣がいて、

大きな岩の上に横たわっていた。


『すみません。私、馬場て言います。

少々お話を伺いたいのですが?』


『うん?

神に向かって。


そのモノは気迫のような圧力を送ってるようだが、

春樹には全く効かず

頭をかきながら


『あのう、昔、本で読んだ各地各地で名前がある[送り何とか]ではないですか?

それとも、[犬神]様ですか?

でもあれは狐さんですしね−。

ダキニ様とも違いますし。

うーーん。

[フェンリル]は神でないですし。

ひょっとして[アヌビス]ですか?』


段々、気に全く動じてない春樹に焦り、

それは月を背に立ち、月夜の影も使い、大きく見せようとするが

春樹は全く気にもせず


『いつでしたか、[大口真神]様にお会いしましたが、お知り合いですか?

そろそろお名前だけでもお教え頂けないですか?』

ボソボソ…

それは何か言ったが声が小さくて聞こえなかった。


『あのう、もう一度お願いします。』


『うう。

まさか、お前、あのハルキというのか?』


少しため息をつきながら、春樹は、


『ふぅ。

ええ。そうですよ。

馬場春樹と言います。』


それは、すぐ威嚇をやめ、


『これはご無礼つかまった。

拙者、狗賓ぐひんと申しまする。

あなた様の事は大口真神おおくちまかみ様からお話を伺っており。

お力をお貸しいただけたら…。と』


『では、なぜ?』


『拙者も、正直、神の端くれ。

大口真神様の仰られる事が信じられず、

あなた様にまさか遅れをとるなぞ、露にも思わず。

弱いなら、おさえつけてしまえと

戯れで…。』


狗賓ぐひん様!!

何を考えているのですか!

呪いまでかけて。』


『え、え、え、申し訳ございませぬ。

しかし全くの……』


狗賓は、額を地につけ土下座をして謝った。



少し時間を前にさかのぼる。


マリリンが


『この呪印なんなの?私の紋章の力でも…』


マリリンの手の平に現れた真っ黒い煙の紋章は、

焔の絵が描かれた盾の中を4等分された長方形の右下と左上が牙がサーベルタイガーのように強調された狼。左下と右上がまだ何も出ておらず、

その盾を両側から馬のような体、麒麟のようなドラゴンが持つ。

上側もまだ何も書かれていない。

彼女の紋章はまだ完璧には発現はしてないが、通常程度なら力はあるのだが。


マリリンの紋章では、消しても消しても

紫の様な、どす黒いの煙りの何か丸のような形の下側に棒の呪印が次から次から浮かび上がるのに頭を傾げた。


しかし、マリリンが聞くと、


『苦しくないのです。

温泉に入ってるように、じんわり温かい感じで。

ただ、この呪印の煙が気味が悪い。』


と。


『うん??』


マリリンは、なんとなく


『ねぇねぇ、殺されたのはどんな獣?』


『えっと、兎とか鹿とか。猪なんかですかね?

皆、食べられました。

あとはこう印をつけられまして。


その事で、ピンときて


『もしかして肉食じゃない?』


『あ!

あ!

確かにそうですね。

うん。確かにそうです。

確かにそうです。

なんか、見た事ない異形で。

襲われたり、殺したりしてたから、気がつきませんでした。』


……………………




狗賓は


『春樹様。

あの〜、

あれは呪印ではありません。』


『??』


『あれは、

あれは精霊印でして。

私も、神の端くれなもので。

自分の力に、周りの生き物から気を集めて印を練るのですが。

この辺りは自然の精霊に、

魔の?

すみません。

黒い力も強かったので

それも全てを練り込んだ印で

彼らの傷を治していました。

こちらに進むにつれて、力の割合が増えていたので、この辺りに春樹様はおられるのかな。

とは感じておりました。


私はまだ獣のさがが取れなくて、怪我をしてる者に癒しの印を与える際、

噛んで、傷つけるように頭などに押印してました。

失礼致しました。』


『いや。早とちりしたこちらも悪いのです。

狗賓様。』


『いえ。正直、私も見くびっていたのもあります。

あなた様は私より遥かにお強い。と、

私達、山神の寄合でも噂になっておりましたが、半信半疑でして。

しかし、理解出来ました。

出来ましたらお力をお貸しいただけないでしょうか?』


『狗賓様。どういう事でしょうか?』


『実は、大山津見神オオヤマツミノカミ様をご存じですか?』


『分霊の山神様のもう一つ

名前が確か大山祇神共呼ばれる神様でしたら、

以前、ここから結構、遠い北の山中を散策してた時にご挨拶した程度ですが。』


『そうです。多分、そのお方です。

この周辺の山神でしたら、その方です。』


『総本社の大山津見神様には?』


『最近、疲れたとかで、どこかの山に籠ってしまわれて。


『は?』


『人間が山々を壊すのに呆れられて。


『しょうがないと言えば、しょうがないですが…』


『それで、その気持ちも分霊に伝染したのか、グレてしまったと申しますか。』


『グレた?』


春樹がクスッと笑うと


『笑い事ではありません。』


『あ、すみません。』


『山を見ないということは、山に災いがあるのと、同時に禍々しいものを呼び込み…』

『僕のような?』


『春樹様ではなく。』


『何?何かいたのですか?』


『実は、数日前、分霊を見かけたのですが。

見た途端、急に周りが灰をまかれたように視界を失い、それが黒い煙に変わり、

耳にはウーーーーーッ

と低音の音が冷蔵庫のような音が鳴り響き


辺りが生臭いような、

それでいて鉄の苦々しい臭いがし、

後ろに見た事もない頭の大きな角のような北斗の拳のラオウみたいなのに、

ギリシャ神話に出てくるような白い布で体を覆ってるのですが。』


『何か?』


『後ろの何かの気配自体はないのです。』


『そうですね。

多分ですが、心当たりあります。

ヨーロッパ、ギリシャかローマあたりの悪魔の誰かでしょうが。

ラジオの様に、やっと電波が繋がった感じではないかと。

まだ聞こえるくらいなので、


世に出る事が出来ないのです。それでも、少しずつ誘導されたら姿も現れるから、

大変な事になりますね。』


『それで、最近、見知らぬ禍々しい西洋の冑かぶってるのです。


『角というのは気になりますが

まあ、姿が現れないならいいですね。』


『助けて頂けますか?


『でも、分霊とはいえ神様倒すのは無理ではないかと。』


『実は。

霊剣、経津御魂ふつのみたまの魂と妖刀村正の魂を

鍛冶の神。

霊剣、経津御魂ふつのみたまの魂と妖刀村正の魂を

鍛冶の神。

天目一箇神あまのまひとつのかみ様の縁の方に打ってもらった刀がここに。

これを使って、斬ろうと考えたのですが、誰も扱えないのです。』


『はあ。』


頷いたが、ピンとこないでいると、


『実は、以前からこの辺りの神とのご関係を考えると正の力をお持ちではないですか?

そして魔の血を持つ

春樹様なら刀を扱えないかと。』


春樹も困った顔をして


『軍神様ならば、それを扱えないのですか?』


『もしかしたら持てるかもしれませんが

只今、離れた所でこちらの厄介事にかかりきりで。

残ってる使徒では、妖刀の力で中和してものは、弾き飛ばされてしまいました。

打った方でさえも病んでしまって…。』


『お持ちして、扱えたら、斬って頂けますか?』


『やれやれ。持てたらですよ。それにしても、なんともご都合主義な刀を。』


『それは初めて見る魔物を相手にするのですから。

出来るだけの事はと思いまして。

では、持ってきます。

あ、オガラスさんはご存じですか?』


『ああ、宮島の?』


『そうです。』


『オガラスさんはお宅を?』


『前に数回、御使いとして来られた事あります。』


『わかりました。厳島の社に預けてありますので。

後程。』


と、ふっと姿を消してしまった。


春樹も頭を掻きながら

バイクに乗り、家に向かう。


トンネルを抜け、陸橋上ろうとすると、交差点で停まると


パタパタパタ


『春樹様、戻りました。』


蝙蝠は人型になり、春樹のスクーターの左斜めの道路脇に片膝をつく、黒付くめの男がいた。


『一族の方はアメリカでは見かけませんでした。』


『おう。バティストゥータ。』


『またですか?

