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恋した彼は白金狼~プラチナウルフ~

●●●●●


八月十八日。

あの日から、私は先輩に会っていなかった。先輩からの連絡もなかったし、決心が揺らぐのが嫌で私からも連絡を取らなかった。


『今晩、お前の家に行く』


だから先輩からこの短いラインが送られてきた時は、胸がフワリと浮くようで嬉しく思った。

そう、今日は《満月の儀式》だ。

形だけだけど、私は先輩の許嫁を演じる。

細かな打ち合わせは無かった。

多分許嫁らしく、黙って先輩の隣にいればいいんだろうな。

ただ、掌にナイフブッ刺して何かに血を滴らしたりとかがないことを祈ろう……。


●●●


午前零時。

迂闊にもウトウトと眠り込んでいた私の手の中で、スマホが鳴った。


『……瀬里』

「あ、は、はい!寝てませんでした」


いや、寝てたんだけども。


『……フッ』


先輩の小さな笑い声が嬉しくて、私も少し笑ってしまった。


「今から出ます」


ああ、ドキドキする。

うるさい胸に手をやりながら玄関ドアを開けると、数歩の距離に先輩の姿を見つけた。

満月の光を浴びた先輩は、あの日と同じように素敵だった。

綺麗な眼も精悍な頬も、通った鼻筋も意思の強そうな口元も、みんなみんな素敵で、私は言葉もなくただ先輩を見上げた。


「久し振りだな」


本当に……なんて綺麗な人なんだろう。

ああやっぱり、私は先輩が好きだ。


「満月が……綺麗ですね」


なぜか泣きそうになってしまったから、私はそれをごまかすためにそう言った。


「瀬里」


先輩がゆっくり私に近づいた。


「……はい」

「王に即位した」


王に……即位。それって、王になれたってこと?!先輩が人狼王になったって意味だよね!?


「やったぁ……やった!先輩おめでとう!」


嬉しい。凄く嬉しい。

その時泣きそうになる私に先輩が、


「王に即位し《満月の儀式》は無事に終わった」


……え?

カシャン、と胸の中で何かか割れるような音がした。

それは……それって……。

じゃあ、許嫁の役は?

先輩を見つめると、彼は何も言わず、ただ唇を引き結んで私を見ていた。


あ……。

その時私は思い出した。

先輩って……学校一のモテ男子だよね。……よく考えたら別に私じゃなくっても、その役を買って出る女子なんてきっと沢山いるよね。

それとももしかしたら……私と会っていない間に、先輩に好きな人が出来たのかも。

先輩に告白されてオッケイしない女子なんていないよ、絶対。

全身に冷水をかけられたように、身体から血の気が引いた。

なに思い上がってんの、私……。


「瀬里?」

「そ、そうですか!わかりました!じゃ、じゃあ、あの、私はもう寝ます。お、お休みなさい」

「瀬里」


私は先輩から顔を背けると身を翻して家に入り、二階まで一気にかけ上がった。

自室のドアを開け、ベッドに突っ伏すと、もうダメだった。


「う、うわあああっ……!」


好きだ。先輩が好きで好きで、たまらない。

でも、先輩の好きな人は私じゃないという現実。

当たり前だよね。

地味で目立たない私なんかより、世の中には可愛い女子がいっぱいいるもん。

わかってる。分かってるのに、苦しい。


「先輩……っ、大好き、死ぬほど好き」


あんなウッカリな告白なんかしちゃって、改めてほんと自分がイヤになる。どうせ振られるなら、もっとしっかりした告白をすれば良かった。なら、潔くなれるかもしれないのに。

私は泣きながら、独りぼっちの部屋で先輩に告白した。


「先輩、あなたが凄く好きです」


嗚咽で途切れそうになる言葉を、私は必死で繋いだ。


「あの満月の夜、先輩に逢えて良かったです。一生あの夜の先輩の姿を忘れません。こんなに好きな人に出逢うことはもうありません」


突っ伏したままの告白はベッドの中に吸い込まれて、私はグズグズと鼻をすすった。

その時、


「だから……俺を描いたのかよ……」

「………!!」


先輩の低い声が部屋に響いて、私は心臓が止まりそうになって硬直した。


「俺が死ぬほど好きだから……この画を描いたのか」


せ、んぱい……!

な、んで。


「おい、こっち向け」


やだ、怒られる……!


「ご、めんなさい、勝手に……」


……実は、里緒菜先輩にコンクールに出す画を破られて、私は二度目の作品を先輩に内緒で仕上げた。

だって、画のモデルが先輩だったから。


あの日、あの満月の夜のあの日、プラチナ色の狼に姿を変えた先輩の画を、私は再びコンクールに出品したのだ。

私にはもう、あの時のあの先輩を描くことしか頭になかった。

満月の光を一心に浴びながら、プラチナ色の被毛を輝かせて空を仰いだ先輩の姿を、私はなにがなんでも描きたかったのだ。

観念して身を起こすと、私はベッドの上でガバッと頭を下げた。


「勝手に描いて、本当にごめんなさい」

「ダメだ」

「ごめんなさいっ!」


もう、最悪だ。振られた挙げ句に怒らせてしまうなんて。


「あの、すぐに処分します。本当にごめんなさい」


私は急いでベッドから降りると、部屋の隅に置いていたイーゼルへと歩みよろうとした。


「きゃあっ!」

「許してほしいなら」


痛いくらい、先輩が私を胸に抱いた。至近距離から先輩の瞳が私を見つめる。


「あ、あの」

「許して欲しいなら、この画を俺に渡せ」


……それって……それって、この画を手放せって事?嫌だ、それはできない。

私は夢中で首を横に振った。


「手放すのは嫌です。この画は今まで描いた中で、私の人生の中で、一番大切な画です」

「じゃあなぜ今、処分すると言ったんだ」


一瞬、怖くて身体が震えた。

だってこんなことを言うと……先輩に気味悪がられるかも知れない。でも、でも嘘はつきたくない。

私は観念してギュッと眼を閉じた。


「それは……先輩が今でも好きだからです。あの日、先輩の家を出た日、デートなんて言ったのは嘘です。あなたより好きな人なんてもう絶対に現れない。だから……先輩が嫌ならこの画は私の手で処分します。だけど、手放すのは絶対嫌です!」


