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デート……?

●●●●


翌日。

終業式だというのに、私は学校を休んだ。

確かに打ち身は酷かったけど、一学期最後の日だから行こうとした私に先輩が、


「ダメだ。こんな身体で学校まで歩けないだろ。終業式だぞ。長時間立ってられないだろ。それに傷が目立つ」


『はい』と言うしかなかった。だって、


「飯は俺が作ってやるし勉強もみてやるから」


って、真剣な顔して先輩が言うから。

それに休むのも悪くないと思い直したんだ、私。

だってまだ……絵画コンクールを諦めきれなかったから。

美術教室の先生に聞くと、本当は締め切りの一週間前に出品作品を教室に保管し、後日まとめてギャラリーに搬入する予定だったらしい。

でも私が理由を話すと、締め切りギリギリまで待ってあげるから頑張りなさいと言ってくれた。


実はもう下描きの九割は終わっていて、後は光とか風の感じの細かな描写と仕上げのみを残しているだけだった。

前回は油絵の具だったんだけど、今度の作品はアクリル絵の具に決めた。だって今回決めた題材と構図は、絶対にアクリル絵の具がピッタリだ。


今日中には下書きを完全に終わらせて、明日からはアクリル絵の具で色をのせていく。

何がなんでもコンクールに出品したい!

私はひとりになった部屋の天井を見つめて大きく深呼吸すると、静かに眼を閉じた。


●●●●


数日後。

夕食の最中に、私は思いきって先輩に尋ねた。


「……先輩」

「あ?」

「あの、誕生日っていつですか?」


先輩が少しだけ眉をあげて私を見た。


「……来週の木曜」

「そうですか!じゃあ」

「お前は?」


……へ?

予想していなかった先輩の質問に私はたじろぎ、唐揚げをブッ刺していたお箸をピタリと止めた。

だって……まさか先輩が、私の誕生日を訊いてくるなんて思ってなかったんだもの。

たちまち心臓がドキドキと煩く騒ぎ出す。顔だって熱い。


私は、真向かいで夕食を食べている先輩を張り付いたように見つめた。

……本気で訊いてるのかなぁ……。

いや待てよ、大した意味はないのかも知れない。私が訊いたから、社交辞令?的な?……でももし、


『誕生日を聞かれたのに、訊き返さないなんて、男としての優しさがないぜ。プレゼントの一つくらい贈らないとだめだろ』


とかって思われてたら、私、なんか気を遣わせちゃったみたいで申し訳ないし……。

こういう時は、どうすればいいんだろう。素直に言っていいのか、それは厚かましいのか。

でも、隠したりお茶を濁すような事をすると、かえって変だったりするかもだし。

どうしよう、なんかワケわかんなくなってきちゃった。

要するにね、私は先輩に妙な気を遣わせたくなくって、その……。


「おい!」

「きゃああっ!」


随分自分だけの世界に入り込んでいたのか、先輩が眉間にシワを寄せてドン!とテーブルを叩いた。


「お前、なに妄想してんだよ」


も、も、も、妄想!!


「いや、別に、なんにも!う、うはははは!」


自分でも不気味で、もし私が先輩だったら今後半径二メートル以内には近寄らないかも知れない。

やだ、怯えないで!


でもさすがデカいバイクを乗り回すだけあって、先輩は怯える様子もなく私を真っ直ぐに見つめた。


「で?いつ?」

「な、なにが?」

「だから、お前の誕生日だよ」

「そ、それは……」

「なんだよ、言えって」


ああ、もういいや!


「えっと、七月二十八日……です……」

「フッ」


へっ?

私が答えるとなぜか先輩は一瞬真顔になった後、噴き出した。


「あの、先輩……?」

「七月二十八日は、来週の木曜日だ」


……え。


「それって」


先輩がニヤッと笑った。

ほ、ほんと?!

私、先輩と同じ誕生日?!

嬉しい……嬉しいんだけどっ!


「や、やったあ!」

「やったあって、お前」

「あっ」


思わず叫んでしまった私を、先輩がジッと見つめた。


「ひゃ!あ……の」


う、そ。

突然、先輩の手が触れた。

テーブル越しに、先輩がこっちに向かって手を伸ばし、大きな手が私の頬をフワリと包んだのだ。


信じられない。

……なんで?どうして?