春樹様がわざわざ名字の名簿本を買ってきて、場地ばちて付けて頂いたじゃないですか。

場地藤太郎て。』


『ハハハ。無理ですよ。ラテン系の顔で?』


『だから春樹様がハーフの設定にしたんじゃないですか。』


呆れて、春樹を見上げる。


『ごめん。藤太郎。

それで?』


『あ、話をそらすんですか?』


『いえ。

実は、今、イオアナの娘が家にいるのです。』


『え?』


『いなかったのでしょ?』


『はい。まあ。』


『アメリカだそうですよ。』


『匂いも気配も全くなかったのですが。』


『今は?』


『今もです。』


『ふむ。確かに。では一緒に戻りますか?』


『はい。』


ブロロロロ……


スクーターの後を、一匹の蝙蝠がついていった。


『ただいま。』


『おかえりなさい。』


熊田と猪田が言うと


『あれ?臭いからしますと。』


『ね。』


春樹が言うと


『確かに春樹様の仰るとおりですね。ほんのりとイオアナ様を思わせる様な気配と匂い。』


マリリンはプクッとさせて


『失礼ね。

年頃の女の子つかまえて

ニオイ。

て。』


場地は理解できず


『それにしても、なぜ何も感じなかったのでしょう?』


『お母様が開発したのよ。

お母様が気配も消せないなんてものは作らないわ。

いつ敵に襲われるかも解らないのに。


『失礼ですが、少し本気で…』


『もう。フン。


マリリンは少し力を入れると


一族一族がもつ黒い気と共に独特の禍々しい冷気を放った。


ははあ。

皆、鳥肌を立てながら土下座して。

場地は


『疑いまして…申し訳……』


震えながら喋る事さえ遮られる程の気の強さに、頭を床に擦り付けたまま身動きが出来なくなった。

すると、ふっと、マリリンは元に戻り


『やめてよ。そんな事しなくていいわよ。

でも私、この冷気だすの嫌なのよ。

冷気なんか出さなくても

血を貰うときは気絶させるから。』


『イオアナもつけてるのですか?』


『家族もメイドもね。』


『多分、一族で春樹さんだけよ。

遠くから気を感じるのは。

旅行、世界中色々行ったけど、どこでも感じた事ないわ。


日本に。

いえ東京に。

飛行機降りる頃にはなんとなく方向までは分かりましたし。』


『へ?そうなんですか?』


『多分、お母様より強いと思う。

だから誰も狙わないのかもしれないけど。

春樹さんて能天気ですね。

フフフ

そういえば、彼は?』


『場地だよ。藤太郎。でもトウタでも呼んでくれ。

えっと、周りへは、藤太郎の父が家族が、ウチの父さんに世話になった。て事で、時々気にかけてくれる。

という設定です。』


『設定にはこだわるのね。

でも私が聞きたいのは、向こうにいた頃からなんですよね。

そういえば魔物はどうしたの?』


『ああ。

明日、家に噂の主が来ますよ。』


『じゃ、じゃ残りましゅ。』

『私も。』

熊田と猪田は心配そうに…。

『いいですけど、神て、分かりましたし。』


『私だっているし。』


猪田、熊田だけでなく

マリリンも二度見したように驚いて


『か、神−−−−−−!!』


『では休みますか?』


『待って。神て。

確かに私じゃ消せなかったけど。』


『あれ、御加護の精霊印だから大丈夫です。』


『ではあの禍々しさは?』


『ああ。あれ僕の気らしいです。』


『え!』


『はいはい。皆さん、休んでください。

僕は狗賓様が面倒なもの持ってきますので、座禅して

念のために血を沸かします。』


そういうと足を組み

目を閉じ


『来られたら、マリリン、肩を軽くさわってください。くれぐれも叩かないように。』


『わかってます。

それにしても。

そんな事しないといけない程て何持ってくるのかしら。』


皆、眠れずザワザワ、コソコソ話していると

山際がうっすらと白み始めた頃


トントン。 トントン。


戸を叩く音。


マリリンはふと戸の方を向いて


『誰か来たよ。』


ガラガラガラ。


猪田がすぐ行って、戸を開け


『どちら様ですか?』


『約束した者です。』


熊田が


『き、き、き、来ますぃた。』


マリリンが徐に


『春樹さんをちょっと叩いてみたら面白いですかね?』


熊田が焦った顔して、


『や、や、やめて。

ね。ね。ね。』


『わかったわよ。』


春樹の肩に手をすっとのせた。

春樹がは目を開くと、

それと同時に肌が鉄のような金属色となり、

さらに漆黒を纏ったような生気のない黒い瞳。


長髪は白銀に変わり、逆立ち、

周りをどす黒い輝きで覆い、


『ちょっと、出てきます。』


狗賓と目が合うと


『狗賓様おはようございます。』

狗賓も片手で厚手の紫の布に包まれた長い何かを持ち、


『春樹様おはようございます。』


春樹はサンダルをはき、


『狗賓様、公園が近くにありますので、そこで。』


『分かりました。』


まだ人気のない薄暗い道路を歩いて行ってしまった。


『行くわよ。』


『ま、ま、待っちょた方が。


『そうですよ。』


『公園で。ていうから、遠くから見てみましょ。』


三人の後ろからヌッと場地が


『久々に春樹様の本気の欠片でも見られるといいのですが。』


『ビックリした。』


三人とも後ろからのいきなりの低い声に驚いた。


マリリンは切り替えて


『さあ、行きましょ。行きましょ。』


小学生が遠足行くように、三人を引き連れて追いかけた。


見つけると、春樹は公園の少し広い所で、裸足になり、

所謂、仁王立ちのようにしていた。

狗賓はすぐ目の前で片膝立てて、布から中身をだしていた。

全体に漆塗りの朱色で所々、黒漆で斑なのに金細工された鞘ごと両手で紫に金糸の入った風呂敷?のような厚手の布ごと渡すように持っていた。

『私は大丈夫だけど、あなた達はちゃんと身を隠しておきなさいよ。』


『マリリン様。怖がらせないでください。

大丈夫ですよ。

二人とも。


ちゃんと、春樹様の結界に、周りは狗賓様の結界が何枚かありますし、

先ほども公園入る時、妙な感じしたでしょう?

普通の人間は入れないようにしてました。

狗賓様がその程度と判断されたと思いますが。』


場地自身もそう言ってはみたが

四人は木の後ろ側に身を隠し、顔だけだして恐る恐る二人を見ていた。


『どなるの?』


『どうなるのでしょう?』


熊田も猪田も少し震えながら見てると


春樹が左手で刀の鞘にふと手をかけた。

ミシッ


少し鞘をさわっただけで

四人が耳がキーンとする衝撃を感じるくらい空気の振動が伝わった。


『すみません。

私も結界を張ります。

マリリン様も私の内側に硬い結界をお願い出来ますか?』


『煎餅じゃないのよ。あんな弱い結界足りないじゃないわ。』


文句をいいながら、

マリリンが結界を張ると、場地もその外側に張った。


『これで大丈夫ですかね?』


猪田の声に


『知らないわよ。世話の焼ける。』


自分が大丈夫だから見に行くて言ったじゃないですか。

のような気持ちを


各々つぶやいた。


『聞こえてるわよ。』


マリリンは三人を睨むような顔をした。


すると、もう一度、春樹は左手をかけた。

春樹は再び、今度は鞘をグッと握るように手をのせた。

狗賓の結界の中が地表がうねるように揺れだし、砂埃で真っ白くなり、

さらに外側のマリリンの結界内でさえ大変な地震のように揺れている。

『マリリンさん、凄いですね。』


猪田の一言に


『あなたバカにしてたの?』


猪田は頭をブルブル横に降りながら


『いえいえいえいえ。

この状態を抑えてるのが凄いなと。』


『そう?