言い終わると同時に、先輩が私の口を塞いだ。

私に……キスをして。

嘘。

先輩、なんで。

男らしい先輩の顔が斜めに傾いて、唇が重なって……。

シトラスの香りと、先輩の熱い身体。

あまりにも甘いキスに思考がついていかなくて。

そんな私から、先輩がゆっくりと唇を離した。


「瀬里、瀬里」


堰を切ったように私を呼ぶ声と、切な気な眼差し。

そんな眼で、そんな声で、どうして私を………?


「瀬里、俺はお前が好きだ」


心臓が止まりそうになった。

先輩が私を見つめて、もう一度口を開く。


「……瀬里。愛してる、心から」


幻聴かと思ったけど私は今、先輩に抱き締められている。

本当なんだろうか。


「だ、大丈夫ですか?」


この質問が気に入らなかったのか、先輩が少しムッとして私を睨んだ。


「……なんだ、その質問」


だ、だって。

なんと言っていいのか分からなくてひたすら先輩を見つめていると、やがて諦めたように先輩が笑った。


「瀬里」


優しくて柔らかい、先輩の声。


「はい」

「お前が好きだ」

「し、信じられません」


するとまたしても先輩が私を睨んだ。


「なんでだよ」

「だって……先輩は凄くかっこいいから、その」

「お前はめちゃくちゃ可愛い」


……私が?!

先輩、ホントに大丈夫?!

ポカンと口を開けたままの私に、先輩が再びキスをして続けた。


「……満月の儀式にお前を呼ばなかったのは派閥がなくなり、その必要がなくなっただけのことだ」


あ……そ、そうだったんだ……。

私はホッと息をついて思わず呟いた。


「てっきり、誰か他の人が許嫁になったのかと……」


私がそう言うや否や、先輩は私を抱く腕に力を込めた。


「お前しかいない」


長めの前髪から、切れ長の眼が真剣に私を見つめる。


「俺の相手はお前しか考えられない」


私の言葉も待たずに、先輩は更に続けた。


「すぐにとは言わない。だから」


待って、先輩。

今度は、私が先輩の言葉を遮った。

勇気を出して思いきり背伸びをして、彼の唇にキスをして。

だって、もう我慢できない。先輩が好きで好きでたまらない。

物凄く物凄く恋しくて、この気持ちをいっぱい伝えたい。


「先輩、先輩」


両腕を先輩の首に絡めてギュウッと抱きつくと、意外にも先輩は困ったよう眼をそらした。


「お前、なに考えてるんだ。止まらなくなったらどうするんだ」

「何がですか?」

「……」


私は先輩を見上げてニコニコと笑った。だってこんなの初めてで、凄く嬉しくて。

だから、だから。


「ねえ先輩。すぐにじゃなくていいので、私を先輩の許嫁にしてください。ずっとずっと先輩の傍にいさせてください」


そう言った私を、先輩が甘く見つめた。


「瀬里……愛してる、心から。俺のこの気持ちは永遠に変わらない」


きっとママやパパに話したら、ママゴトみたいな約束だと思われちゃうよね。その歳でなに言ってるのって。

でも、私は真剣だ。

すると先輩が、私を見つめて静かに言った。


「瀬里、お前も分かっている通り俺は普通の人間じゃない。人狼は日本だけじゃなく世界中に存在するし、勿論友好的な奴らばかりじゃない」


私はしっかりと頷いた。


「それに人狼だけじゃなく、時には種族の違う者達と戦わなきゃならない時もある」

「うん」


先輩が私をしっかりと見つめた。


「けど、お前の事は絶対に俺が守る。何からも、どんな相手からも」


先輩……!

嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。


「ほら、泣くなって」


困ったように先輩はそう言うと、私の涙を指で拭った。


「瀬里、それでも俺の傍にいてくれるか?」


逞しい先輩の身体を間近に感じながら、私はしっかりと頷いた。


「先輩、月を観ましょう」


先輩が少し驚いたあとフッと微笑んだ。


「ああ……。今日は満月だ」


バルコニーから見たお月様は凄く綺麗で、そのプラチナ色の光を浴びた先輩は、更に素敵だった。

先輩、これからずっと一緒に月を観よう。

満月でも、三日月でも。


私は先輩に寄り添うと、その手をしっかりと握りしめて微笑んだ。




●●●●●





【epilogue】





『運命は自分の手で切り開くもの』



今やっと、そう思える。



じゃないと、もったいないって。



『弱くて他人任せだった自分』はもう卒業。



女の子でも大切な人を守る強さを持たなきゃって、今は思ってる。



未来がどんなに困難でも危なくても、自分自身で切り開いていかなきゃ。



だって、自分の人生だから。



覚悟がいるけど、それもいい。



私を待っているのは平凡じゃない未来。



どうして分かるかって?



だって私の彼は……。



恋した彼は、白金狼(プラチナウルフ)なんだもの。







恋した彼は白金狼(プラチナウルフ)

       ~end~



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