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恐怖のドライブ

●●●●●


翌日。

雪野先輩と登校時間が被らないように学校へ行くと、丁度席についた時に旬からラインが入った。


『話があるんだ。食堂の北側で待ってるから、放課後来て』

『分かった』


……訊かれる事は分かってる。絶対昨日の事だ。

私は放課後になるとすぐに教室を出て、食堂を目指した。


●●●●●


放課後。

旬はまだ来ていなかったから、私は食堂の中の自販機で大好きなグレープ100パージュースを買った。お釣りを取り出そうとしたところで、


「ねえ知ってる?!雪野君、お弁当持ってきてたって」

「ええ?!マジ?!確か彼、父子家庭よね!?どんなお弁当だったの?!」


ギクッ!


「山下に聞いたらミートボールとタコさんウインナーが入ってて、いかにも女子が作りましたってヤツだったらしいよー!」


ぐはっ!

さ……刺されたような衝撃。


「きゃー!!じゃあじゃあやっぱ、非常階段で抱き締めてたとかいうイマカノの手作り弁当!?」

「誰なのかどうしても知りたい!学校一のモテダン射止めたのが誰か知りたい~!!」


射止めてねぇよっ!

ただ単にお弁当作ってたら『俺の分も作れ』って命令されただけだっつーの!!

……怖い。

つくづく怖い、女子の情報網と嫉妬心。

そんな事言えるわけもなく、私は顔面蒼白のまま食堂を出た。

フラフラと食堂を出て人通りの少なくなる北側に行くと、旬が食堂の壁にもたれてスマホを見ていた。


「……旬」


私の呼ぶ声に旬がフッと顔をあげる。


「瀬里」


スマホを胸ポケットへしまい、旬は両手をスボンのポケットに突っ込むと、私を見据えた。


「瀬里。アイツ……雪野先輩とどういう関係?」


やっぱり。

私は用意しておいた答えを返した。


「雪野先輩のお父さんは、パパの会社の社長さんなの。急にパパが北海道に赴任する事になってママも付いて行っちゃって、私だけだとこのご時世物騒だからって雪野先輩が自宅によんでくれたの。パパ達が帰ってくるまで」


旬は眉をひそめた。


「同じ家で暮らすなんて、マジ言ってんの?」


そう言われるのは仕方ないんだけど……。


「旬。この事、黙っててくれない?ほら、雪野先輩って凄く女子に人気でしょ?だから誰かに知られると……ちょっと」


私がそう言うと、旬が一瞬考えてから小さく頷いた。


「……だよな。学校中の女子が憧れてる雪野先輩と同居してるなんて知れたら……お前、キツいよな」

「まあ………そーかな……」

「分かったよ。誰にも言わない」

「ありがと……」

「けど」


旬は食堂の壁を軽く蹴って身を起こすと、私の目の前まで歩を進めた。


「雪野先輩が俺に言った一言は守る気ないから」



『 今後一切コイツに近付くな 』



雪野先輩が言った一言が脳裏に蘇った。


「瀬里だって俺といたいだろ?だから俺と会うときは先輩に内緒な」

「……うん」


何故か胸がモヤモヤしたけど、私は頷くしかなかった。だって旬が好きだから。



●●●●●●


その日の夜。

しまったと思って、私はダイニングテーブルの椅子から立ち上がった。


「……なんだよ」


昨日と同じくカレーライスを食べながら、雪野先輩が私を見上げた。


「……忘れてきちゃった、デッサンの道具。ちょっと今から取りに帰ってくる」

「はあ?お前、何時だと思ってんの?」


そりゃ……午後七時ですよ。でも明るいし、電車なら30分程で家に帰れる。


「明日、美術教室の日なんだ。だからデッサンセットがどうしても要るの。大丈夫。電車で行けば」


言い終わる前にカランと響く金属音と、ガタンという音がした。


「来い」

「え」


●●●●●


五分後。

私は雪野家の駐車場で硬直した。眼の前には黒と赤のボディがなんともかっこいい一台のバイク。


「やだ、怖い。私、電車で帰る」


私が頭をブンブン振って拒否すると、雪野先輩はあからさまにムッとして私を睨んだ。


「いいから乗れ!」


メットの奥の瞳がギラリと光る。


「だ、だって私、バイクなんて乗ったことないしっ」


狼狽え度マックスの私に、雪野先輩はバスッとメットをかぶせると再び口を開いた。


「早く乗れ」

「きゃああっ!」


怖いんだけど!

イライラを隠せない雪野先輩は、言うなり私の脇に両手を差し込んで軽々と持ち上げ、バイクの後方に乗せると自らもそれにまたがった。


「しっかり俺の腰に腕回してろ」

「待ってっ、まだ心の準備が……!」

「うるせぇ!」

「きゃーっ!」


どうやったのか詳しくは分からないんだけど、雪野先輩がバイクのエンジンをかけて肩越しに私を振り返った。


「しっかりしがみついてろ!」

「ひゃああーっ!」


しっかりと暴走族確定だわ、怖すぎるっ!

けど……もう、雪野先輩に命を預けるしかない。

私はギュッと眼を閉じると、雪野先輩にしがみついた。

バイクが走り出した数分後、ようやく私は閉じていた眼を恐る恐る開けた。

その直後信号が赤になり、雪野先輩はゆっくりとバイクを止めて私を肩越しに振り返った。


「平気か?」


平気のわけねーだろっ!

そんなこと言うと蛇行運転の末、振り落とされるかも知れないから言えないけど、私は初めてのバイクにかなりの恐怖を覚えていた。

けど、


「大丈夫です」

「……」


先輩は無言だった。

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