あの気を感じてると、まだまだ春樹さんには敵わないけどね。』


マリリンは機嫌を直し、エヘて、ドヤ顔しながら応えた。


この子、単純だ。


誰かが呟いたのを


『誰?』


急に怖い目をして、三人を見た。


春樹はさらにもう片手で束を掴む。

『う゛う゛う゛う゛!!』


春樹の右手は電気が走ったような痺れと共に握ったまま離せなくなった。



そして刀は、春樹から気を吸いとるかのように鞘の片側がどんどん漆黒になり、

逆側はその反動からか、光輝いていく。


それと共に、結界内は落ち着いていく。


四人も少しずつ落ち着いていくのを見て、少しホッとして気を弛めようとすると

狗賓が、


『そこの結界の二人。

頼む。気を緩めないでくれ。

これからだ。


春樹様。

上に向けて刀をぬいて頂けますか?』


『はい。』


全ての気が静かに落ち着いた所で、右手で空に向けて鞘からぬいた。

ドーーーーーン!


春樹の結界内は光と闇がグルグル回ったように膨張している。

外側の狗賓の結界は、力が弱まってるはずが、強化ガラスのように全体にバリバリに割れ目ができ、

その割れ目から衝撃がマリリンの結界ごと吹き飛ばした。


さらに場地の結界も膨れて、割れる寸前まで膨張したが持ちこたえた。


『危な…かった。

ゴム状にイメージした結界に作っておいて正解でした。』


場地の一言に、


『マリリンさんて、たいした事ないんですか?』


猪田の一言にマリリンは鬼のような顔をしてたが


『いえ。

マリリン様の衝撃を相殺する結界がなかったら、狗賓様の残りの衝撃では耐えられませんでした。

危なく、早朝から爆発事件になるところでした。ハハハ』


ホッとして和んでいたが、

ハッと我にかえり

四人は春樹の方を見返した。


春樹は天に刀をぬいたままだった。

星空のない空がガラスが割れたように他次元世界の赤く染まった空がのぞいていた。

春樹の風貌は元に戻っていたが、刀は刃が漆黒になり、モヤッとした煙のような黒い気を放ち、

峯は心を洗う穏やかな光輝いていた。


『春樹様を主として認めたようですね。

申し訳ありませんでした。

刀の反発力がここまでとは思いませんでした。』


ほんのり東側が薄明かるくなった元の夜空に戻るのを見上げながら、狗賓は感心していた。


四人が春樹の方に近づいてきた。

ふと、マリリンが


『ねぇ。ねぇ。喋らないの?』


『刀が喋ったら怖いぞ。』


『そうですじゃ。怖いですじゃ。』


見知らぬ声がした。


『え?刀?』


皆が喋った事に驚いた瞬間、

狗賓の後ろに小さな生き物が


『すみませんじゃ。春樹様。

今、帰りましたじゃ。』


声の先には、背が30センチくらいで

黒いスーツ。

胸の下あたりまで白い髭。

窪んで目が線でしかなく

小さな肉まんのような鼻。

頭は天を中心に禿げ上がった春樹の

『爺や』で、初め、春樹の医師としての師匠でもあるドワーフに育てられたゴブリンの異端児。

ジローム。

今の名前は五分一次郎(ごぶいち-じろう)

春樹の力で、

小さいのがコンプレックスだったのを、大きくなれる能力をもらい、毎日が幸せに暮らしている。

今日は東京での学会から帰ってきたところで。


『どっこいしょ。』


みるみるうちに大きく

と言っても140cmぐらいだが

『ただいまですじゃ。

うん?この方はどなたですじゃ?

あれ?イオアナ様?

違う?

イオアナ様の匂いがしますじゃ。

でもおかしいですじゃ。

力が全然足りないですじゃ。


『おかえり。

ハハハ、マリリン。

イオアナの娘ですよ。

そうそう、こちらは狗賓様。

この刀の名は?』


『名はないのです。

打って、すぐ倒れてますので。

よかったら名前つけて頂けませんか?』


『丸天。』


『センスない!おでんの具?』


『ハルさん、それは−。』


『春樹様に無礼ですじゃ。』


『おでは、い・い・い・い思、う。』


『春樹様。意味を伺ってもいいですか?』


『そうですね。

変ですよね。

でもね。

この刀はただ振ると

他次元まで干渉してしまいます。

下手に斬ると何でも斬れますが

次元に干渉出来るなら

逆に意思で斬らないでよいものは斬らないて出来ないかな?

て。

それが、出来たら、神も悪魔も斬れるし、綿も斬れない。

悪用しなければ、

天が丸く治まらないかなと思うくらい力を感じまして。

そう考えたら、聖なるエクスカリバーみたいな名もどうかと。』


狗賓も感動して


『そうですね。そういう世界になってほしいものです。


名前も、他にないですから、

すぐ分かりますしね。』



銘 “丸天”


『出来たら、斬らなくて済んだら、それが一番よいのですが。


この刀はあまりに強いので、家に置いておくのもいけないので、山の神の件は、準備がすみ次第、ちょっと行ってきますよ。

そして、すぐお返しします。』


春樹が鞘を痺れながら持ってたので


『あ、普段は、この布かけてください。

力を抑えてくれますから。

では、

私はこれで。暫くは厳島で逗留してますので、御用はそちらへ。』


五分一が

『狗賓様。

この布を分けて頂けないでしょうか?じゃ。

これ、気を外に放出しないですじゃ。


じゃあどこに?

て事ですじゃ。

裏側を表にしますじゃ

そうすると、

跳ね返すか、

吸収するか、

霧散するか、

わからんですじゃが


事実だけだと、布の内側から外側へは強い気も無効になるて事ですじゃ。

これは、束に少し巻いて、手への負担軽減と服に縫い合わせてしまえば、直接の攻撃以外ならば弱点を隠せるですじゃ。


春樹様は確か12歳の時、イオアナ様と喧嘩なさって

手を出さなくて。

イオアナ様のなすがままで。

6時間も寝込んだのですじゃ。』


狗賓だけ驚いた顔してたが


マリリンも


『それは喧嘩じゃなくて…。』


『喧嘩ですじゃ。

『ご主人様と奥様へは。』


『イオアナ様は、当時、どこかしこで暴れまわってましたじゃ。

あの時、春樹様が喧嘩としなかったら、

城の奥底の、皆様方のベッドルームの、さらにさらに深いところにある牢から垂れ下がった鎖に括られて、50年は地下深くに続く崖で暮らさなければなりませんでした。

あ!

そういえば。』


『爺や。

どうした?』


『失念致しておりましたじゃ。

あの時。


イオアナ様より酷かったボクダン様が。』


『あ。

もしかしたら、そこにいるのではないですよね?』


『そうですじゃ。

もしかしたら大御主人様が外して、ボクダン様は出られたかもしれないかもしれないですじゃが。


実はボクダン様は領内の村の地主の娘さんとご主人様との一夜で…。』


『弟?』


『あ〜あ。僕の弟で、イオアナの兄です。えっと、後が判りませんが末弟てやつです。

あれ?

