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人狼王の覚悟《1》

●●●●


天狼神が俺の身体に降臨したのはすぐに分かった。

憑依じゃない。身体に入りつつも、ただ後ろから見ている感じで俺の意思はハッキリしていた。

久しぶりだった。当時十歳だった俺を天狼神が王に選んだ時以来の再会だった。

石が俺を選んだあの日も、こんな風に天狼神が俺の身体に降りてきた。


●●●


ー八年前ー


『白狼』

『天狼神様……?』

『いかにも。私はお前を王に選んだ者だ。私の存在を感じ取れるとは、やはりお前は王に相応しい』

『……俺が……?俺はまだ子供でまだ王にはなれないのに』


俺の中で天狼神は笑った。


『先代の王は偉大だった。だがお前はそれを越える』

『俺が……ですか?』

『そうだ。お前はあと八年後、正式な王となり長きにわたり人狼界を治めるだろう』


天狼神はそう言うと、俺から出ていこうとした。


『待ってください!それまでの間、俺は……』


天狼神が真っ直ぐに俺を見据えた気がした。


『自ずとわかる。私が全てを諭すと面白くないだろう?』


そう言った天狼神は、実に愉快そうに笑った。


●●●


ついにこの時が来たと感じた。

凰狼派が反旗を翻した。

人狼族には三つの派閥が存在している。

先代の王の時代から燻ってはいたが、石が俺を選んだ際に正式な派閥がそれぞれの息子の名で立ち上げられた。


『自ずとわかる』


今なら、あの日最後にそう言った天狼神の言葉の意味が分かる。

派閥争いに決着をつけ、人狼族を統一する事。

それが王になる前に与えられた俺の指命なんだ。

今この時こそ派閥をなくし、人狼族を統一する時なのだ。

俺は決心した。


●●●


勝敗は見えていた。凰狼は計算高いが俺ほど強くはない。

厄介なのはあの爪の猛毒。

それを瀬里に……!

翠狼の腕の中で、瀬里の身体が力なく傾いた。

……瀬里……!

よくも、罪もない瀬里を。

王に相応しいのが俺だと分からせてやるだけのつもりだったが……殺してやる!


「覚悟しろ。真神の元へ送ってやる!」


俺は凰狼の喉元に食らいついて、とどめを刺そうと大きく口を開けた。


「止めてください!白狼様!!」


すんでのところで女が凰狼に覆い被さり、その身体を抱き締めながら俺を振り仰いだ。


「どうか、どうか、この人を殺さないで……!!」


桜花(おうか)だった。

桜花は、両親とも俺の派閥に所属していて、正真正銘、天狼神の子孫だ。


「どけ、桜花!瀬里は俺の許嫁だ。その瀬里を毒爪で貫いた凰狼を許すわけにはいかない!」


俺の言葉に激しく首を横に振り、桜花は更に凰狼にしがみついた。


「嫌です!!凰狼様は本当は優しくていい人なんです!真神の子孫である凰狼派は少数であることと、神が違うというだけでいつも差別に苦しんできました。この人はそれを無くしたかっただけです!」

「ふざけるな。それが瀬里を死に至らしめることとどう関係ある?!こいつが死ぬのは、奪おうとしている命の報いだ」

「血清があります!凰狼様の左爪は猛毒がありますが、右手の爪にはその毒の血清があるのです!」


バカな。

そんな話は聞いたことがなかった。

親父に聞いた話では数十年前、来日中だったトランシルヴァニアのヴァンパイアとの間で小競り合いが起こった際、凰狼の祖父達が毒爪でヴァンパイアを撃退したが血清がなく、毒にやられたヴァンパイア全員が死亡したらしい。

信じられない思いで凰狼を凝視すると、ヤツはニヤリと笑った。


「俺を……凰狼派を見くびるな。日々鍛練し己を鍛え、新しい技や能力を会得している」


俺は凰狼を睨み据えた。


「凰狼。お前は瀬里を毒爪で貫き、俺を脅す気だったのか」


凰狼は荒い息のもと、俺に言葉を叩き付けた。


「ああ、そうだ!!さあ、どうする白狼っ!!許嫁を見殺しにするか王座を辞するか!!今ここで決断しろっ!」

「ならばこうしよう。お前の息の根を止め、その腕を切り落として血清をもらう!!」


俺は、王座を諦めるわけにはいかないんだ!だが、瀬里を死なす気もない!

桜花が泣きじゃくった。


「嫌です!!凰狼様、血清を瀬里さんに飲ませて!」

「黙っていろ、桜花!」


悲鳴のように叫んだ桜花を、凰狼が制した。


「いいえ、黙りませんっ!」


桜花は泣きながら俺から庇うように凰狼を抱き締め続けた。


「愛するあなたがいなければ、私が生きる意味なんてないものっ!」

「桜花、離れろっ!」

「きゃあああっ!」


俺は渾身の力で凰狼から桜花を引き剥がしてはね飛ばすと、再び凰狼に向き直った。


「真神へ祈りを捧げ、潔く死を受け入れろ」


その時、再び桜花が叫んだ。


「凰狼様を殺すなら、私も死にます!」


な、に?!

凰狼の喉元ギリギリのところで、俺は剥き出していた牙を止めた。

眼だけを桜花に向けると、彼女は両手で短剣を握り、ピタリと自分の喉に押し当てて俺を睨んでいた。

涙にくれた瞳と短剣が夕日を反射し、朱色に光る。

おそらく桜花は本気だ。

血相を変えた凰狼が、小刻みに首を振った。


「やめろ、桜花」


桜花は険しい顔のまま、首を横に振った。


「嫌よ!こんな争いは馬鹿げてる!天狼神の子孫だろうが真神の子孫だろうが関係ないわ!どちらも同じ人狼よ!」


桜花は昔から物静かで大人しかった。その桜花が今、惚れた男を必死になって守ろうとしている。

自分の命を懸けて。

ふとその姿が、瀬里と被った。それからアイツとのいつかの会話が脳裏に蘇る。


●●


『あんなの見て、俺が怖くないのかよ』

『あんなのって?』

『だから、狼に……変わるとこ見て』

『ビックリしたし緊張しましたけど、そんなに怖くはなかったです。狼になった先輩の身体は素敵でしたよ』


●●


昔、俺には好きな女がいた。

透けるような白い肌の、眼の大きな女だった。名前は葉月。活発で男勝りな女だったが、素直で可愛かった。

好きだと告げたのは俺の方からだったが、葉月も同じ気持ちだと聞いて、俺は決心した。

人狼であることを彼女に打ち明けようと。

ある日の夜、俺は葉月を呼び出し、秘密を打ち明けた。

葉月は、言い終えた俺を見上げて吹き出した。

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