第1話:脱出
これは創作とTRPG“語り部”で動いている企画「百縁草子」の世界観を借りて書かせていただいています。また、書式は通常の小説とは少し異なり、キャラの会話主体で書いているのでご了承ください。
「#」で始まる文:地の文、あるいは筆者の自己つっこみ
○○:「〜」 の文:キャラのセリフ文
SE:〜 の文:効果音
●登場人物
・雪見屋氷
商工会(中洲の商業全般を管理する組合)の会長。25歳。
薄水色の腰まである髪、白い浴衣、下駄が特徴の美人さん。通称“雪女”。
触れたものの温度を急激に低下させる能力を持つ。
(詳細設定はこちら参照→http://kataribe.com/BZ/01/C/0021/)
・鈴木
雪見屋の秘書。妻と高校生の娘がいる家庭持ち。41歳。
真面目な性格で、こつこつと努力してきたことが認められ、1年前に現在の職に就いた。
最近髪の毛が薄くなってきたのは、会長に振り回され苦労してるからだと思っている。
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『縁具』と呼ばれるものが存在する。
21世紀も半ばに差し掛かろうとする頃、人間たちが何気なく使ってきた器物が何の前触れもなくしゃべり始めた。
古来、日本には「長い間大切に使われた“物”には魂が宿る」という、所謂「九十九神」という考えが存在したが、まさにそれが起こったのであった。
そしてこの縁具たちは、縁主と呼ばれる宿主と契約することで、人や動物、またはロボットや仮想の生物などの姿を得て、人前に歩き回るようになった。
当然、このような異質な事態がすんなりと日常に取り込まれるわけがない。
相手は人間と同じ知性を持つ、しかし人間とは違う存在である。
各国政府はその対処に困惑し、更に、彼らを武器として扱う人間たちの戦闘能力に手を焼いていた。
そこで、各国政府は国内に“縁具特区”と呼ばれる特別区域を設け、そこへ縁主を移住させることにしたのである。
だが、そこで新たな問題が発生した。
縁主は縁具により高い戦闘能力を得る。そんな高い戦闘力を持った縁主が密集すれば、当然、従来の警察機関の抑止力では対抗できなくなるのである。
そこで新たに作られたのが“縁具法”という国際法であった。
この縁具法によれば、縁具を利用した犯罪を行う者を“怨主”と定め、その罪状に応じて賞金をかけることを可能にしたのである。(ただし非殺傷で捕縛のこと)
また、日本の縁具特区内では特例的に銃刀法が解禁され、自由に武装することができるようにもなった。
縁具法が施行されて早幾年。
各地の縁具特区はすっかり狩り狩られの無法地帯と化してしまった。
これはそんな日本の縁具特区の一つ、福岡の第九特区“中洲”で繰り広げられる話である。
■■■
#商工会本部ビルの最上階にある会長室
氷 :部屋の中央にある来客用ソファに寝転がって雑誌を読んでいる
氷 :「あ、そういえば今日は新作のマニキュアの発売日だったわね」
#雑誌から壁掛け時計に目をやれば、時間は午前10時をちょっと過ぎたぐらい
氷 :「よし、じゃあお出かけ行きましょ〜」
#雑誌をテーブルに置いて立ち上がり、入口の方へ
SE :バタンッ
鈴木:「お待ちください会長! 今日こそはしっかりと仕事をしていただきますよ!」
#いきなりドアが開いて、秘書の鈴木が立ちはだかる
氷 :「あら鈴木、怖い顔しちゃって。眉間にシワが寄ってシワヨセ状態になってるわよ」
鈴木:「誰のせいですか! 昨日もいきなりふらりといなくなって! 貴女は商工会をまとめる立場にある人間なんですから、もっとしっかりしてもらわないと困ります!」
氷 :「えー…でも今日は新作マニキュアの発売日なのよ……ね?」
鈴木:「ね? じゃありません! 貴女が仕事をしないせいで、その分が私にまで回ってくるんですよ!?」
氷 :「その分ちゃんと給料は上乗せしてるじゃない?」
鈴木:「そういう問題じゃありません! 本来会長である貴女がやらないといけないことなのに、それを私がやってることがおかしいんです!」
氷 :「あ、そうだ。そういえばこの前娘さん誕生日だったんでしょう? 何かプレゼントした?」
鈴木:「え? え、ええ…以前欲しがっていたバッグを買ってやりまして…」
#照れたように頭を掻く
氷 :「あら! よかったじゃない。高校2年生だったかしら? 大変な時期よね」
鈴木:「そうですねぇ。最近は昔ほど話す事も少なくなって……じゃない! 何さりげなく話しを逸らそうとしてるんですか!?」
氷 :「………チッ」
鈴木:「…ゴホン、とにかくです。今日はこの後幹部とのミーティングに参加してもらい、その後に外部企業との面談、続いて新規企業の立ち上げの認可状と新製品流通許可証の発行、加えて……」
氷 :「はぁ……」
#ため息をつくと、鈴木に右手を伸ばし、彼の顎を撫でる様に触れる
鈴木:「!? か、会長…!」
氷 :「ねぇ、スズキくん? 今日出る新作って外部の有名な会社が出してるもので、中洲じゃ数が少ないから早めに行かないとなくなっちゃうかもしれないの…」
鈴木:「………」
氷 :(鈴木の肩にとん、と軽く頭を乗せ、耳元でささやくようにして)「だ・か・ら、今日は見逃してくれると、嬉しいかな…?」
鈴木:歯の根をカチカチ言わせており、全身が小刻みに震えている。唇も紫色になってきている
#氷に触れられたことで体温がどんどん奪われ、低体温状態になっている鈴木
氷 :「もちろん、やってくれた分に応じてお給料もちゃ〜んと上乗せするし、私もなるべく早く戻ってくるようにするから…ね?」
#甘い声色でのお願い。彼女の指先は首筋をツツツーとなぞるように優しく動く
鈴木:カクカクカクカク
#もはや声が出ない
氷 :「行ってきていいの?」
鈴木:カクカクカクカク
氷 :「そう、ありがとう!」
#頷いているのか震えているのかわからない状態だが、氷は頷いていると判断
氷 :「それじゃ、今日もお仕事がんばってね♪」
#チュッ、と頬に軽く口づけすると軽い足取りで外へ
鈴木:「………(ドサリ)」
#その場に倒れて、なおも体を震わせている
鈴木:「お、おおおおお覚えていろ……」
#やっとのことで吐き出された怨嗟の声は、誰に聞かれる事もなく会長室に敷いてある毛の厚い絨毯に吸収されたのであった。
続く
一応期末試験期間なので、次はいつになるか…