イオアナの下にもう一人弟がいたような。

記憶が妙に曖昧なんですが。』


『それは、長女ベアトリス様の御子息マキシマム様ですじゃ。

よくボクダン様とイオアナ様とがよくイタズラしてらして。

確かそれが原因の一つかと。

ただベアトリス様にあの時、相当、拷問を受けたとの話も。


『怖い怖い怖い。』

『おじいちゃん、どうするの?

いたら?

あ!

まず、そのお城?

まだあるの?』


『マリリン様。ゴブてお呼びください。

ただ出来ましたら、医院では『五分一さん』とお呼び頂けたら。』


五分一は言い終わると90度、

頭をさげた。

その姿に少し怪訝そうな顔をして


『わかったわ。』


『でも、これが片付いたらお城を確かめに行かないといけないようですね。』


『その前に…。

朝ごはんご用意しますじゃで、しばらくお散歩を。』


と言うと、五分一は小さくなり帰って行った。


『これを後片付けして、見回りしてから、帰りましょう。

トウタ。

狗賓様の所へ布を頂いてきてくれ。

それを五分一に渡してくれ。

後、大山津見神様の分霊が禍々しい気を放ちながら何処かの山を転々としてるという事なので、探してくれないか?』


『ハッ。』


場地は蝙蝠に姿を変え飛び立った。


春樹が言うと、

熊田も猪田も目を擦りながら葉や荒れた地の跡をならしながら


『おでも…』


熊田が言いかけると

春樹は


『無理しなくていいです。

帰った時、お疲れさんの宴会でもしましょう。

ジイが病院の留守番してますので、治療に必要な準備や避難の手伝いをお願いしますね。』


『分かりました。』


『私は行くわよ。』


マリリンが言うと


『裏に何かいるから、自分で守ってくださいね。』


狗賓は


『では春樹様。お願い致します。』


狗賓が帰ろうとすると。


『狗賓様。出来ましたら弥山の何処かに神を出さない結界を作って頂けないでしょうか?』


『あーあ。

こちらからの頼み事なので厳島様にもお願いしたら大丈夫だと思います。』


『そこでしたら、分霊様も魔の力も衰えると思いますので、元にお戻りになれば、すぐ本神様の居場所も判ると思いますし。』


『確かに。

分霊様より大山津見神本神様の方が一大事です。』


『マリリン。

狗賓様と向かって、戦えるくらいの大きさの結界を弥山の辺りの山中に作っておいてください。

その結界は厳島の神様方の力も借りて、何も壊れないよう次元転換と、外に被害も起きないくらい強力なのを張っておいてください。』


『私が?』


マリリンはプクッと膨れると、


『見たいのでしょ。

でしたら、準備して、あとは少し離れた所に特等席を自分で作ればいいと思いますが?

あ、席にも厚い結界しておいてくださいね。』


『へへ。』


マリリンは笑って、狗賓の腕を組み、共に スッと消えた。


『周りは大丈夫ですかね?』


『だだだ大丈夫。』


熊田が応え、


『気配は消しておきました。


『気がべっとりついてた葉っぱ食べたでしょ。』


春樹は二人の額の角を指差して言った。

二人は額を抑えながら


『治りますか?』


『大丈夫ですよ。落ち着けば体中、満遍なく行き渡るので元に戻ります。

力が増したんです。


ゲームのドラゴンクエストのレベルアップと同じですよ。

そろそろ家に戻りますか。』


『はい。』


刀をくるんだ布を両手に持ちながら、病院に戻った。


『帰りました。』


『オニギリと卵焼きとたくあんですじゃが、ご飯出来ましたじゃ。

あと場地から預かっておりますじゃ。

今、洋服に付けてますじゃ。

これに着替えて行ってくださいじゃ。』


『五分一さん。

春樹様の心配しなくてよいのですか?』


『おで、心配。』


『フフ

春樹様は。

この地に来てから、

一度として本気を出してないですじゃ。

今日のも久々に吸血鬼の血を表にだしただけですじゃ。

マリリン様はあれがマックスくらいとお思いでしょうが。

狗賓様では、春樹様の力を試すなどは申し訳ないですじゃが、無理ですじゃ。

ただ、ほんの少しだすだけで、あれくらいですじゃ。』


マリリン様は、あのご様子ではイオアナ様の本気も見た事ないですじゃ。』


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


いきなり稲光が光り、大きな揺れ。

皆、周りのタンスや壁に手をかけ、一点の方向に向いた。

春樹が


『皆さん。大丈夫ですか?

嫌な何かが来ました。


ジイ。逃げて避難先で診療してください。

熊田。猪田。

周りの方々を避難誘導をしてください。

頭は避難用に厚い座布団とか、段ボールを折って、笠のように隠しておけば何とかなると思います。

奥の小学校あたりが無難だと思います。

ジイと合流して、ジイの指示に従ってください。』


『御意。』


二人は外にでて、五分一は薬品など道具をまとめだした。


==藤太郎−!藤太郎−!トウタ−−−!==


春樹は心で語りかけた。


==はい。わが君。==


==狗賓様やマリリンに結界の場所の変更を伝えてください。

先ほど、刀を解放したあたりに面倒そうな感じの者が現れたので、そこの次元変換だけでもすぐにお願い出来ますか?と。==


==聞こえたわよ。私こっち来て意味ないじゃない。==


==厳島様の方に宜しくお願いします。==


==ふふふ。久しぶりね。ハルちゃん。

繋がるて思わんかったじゃろ

うち、神様じゃけえねぇ。


あとね。

この間も言うた思うけど、厳島様じゃないんよ〜。

うちを呼ぶ時は

市杵嶋。

い・ち・き・し・ま。

ね。

じゃあ、頼むわねぇ。

4時のタイムセール行くけえ早くしんさいよ。

ガハハハハ==


==ねぇ、ねぇ。

今の誰なの?

それにしても、あの笑い方、島崎和歌子みたい。==


==マリリン様。市杵嶋様でございます。

しかし、島崎和歌子とは。ハハハ

よくご存知で。==


==えっと、トウタ。こっちに帰って、周りで逃げ遅れがないか見てください。==


==何よ。市杵嶋て?

て、言ってる場合じゃないわね。

戻らないと。

==


春樹がさっきまでいた公園に着くと、刀の解放させた気を感知したからか、

その空中3mから10mあたりぐらいの6,7mの黒い塊と、

中に薄く人影が見えた。

ただそこを中心に約20mくらい重力で圧されたように木や草も横にネジ曲がり深く沈みこんでいた。


『やれやれ。服。

これは突っ張りますね。

急ぎだから、これで頑張りましょ。


ひとりで喋りながら、


==あの〜、市杵嶋様。

すでに大変な事になってますが。==


==ふぅ。

無茶言わんでよ。私もおばちゃんじゃけえねぇ

あんなんでる思わんかッたんよ。


よし。次元移したけぇ、あとは、居ぬるわ。

でも、刀、狙ってるみたいじゃけえ、気い付けてや

==


だんだん黒い塊は小さくなり、人影は人の姿へとはっきりしていった?

女。

顔は薄暗い時に見る蜘蛛の巣のような月白色でギリシャ彫刻のような女?で、

体は熊のような山男?