時間が止まったみたいな感覚。

もう、心臓がこれ以上ないほどバクバクしてる。


「どっか行くか、ふたりで」


精悍な頬を斜めに傾けて、先輩は少し身を乗り出しながら私の瞳を覗き込んだ。

切れ長の眼が凄く優しくて、私は息をするのも忘れて先輩を見つめた。

こ、これは現実なんだろうか。

それともあれか!?白昼夢か?

どうすればいいか分からなくて硬直した私の頬を、先輩がムギュッとひねった。


「急に固まるんじゃねぇよ」

「いひゃっ(痛っ)」

「行くのか行かねーのかどっちだよ」

「行きます!行きたい!」


つられて身を乗り出した私を先輩が見つめた。

至近距離で視線が絡む。


「…………」

「…………」


待って!

誰に待ってほしいのか自分でもわからないけど、く、唇が近いっ……。

いや、唇だけじゃなくて顔全体が近いんだけれども。

凄く……男らしい顔……。

ああ、なんてカッコいいんだろう。

先輩の意思の強そうな唇が素敵で、私は眼を反らすことが出来なかった。


キス、したい。

ハッ!

や、やだ、私ったらなんて事を。

咄嗟に頭をブンブンと振って、私は大きく息を吸い込んだ。

先輩にキスがしたいなんて、そんな厚かましい……!

いや厚かましいというか、いやらしいというべき??

そうよね、女子からキスがしたいだなんて、ダメよね。

いや待てよ、じゃあ世の中の女子は一体どうしてるの?

やだ、私ったら。と、とにかくダメ!したくても我慢しなきゃ。したいからって、しちゃダメ。

だって私は先輩が好きだけど、所詮は片想いなんだから。

付き合ってるならともかく、私と先輩はそんなんじゃないし、その……。

私は先輩にキスがしたいという煩悩と死に物狂いで闘いながら身悶えした。

落ち着かなきゃダメ。じゃないと先輩に……。


「あれ?!」


いねえ!!

どこいっちゃったの、先輩。

キスしたい欲望と必死で闘っている間に、目の前にいたはずの先輩の姿が消えているではないか。

忍者か。……まさか。狼だけど。ああ。


先輩は、ひとりでガンガン妄想にふけっている私を見て、呆れたのか恐怖したのかどっちだろう。

私はポツンと残ったダイニングキッチンで、クタリとテーブルに突っ伏した。


●●●●


そして七月二十八日当日。


「瀬里っ!いつまで待たせるんだっ!ドア蹴破るぞっ」

「きっ着替えてるんだから、入ってこないでっ」


私は、イライラしながら部屋のドアをガンガンとノックする先輩に焦って言葉を返した。

そりゃ、 約束の時間を十五分過ぎてるんだけども。でも、待ち合わせじゃないんだから大丈夫でしょ。おんなじ家なんだし。


実はね、私、最近痩せたみたいなんだ。

多分、旬に失恋したこととか、画を破られた事、翠狼の暗示の件とかで食欲が落ちていたのが原因だと思うの。

今日は先輩にバイクで海を見に連れていってもらう予定で、ストレートジーンズにしようと思ってたのに、それがまさかのブッカブカ。数歩歩くとズレるんだよね。

で、急遽仕方なく、ショートパンツにしたんだ。


ショートパンツは前に買ったお気に入りのヤツだったんだけど、正直キツかったの。

痩せたお陰で今それがピッタリだったから、決定したんだけどそれに伴いトップスもチェンジしなきゃいけなくなっちゃって、結局十五分オーバーしちゃったってワケ。私はそれでも大急ぎで部屋から出ると、廊下で待っていた先輩を見上げた。


「ごめんなさい、先輩、お待たせ……」

「…………」


先輩は私を見るなり、いつもは切れ長の眼を一瞬丸くした。

な、に、その反応。やだ、失敗?!こんなヘンテコなメイク&服装の女と出掛けられるか!とか思われちゃったんじゃ……。

だって先輩は胸元がチラリと見えるVネックシャツと、ダメージジーンズが凄くカッコいい。シンプルさが余計、先輩の魅力を際立たせているというか……。

私は狼狽えながらも先輩に尋ねた。


「あの先輩……変ですか?」


するとすぐに、先輩がグッと眉を寄せた。

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