春樹は唖然として


==市杵嶋様。

以前、お見かけした大工津見神様の分霊と違いますが。==


==ほうじゃねぇ。

あの顔は……………。


あ、あれはアラクネじゃねぇ。

裏の誰かが、自分が出られないからてアラクネにさせてるみたいじゃ。

彼女使って心を飲み込んだんじゃねぇ。

蜘蛛じゃ。蜘蛛。

アラクネは

蜘蛛になられるとたいぎいけえ(面倒だから)、

今、うちの者で外側に結界張ってるけえ。

間に合うかどうかわからんが。

倒すか、時間稼ぎしていや。==


春樹はふーーっとため息つきながら

気を高めた。


すると、さらに髪は、白銀は白銀にサビがでたような黒ズミのように黒い気がまとわりついた。

身体は細かい地鳴りでもしてるように震え、鐡色に近い鉄の肌に徐々に変わり、

周りに流れる気により、木々が寒さで凍るほどにはりつめた空気を受け、寒さに弱い草はみるみるうちに枯れていった。。


一瞬、震えていた空気が止まった。

その気を刀が吸いとると

肌が白く戻り、髪の毛も元に戻ると、


春樹はそのに、刀がカチッと音がしたと思ったら


すでに春樹は通り抜け10m先にいた。


斬ると、身は影となり首から上が一つ。

胴あたりでまた二つに斬られ、

実態がまだないのか

二つの影となり地に落ちた。

影の頭は鼻のあたりから蜘蛛のような長い八本の足が出て、影に隠れた。

体の上部分は小さな山神に。


下部分の影は、そのまま小さな人型の影にかわった。

それも気配まで市杵嶋の影が現れたので


==え?==


市杵嶋も驚き、声をだしてしまった。


春樹は


==市杵嶋様。

何故、市杵嶋様まで?==


==知らん。知らん。

==


思わず、見えないのに市杵嶋は頭を横に振った。

影から分化したものに目をやると、すでに三つは一つに戻り、

タランチュラを細面の女の顔にパーツをはめ込んだような。

白い衣と袴を身につけた黒い蜘蛛の色で筋肉隆々の体。

周りを煙のように覆う異常に強い魔力。

斬った事で綺麗に混ぜられ、力をだすという面では最大値になった。


==ホントに斬ってよかったのでしょうか?==


==すまん。失敗じゃ。==


==市杵嶋様。あっさり?==


実体化した魔神は、手を開いたまま構えていた。

手のひらには特に黒い煙を何重にも塗り重ねたようであった。


春樹はまた刀をかまえ、ぬいた。

しかし、次の瞬間、

魔神は広げた両方の手のひらで刀を受け止めていた。

そして、両手で刃を握ろうとしたので、

春樹は足首を返し、後ろに下がった。


『なんでしょう。

この危ない予感は。

参りましたね。

黒い煙を何とかしないと、どうにもなりませんね。』


春樹は怖い半分、ワクワクする心を隠しながら


『ウッ!

左脇腹に…入ってましたか…。』


少し息が整わなく、手で脇腹を抑え。


==ジイ。==


==はい。==


==スズメバチの毒は持ってましたか?==


==持ってますじゃ。

ただ…、ウチの倉庫の一階の大きい方の冷凍庫の…。

行ってきますじゃ。==


==藤太郎? いますか−。==


==はい。==


==ジイに頼んだのをサポートしてください。連絡すれば分かります。それを持ってきて下さい。==


==市杵嶋様。何とか黒い糸見つかりました?==


==見つからん。なんで、ウチの顔してたん?==


しょうがないか。

と思い、ジイたちを待つために

魔神との距離をとりながら、防御に徹した。


一瞬で間合いを詰めようとすると春樹は右左と刀を使いながら避けていった。


段々、魔神も苛ついて、

両手から黒い煙を沸きだし、槍を何十本も作りだした。


春樹もヤバイと思い、10mくらい下がる。


すると、春樹のさらに左右と後ろ側に槍を飛ばす。


『あ!』


逃げ道が上だけ。それも槍より少し遅くしないと動けなくなった。

そのとおり、同時に魔神が正面に突っ込んで来た。


春樹も前にでて、刀をぬいた。


黒い湯気のような煙を纏った拳と刀の相撃ちとなったが、

少し腕に斬り傷がついた。

お互いにすぐ斜め後ろに下がった。


==あれ?

黒い煙のあの硬さはもしかして手だけですか?==


と、してると、

五分一が


==持ってきましたじゃ。

春樹様の後ろをトウタが合わせて通って渡しますじゃ。==


==解りました。危なくないよう、息合わせてください。

僕が攻撃避けた後にお願いします。

==


==解りました。合わせます。==


しかし魔神が間髪いれず、何度も押してきた。


右。


左。

と、瞬間に体を左右に揺らし動きながら、春樹に手のひらを当てようとするが

春樹は刀で受けながら、息を合わせて不審がられないように間をあけて後ろに下がっていった。


という間にシュッと春樹の後ろを場地が通りすぎた。


春樹の左手に渡されたスズメバチの毒の小瓶を持っていた。

小瓶をあけ、空中に液体を振り出し、刀を振り、吸わせた。


そして、口の中を噛み、

血を溜めて、

グレートカブキのように刀に毒霧のように血を吹いた。

魔神も一度は攻めようとしたが、何をしてるのか訝しみ、

少しひいた。


だが手の力は衰えず

また手の平を開き、

春樹の間を詰めた。


春樹は魔神の頭部のどこかを、手を避けながら、当てるというが、

今のままでは無理なのは解っているので、

一瞬の間に賭けた。


魔神は


頭。


脇腹。


左頬。


顎。


右頬。


と、ランダムに打ち出した。


春樹は刀で防ぎながら、攻められないような顔して待っていた。


と、同時に鐡の肌が赤みががってきた。


==フォッフォッフォ。

春樹様、また上げましたじゃ。

トウタ、ワシを連れてってくれじゃ。==』


==ああ。そうだね。

すぐ行くよ。

春樹様、最近、血を飲んでらっしゃらないから、無理なされていないかな?


ランダさんのもらいましょうかね?

それとも貯蔵してる血をだした方がいい?==


==いや。

今、いい血、貯蔵してないのじゃ。

ランダの血の方がいいのじゃ。ランダ!==


==はい。聞いてました。

血を300ほど、今、パックに抜きだします。

それで足りますか?==



と、言ってる間にランダの部屋の前に降り、ドアを開けた。


『開けますじゃ。

はい、血。

これ飲んで、力蓄えるのじゃ。』


と、まだ300の半分も入っていなかったが、五分一はよいと、血の詰まったパックをトウタに渡し、人の血液パックをランダに渡した。


『トウタ。

春樹様の元に。』


『行ってくる。』


トウタはコウモリと思えないスピードで春樹に向かう。


『ちょっと、茶をもらうじゃ。お前も早く血を飲んで回復させるのじゃ。

そして、予備を作るのじゃ。』


五分一はヤカンに水を入れ、沸かしだした。


==春樹様==


キーーン


キーーン


刀で受けて避けてる春樹に発した。


==トウタ。どうしました?

下がってください。==


==ジイさんからの言伝てです。

ランダの血飲んでください。==


==ランダは大丈夫でしたか?==


春樹は自分の不甲斐なさに少し苛つきながら、魔神の掌底を避けた。


==血液は飲ませました。==


==いや。

分かりました。

あなたたちを心配させたようですね。

==


今の力では五分以下な事に、不甲斐なく見えたかと、少し懺悔しながら


==次のタイミングでください。


トウタに任せますから。==


魔神の掌底のタイミングをトウタは計っていた。


そして、その時、また春樹の後ろにクロスした。


ガンッ


トウタは槍が肩に、アパートの壁に刺さっていた。


フフフフ


魔神が笑うと、

春樹はグッと怒りの感情を見せ、血を口に含んだ。


赤みがかかった鐡の肌から光る黒い気がにじみ出て

その光る黒衣へと変化して纏うようになった。


春樹は、刀をぬいた。

今度は魔神は両手で防御した。が、後ろに2mくらいズルッと滑り下がった。

今度は持つ間もなく、もう一筋縄、蜘蛛の頭部に斬りつけた。


グッ


『グワー−−!!


とでも言うと思ったか。』


瞬間、姿を消し、気づくと春樹のお腹あたりにしゃがみ、

両手による掌底を腹にぶつけた。


ドンッ


『すまない。

こういうの言うの苦手なのですが、皆の気持ちももらったからちょっとだけ。』


今度は袈裟斬りで右肩から深く斜めにヘソあたりまで斬りつけた。


『グッ、グワー−−−−−!!』


ビシャー−−−−−−−−


ホースを勢いよく破ったように血が吹き出した。

姿が見えなくなるほど。


『よし。やっと刀の加減が出来た。』


アラクネの蜘蛛の部分が衣でも風で飛ぶようにはずれ

顔がみるみるうちに、蜘蛛の顔が山神様に変わり、

==やっと元に…==


と、思ったが、

いつもの山神の姿に戻っても

肌は青鈍あおにび色。

瞳の色は鈍く光る白金色は変わらず、臭いが生臭さを増し、襲ってきた。


『フン』


鼻息荒く、拳を


ドゴーーーン。


今度は同時に地を足で踏みつけると、地は深く蜘蛛の巣のように割れていった。

拳を振り回すと風圧も相まって春樹は吹っ飛んだ。


==アラクネに憑かれてるより、強いですよ。

参りますね。==


場地に刺さった槍を抜きながら


『トウタ。大丈夫ですか?』


と、市杵嶋が


==黒い糸て見えるん?==


==ああ。市杵嶋様。

見えます。==


==アラクネは黒幕じゃないんじゃけえ。

黒い糸斬ってえね。

駄目なら倒すしかないけえ。==


山神の黒い糸は見にくくなってるが、足を上げる度に地に向かってを見えるのを、攻撃を避ける度に確認した。

いつのまにか地より、張ってあったのだ。


ドーン!


また、踏み込んで、右腕で殴ってきた。


春樹は左に半身によけて、山神の右肩の肩甲骨あたりを押した為、

山神はそのままバランスを崩して、腕からコンクリートを張った所に突っ込んだ。


バーーーン!


コンクリートは砕け、周りに小石状になった塊が飛び散った。


==どうしたんねぇ?==


==周りのどこかに向かってるのならば何とかなるんですが、地に向かってでは難しいんで考えてます。==


春樹は、頭を何度か振りながら手でコンクリート色の粉を払った。


==しょうがないけえ。

斬って−ね。

山神もウチもダメージ受けるだけじゃけえ。なんなら主神様にお願いがとおれば、回復するし。==


==それは最後です。==


春樹はまた魔神の山神に刀を向け、切りつけた。


山神でもアラクネと同じように受けるが、斬り傷は幾つも出血が大事になるくらいは出来ている。

しかし、黒い塊と体が融合して血は全く出てこず、踏み込みで足場はどんどん不安定に崩されている。


糸は地中方向にあるようだが、常に右足の真下に糸があるのを見て


==あの山神にウチの力だからしょうがないんよ。

ウチて分神じゃけど結構力あるしね。

とおらなくても数百年もしたら完全に元に戻るから、あんたが悔やむことないけえね。==


==あ!そういえば、マリリンは?==


==医院に帰りそびれて。

市杵嶋様の力でテレビで見られるから

ここにいるよ。おじさま。

いえ春樹さん。


あ、春樹さん、まさか??

私に糸切れないか考えてる?


無理よ。


もうやってみたし。

でも、おかしいのは解ったわ。

この糸は気配を感じるの。

これだと直接、相手に繋がって相手が解るかも。==


ネトーッとした柔らかく堅い黒い糸を人差し指でつつくようにさわりながら。

マリリンが応える。


ドゴーン


先に砕けた3cmくらいの小さい石ころが、

山神が踏み込んだ衝撃でマシンガンのように周りに幾つも幾つも跳ねてきた。

木は幾つも折れ、土も1mくらいえぐれ、コンクリートのベンチは半分で割れたり、端を欠けさせ無惨となった。


春樹は跳んで避けたが、幾つか脛や上腕部や腹などに当たり、バランスを崩して、後ろ向きに尻もちついた。


春樹は、当たったところを擦りながら


==痛−−!!


いくら僕だからていっても痛いんですよ。



うん?…あれ?


あ!いい方法ありました。==


春樹はまだお尻を擦りながら、刀に気を入れて、刀身が黒くなったところで、ひと振り、地上すれすれで山神の方へ振った。


ブン


ドドドドド!


衝撃波が地をはって、山神の方へ進む。

山神は掌で地を叩き、衝撃を止めようとした。

衝撃自体は停まったが、

右手中指辺りから縦に手首辺りまで深い切り目がついた。


ついに血が吹き出た。

山神と何かが混ざった力があっても、防ぎきれなかった。


==何ね?==


市来嶋も驚き


==呼び出してしまうのです==


==へ?==


==さっきから気配は、昔、争ったバフォメットに似てたので、多分、そうだから呼び出そうと。

なんでしたら、そちらも、確認してもらえますか?==


市来嶋が自分の足裏の黒い糸を触ると


==ちょっと待っていね。

そんなあやふやで呼ばれたら困るわ。


見るから。

うーーん!!==


手を足下の黒い糸に触れて探ると


==ああ。

そうじゃね。

だいぶ消耗してるみたいじゃけえ、見えてきたんじゃね。。

ありゃあ醜悪な黒山羊じゃ。


バフォメットじゃ。==


==そうでしょう。山神様と分かれてくれた方が全然組みやすいですし。

力の強い山神様を支配するには余裕なくなってきたのか、気配が何となく見えてましたしね。

==


話しながら、山神が振りきった左拳を刀でおさえると、拳に少し切れ目が出来たが

左拳をひいて

上から下に向かって右拳が落ちてくる。

今度は刀で峰に右手を添えて、受けた。

ゴゴゴゴ!


受けた体中心に蜘蛛の巣状に地が割れたが、

人間一人分埋まるくらいの穴もあき

そこへ片ヒザついて、耐えた。


山神の拳にもザックリとした刀傷が出来た。


『でい!』


春樹は普段出さない変な掛け声をあげ、

拳も止まり、

そのまま、押し返した。


右腕から縦に肩まで切りつけ、

春樹はそのまま背中から5mくらい後ろに着地した。


すると、山神は地に潜った。


==ちょっと魔法陣を書く時間作れないです。

あ、ランダ?

ランダ。いいですか?==


==はい。==


==藤太郎。ランダの所に行って、連れてきてください。


ランダ。

この公園の遠い端辺りにバフォメット呼び出しの魔法陣書いてくれないですか?

天辺の一文字は書かなくていいです。

え、ジイ、何ですか?==


返事すると


==バフォメットを呼ぶんですじゃ。==


==ああ。同じ考えですよ。==


屋根裏で休んでた棟梁が


==春樹様、手伝わせてください。拙者の血を!==


==はあ。

皆に心配させてますね。

大丈夫です。

それよりランダの護衛に。==


春樹はため息つきながら、

一つ小石を持ち

周りの気配を感じながら刀を一度鞘にしまい、居合いの型に構えた。


ふと4mくらい前に小石を投げた。


コツ


ドドドドドト


そこの地中から上に向かって

山神が飛び出した。


峰で腹に居合い斬りをして、ふっ飛ばした。


時間稼ぎは、

山神には効かないようだ。

10mくらい飛ばされ、地に落ち、体がくるくる回って倒れたが

すぐ立ってきた。


==ぼくも言った以上、言葉に責任もたないといけないですからね。==


春樹の白金の瞳が蠢くように輝き、また同じ居合いの構えをしたが

山神はニヤッとし

今度は肩を前にして突っ込んできた。


==もう少し力こめても大丈夫みたいですね。==


跳んで、左鎖骨あたりに斜めに峰で割る勢いで振りおろした。


ガッ


今度は膝をつき、肩から鎖骨あたりを手で押さえながら

前のめりに倒れた。


==あと半分くらいです。==


ランダから経過報告が。


また山神は潜った。


==あれ?==


==どうしたんね?==


==いや。今気づいたのですが

地に潜って、山神の体の表面の傷跡が。==


==まさか、治ってる?て、

言うんじゃないじゃろね?==


==そうですね。

表面上かもしれませんが。==


==潜らせてるのちょっとなごうない?==


==ランダ?==


==あともう少しです。

==


==ああ、出てこないですね。

あの木の手前3mくらいにカマかけてみますか。

ほい。==


また石を木の手前に投げてみたが反応せず。


今度は茂みに手近にあった、

手で持つには大きなコンクリートのベンチの塊を投げ込んだ。


ガサガサガサガサ


ガギ。ガツン。


茂みや地にあった石に当たったりした。


ドドドドドドド


また真上に飛び出して来たのを

春樹は一度構えながら、しゃがみ、下段から足許の糸を狙おうとしたが 膝あたりで飛び上がるのをピタッととまった。


グフフフフ


不敵に笑いながら

横に振った刀を右手で叩き落とし、

左手で張り飛ばした。

春樹は10m飛ばされたあたりで、刀が地に刺さり、しばらく飛んだが刀が何とか勢いをころせ、止まる事が出来た。


春樹はしゃがんだまま片膝ついて呼吸が荒くなった。

肋骨にヒビが入ったようで、右胸を少し押さえ、少し息を整えていると

山神はまた地に潜り消えた。


周りをキョロキョロと見ると魔法陣が目の前20m先にあった。

春樹は魔法陣から

5mくらい反らす方向に走り出した。


魔法陣から5mくらいの一番近くなった頃、

行く先5mくらい先に山神が。出る気配を感じた。


春樹はその瞬間、横の魔法陣の方向に跳んだ。


ガガガーーー


山神は左アッパーで少し土をかきながら出したが空振り。


ゴーーーー


拳を振った風圧が地を鎌鼬のように直線に走った。


春樹はその隙に魔法陣の足りなかった一字を書き足し

完成させた。


すると、魔法陣は蒼白く光りだし


ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン


六回の重い鐘の音がした。


魔法陣一番中側の円に半分から切れ目が出来、

地のはずが扉の様に開いた。


ギギギギギギギギギギギギ…


重苦しい妖気の混ざった黒緑色の煙と供に

黒い山羊顔の姿をした者が現れた。

バフォメットだ。

黒緑色の羽根は大きなコウモリ、

体は白く艶のあり、ガッシリしているが

女の人のようなふっくらとした胸。

腰はスレンダーな女の人のようにキュッとしまってるが、

男の鍛えた腿に上半分は山羊のような毛が生え。

そしてしっとりとした毛が艶っぽく光る黒緑色をした足。

顔は暗黒色の雄山羊だが片方の角は顔の3倍あろうというものが両方に。


しかし、その時、黒い糸は1.5mの高さで地と平行になった。


春樹は出てすぐに黒い糸を切った。


グワワワワワワ


山神。大山津見神が目をさました。


『あれ?

なにしてんだ?


あ、いけない。

バフォメットがこっちに出てるじゃないか。』


一瞬でバフォメットの後ろにつめより、首根っこを掴み

そのまま地面に叩きつけた。


ド−−−−ーーーーン


バフォメットが、フイと顔をあげたところ

春樹がスパッと右角を切った。


ズドーン


ギャーーーー


悲鳴をあげ、逃げようとするが、

大山津見神は手を放しておらず、

もう一回、不用意に勢いつけて叩きつけようと下に落とした。


バフォメットの山羊の爪先で

落ちる瞬間、山神の脹ら脛を切りつけた。


『おっ!』


膝をついて手を放した。


『こんにちは。バフォメットくん。』


冷たい瞳でバフォメットを見る春樹に


『あ−−−−。

感じた事がある気がいると思ったが、お前!!』


バフォメットが見ると、春樹が怒りに満ちた顔で立っていた。

『肩の刺し傷と腹の穴の痕誰がつけたんでしたっけ?』


『儂はあの頃より強くなったのじゃ。』


口からだした黒光りする黒雷を春樹に両手で投げつけた。


その時、春樹は軽く右へ、左へと刀で裁き叩き落としたが、

同時に真後ろに初めから姿を現していなかったバフォメットの尾の先より

黒雷が春樹の背中をめがけて

飛んでくるが気づかない。


その時、

ギリギリでランダが無警戒な春樹の背中の手前に飛び出してきて左胸に刺さった。


グッ


バババババババ


ランダは黒く光って感電して、衝撃で春樹の背中にぶつかりそのままズルズルと崩れ落ちるように倒れた。


春樹の中にまたランダを怪我させてしまった悔しさと、仄かに芽生えてきたランダに対する何かの感情とそれに伴う怒りが心の中を一気に満たした。


プチン


春樹の人間として見てきた心が閉じる。

瞳は紅く、どす黒く紅くなり、

髪の毛もピアノブラックへと変わり

周りには暗黒色の瘴気を撒き散らす。


==ちょっ ちょっと何よ。

この気?==


マリリンが画面を観てると、


『春樹は心を閉じてるんじゃ。

闇に引っ張られとる。

こっちに戻ってくるには、春樹は鵺の奴になんかもらったはずじゃ。

マリリン。お前か、お前の力じゃ近づけないなら、誰かおらぬか?』


市来嶋が尋ねると


『すぐあっちに飛ばしてくれるんでしょ?

私だって同じ一族。負けるけど囮なら…』


『マ、マリリン様。わ、私が…。

た、確か鵺様のは、う、羽毛かと。』


==鵺の羽毛て何よ?

まあいいわ。

ランダ?でしたっけ?あなた大丈夫なの?==


==私より春樹様が…==


==男共は?

ゴブはバックアップよろしくね。

彼女を作戦後、すぐに回収して。

飛ぶのは飛べる?==


==はいじゃ。==


==マリリン様。

場地とお呼び頂ければ。

半分の速さも無理ですが、蝿みたいに飛んで気を散らすくらいなら。==


==よし。

ハリネズミ!==


==??

こ、ここに。==


==最期の手段だけど、おじ様に思いきり頭に当りに行ける?==


==それは…==


==無理じゃない。

おじ様の気付けだ!==


==イエスサー==


いつもなら『御意』と言うべきところ

棟梁、敬礼して言った。


なぜかマリリンの従者のようになり、作戦に入る。


バフォメットは春樹の自らより遥かに強い瘴気に当てられフラついた所、後ろから大山津見神にスリーパーをかけられ、後ろに倒され、

動けなくなった。


マリリンが姿を現すのが作戦スタートの合図に。


今始まった。


瘴気の舞う空を場地はブンブン飛ぶ蝿のようにゆらゆらと右へ左へと動く。


正気を失った春樹は刀を突きだすが、場地はするっと避けた。

その間に、マリリンが飛び出した。


棟梁は後ろの木から機会をうかがうが、どうしても一歩が出ない。


『出来ませぬ。拙者には。』


と、ウジウジ考えてると


春樹の目の前を、場地が横切り、つられて、場地の上がる方向に目を反らした瞬間に

マリリンが春樹の懐の少し前辺りに体をいれ、

すかさず構え、ハイキックを顔に入れようとした。

春樹はすぐ腕二本でブロックに構えた。


バシ−ッ


キック当たったと同時に、棟梁が後ろから影に入りこんだ。


すぐポケットの羽毛にたどりつき、外に投げ出した。


『作戦と違うけど、

グッド!!』


春樹は胸を叩いて捕まえようとするが、棟梁はすぐに春樹の影に隠れて助かった。


春樹が胸や腹あたりを蚊を捕まえるかのように叩いてる隙に、

ランダが羽毛を取り、

春樹の口に擦り付けた。


『ペッペッペッ。

オエ!

何だ?何だ?何だ?』


マリリンはすぐ、


==ランダを回収して!==


『春樹さん。従者に世話をかけるんじゃないわよ。』


と声をかけると


==そうじゃ。皆を誉めてやれ。==


市来嶋もホッとして、頷いた。


==すみません。

ランダが本気でやられて、自分の不甲斐なさも重なったり頭が混乱したところまでは覚えてるのですが、我を忘れていた様ですね。

場地。

ランダに、顔についていた羽毛を額に張ってあげて。==


『へ?』


マリリンがすっとんきょうな声をあげると


『ああ。これね。

口について物凄くおっさん臭さと靴下臭が混ざった感じ100倍と、ギムネマ茶の味の100倍は苦かっただけですよ。

鵺の羽毛は額に張ると効力を発揮します。』


==今、ウチの病院ですじゃ。

ランダ、無茶しすぎで消えそうですじゃ。==


『そんなものつけて大丈夫なの?』


マリリンは言うが

場地は羽毛を受け取り、

病院へ飛んでいった。


『あれは、ししおちゃんから貰える褒美なんですよ。』


いつもの春樹だと、マリリンは確信した。

それも冷静になっても、春樹の力は鳥肌が立つ程上がったまま。


スリーパーを決められたままのバフォメットは、


『ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。』


肩を、足をと、

ぐらつかせてやっと大山津見神からスリーパーで首を絞めてあげてた腕が外れた。


しかし、すでに遅く

春樹は

すでに『丸天』に全ての力を周りに吐き出した瘴気もろともを込めていた。

暗黒色に輝く丸天を下段に構え

バフォメットの前に立っていた。

下段より、

右の腰骨あたりから刀は斜めに入り、シックスパックの外側辺りからそのまま胸も肋骨毎叩き割る勢いで、さらに真上に跳ねた。

奥歯のさらに奥あたりの顎右端下辺りから跳ね上がり、目の上で刀は止まった。

バフォメットもすぐ、斜め後ろに下がったが間に合わなかった。


『痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

なんで、コイツはこんなに強くなってるんだ。

またかよ!!』


目まで深手をおい、赤黒い血が吹き出すのをし、自分で抑え、

体を引きずりながら

魔法陣の扉を開いて、元の住む魔界に帰ってしまった。


==ジイ。ランダはどうですか?==


==大丈夫ですじゃ。

ただ鵺様の羽毛なかったら、間に合わなかったかもしれなかったですじゃ。==


==確かに、ししおちゃん様々です。


もちろん。ジイ。

場地。

棟梁。

そしてランダのおかげです。

あ、マリリンも。==


==私、自分でも誉めるけど、思うんだけどさっきは特によくやったと思わない?

やったわよね?==


==はい。認めます。

マリリン。助かりました。

==


==マリリン様には助けてもらいましたじゃ==


==市来嶋様もありがとうございました。==


==いや。迷惑かけたんはウチらの方じゃけえ。

==


==かたじけない。

いつからか解らんが、体を伸ばすのも久々な気がする。


吸血鬼。

いや馬場。

いや馬場殿。

よく儂をとめたものだ。

礼を言う。


今度は正気な中で相撲か、柔道をせんか?==


==いい気なもんね。大変だったんだから。==


==お嬢さん。ありがとう。==


==でもここ、めちゃめちゃだけど、どうするの?

神なんだから、チャッチャッチャッて直しちゃうの?==


==流石に直せませんよ。==


清んだ青空を見上げて、どうしたものかと考えてると

市来嶋が


==アマテラス様から御言葉を賜りました。

では御言葉を。


この度は助かった。

とはいえ闇の住人に力を借りたのは不本意ではあるが、礼を言う。

そして我が一族から闇に堕ちた者が現れた事に詫びる。

褒美らしい褒美と言えるかわからんが

前日の夜中11時59分に戻す 。


じゃって。


関係者のあんた達,ウチら神の記憶、

悪行はたらいた者の記憶と状態はそのままで。

まあバフォメットはさわれないから。


すると市来嶋が春樹の前に姿を現した。


『あれ?市来嶋様。

どうしました?

こっちに下りてくるなんて。』


『春樹。

今回、世話かけたな。


ああ。そうそう。

もう少ししたら時が戻るじゃろ。

戻った時間のと、これ。

刀『丸天』が二本あると、さらに何かを呼びかねんから、神社に戻しとくわ。』


『あ、はい。解りました。

今でいいですか?』


市来嶋は布を広げ、中に包み込んだ。


『怪我はしとるが、皆、大丈夫じゃろ?

元に戻っても、まだなんかあったら、それはバフォメットの病い絡みだから

ウチか、居候のアイツに伝えいよ。』


『じゃあ、ウチは戻るけえ。

もう二度と島を出て、会う事がない方がええけえ。

殆どの者とはこれっきりと願うわ。


ちょっと皆静かにしてよ。』


天地一切清浄祓



天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と 祓給う−

天清浄とは 天の七曜九曜 二十八宿を清め−

地清浄とは 地の神三十六神を 清め

内外清浄とは 家内三寳大荒神を 清め−

六根清浄とは 其身其體の穢れを

祓給 清め給ふ事の由を

八百万の神等 諸共に

小男鹿の 八の御耳を 振立て聞し食と申す−−−−


祝詞をあげると


公園の壊れた物は何も変わらないが、 市来嶋姫が手を広げると

金粉や銀粉が公園全体に蒔かれ、

それが地に落ちる度に光り、

地が浄化されていった。


しばらくすると全てが消え、

静かな静かな柔らかい気の地へと戻った。


終わった。


『帰るけえ。』


市来嶋姫の姿も消え


『いつまで今日か分かりませんから、帰り』



チッ


ボーン ボーン ボーン

ボーン ボーン ボーン

ボーン ボーン ボーン

ボーン ボーン ボーン


もうずっと止まってた時計がなる。

夜中の12時。


春樹は何故か病院の自分の椅子に座っていた。


そして、従者皆も、猪田も、熊田も待合室に胡座をかいていた。


『あ、こ、こういう事ですか。

み、皆、お疲れ様でした。』


少し、驚いた春樹もすぐ落ち着き、


『皆、大丈夫ですね?』


『はい。』

従者と二人も微妙にずれながらも返事した。


『マリリンは?』


『なんで私だけ二階なのよ。』


二階からの声に

待合室はドッと笑いが浮かぶように湧き、


『明日も早いから、各々戻るように。』


ドンドンドン

戸のガラスから漏れる光に助かったとばかりに

戸を叩く。


カキカキ。ガラガラガラ


鍵を開けて、戸を横に開けると


『先生。先生。うちの子が高い熱だして。』


『ジイ。ランダ行って。』


『僕はもう一人の方行きますから。


その影にいるのは、瀬深丸ん所の坊ですね。

どうしましたか?』


『まだ、寝床から立てない父ちゃんが春樹様にお願いがあるんだって?』


『あの影響うけましたかね?

場地ついてきて。


駄目ですね。こんな時間の変わり方されると目がさえます。


居残り組は買い出し班と調理班に分かれて、出来たそばから宴会して酒でも飲みましょう。

僕達も帰り次第、合流します。

ジイもお願いします。


では行ってきます。


坊。行きましょうか。』


坊を肩車して、医者の大きな黒鞄を右手に持ち、出掛けるのであった。







しかし、厳島神社に、市来嶋姫も、あの刀『丸天』も帰っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