告白と異変
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数日後。
……私が好きだと……先輩は嫌かなぁ。そりゃ、私みたいな地味子に好かれても嬉しくないのは百も承知だけど、迷惑がられるのはへこむなぁ。
絶対に両想いとか不可能だし、やっぱ告白とかは無理だなぁ。
私は目の前で夕食を食べている先輩を見つめながら、気付かれないようにソッと溜め息をついた。
「なんだよ」
うわ!
「人の顔見つめながら溜め息つくんじゃねーよ」
「ごめん……」
「……お前、晩飯食わないのか」
先輩は私が作った夕食を食べながら、少しだけ視線をあげた。
「……はい……気分が悪くて」
本当はお腹減ってるんだけど、いつものあのムカムカが襲ってきていた。
私の言葉に先輩が箸を止める。
「どんな風に気分が悪い?」
先輩の問いに、私は眉を寄せた。
「んー……と、雪野先輩の事を考えると胸がムカムカするんです。あ」
しまった。
「ごめんなさい、あの……」
私は誤解されるのが嫌で焦って続けた。
「私の意思に関係ないみたいなんです。だって私は先輩が好きなのに、先輩といると気分が悪くなるから不思議で。先輩の事をずっと考えたいのに、考えると胸がムカムカし……て……」
もう手遅れだった。
先輩が動きを止めて私を凝視していて、私はそれを見て初めて自分が大胆発言をしてしまったことに気付いた。
ど、ど、どうしよう!
今の言葉って、完全に告白みたいな感じに……。
お互いが無言で見つめ合い、微妙な空気が広がる。
私は咄嗟に俯いた。だってもしも先輩が迷惑そうな顔をしたら、立ち直れないもの。
「あ、あの、私、その」
下を向いたまま、何とか言い訳を考えようとしたけど上手くいかずに、私はゴクンと喉を鳴らした。
その時、
「今のって、告白かよ」
「え」
恐る恐る顔をあげると、先輩が笑って私を見ていた。
「なあ、なに、今の」
「な、何ってその、」
「その?」
クスクス笑われてしまって、私は観念して正直に言おうと口を開いた。
「あの、言うつもりはなかったんだけど、ついウッカリ……」
私がそう言うと、
「お前って、ドジだよな」
「……うん……確かに……」
「フッ……!」
またしてもドキンと鼓動が跳ねた。だって、ウッカリと告白してしまった私を見て先輩が優しい顔をしたから。
この時ばかりはムカムカも忘れてしまっていた。
ああ、先輩ってこんなに優しい顔をするんだ。先輩って、こんな風に無邪気に笑うんだ。
いつもの鋭い眼差しじゃなくて、ドジな私を呆れたように見つめて白い歯を見せる先輩。
胸がキュッと鳴る。
こんな表情をこれからも見ていたい。これからもこんな風に、私に笑って欲しい。
だから私は物凄く勇気を出して先輩に話しかけた。
「先輩」
「ん?」
「あの、うっかり告白してごめんなさい。でも困らせる気はないです。私が勝手に好きになっちゃっただけだから気にしないでください。その……好きになって欲しいとか、そんな図々しい事考えてません」
先輩が驚いた顔で私を見た。
「瀬里」
「なんか、ごめんなさい。実は私、人に好きって言ったの初めてなんです。凄く下手でごめんなさい」
もう、ほんっとにドジだしダサい。私は自分でも呆れてしまって少し笑った。
「瀬里」
ダメだ、どんどん気分が悪くなる。
「瀬里!!」
自分が何かにぶつかったところまでしか分からなかった。
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ガツン!ドタン!という音が聞こえた気がした。
反射的に眼を開けて、私は数回瞬きをした。
オレンジ色の小さな光に照らされた部屋は、先輩の部屋だった。
「先輩?」
部屋の中に先輩はいない。じゃあ、今の音は?
痛む頭に耐えながら、私は一階へ降りると廊下を歩いてリビングへと足を向けた。
「……先輩……?」
ソファに先輩が倒れていた。
腕が力なく垂れ下がり、指がカーペットに触れている姿は痛々しくて、私は思わず先輩に走りよった。
「先輩!」
うつぶせになって眼を閉じていた先輩が、苦し気に私を見た。頬の擦り傷が痛々しい。
「……瀬里」
「どうしたんですか、先輩。なにがあったの?!」
「気分は?大丈夫か?」
「先輩のが……怪我してる」
よく見ると、擦り傷だけじゃなかった。打撲したのか、赤紫に腫れ上がった腕が痛々しい。
「な、んでこんな」
先輩が荒い息と共に返事をした。
「反対勢力を抑えるのに手こずったんだ。仲間に気の荒い奴がいてな」
「先輩、冷やそう」
そう言って立ち上がろうとした私は、思わず眼を見開いた。
だって、先輩のピアスが……天狼神の魂から生まれた石が、とても綺麗に光ったから。
ううん、綺麗に、なんて単純な光り方じゃなかった。まるで私に『触れろ』と命令しているみたいだ。なに、この感覚。
私は堪らずに、先輩の耳に手を伸ばした。
指がピアスに触れると全身が痺れた。
なに、今の感覚!
ゾクゾクする刺激が、たまらない。
その時、掌が先輩の頬を包み込むように当たって、先輩が身動ぎした。
「瀬里?」
低くて掠れた先輩の声にドキッとしたけど、私はもう自分が止められなかった。
「先輩……」
吸い寄せられるように、私は先輩の耳に唇を寄せた。
「……っ……!」
唇が石だけでなく先輩の耳に当たり、彼が眼を見開く。それから先輩は私の手首を掴み、こっちを見据えた。
「瀬里、お前どうしたんだ」
「……!」
先輩の警戒したような眼に冷や汗を感じて、私はようやく我に返った。
「瀬里」
「ごめんなさい、私、なんでこんな……!」
分かんない、なんでこんなことしたのか。なんで先輩のピアスに触れずにはいられなかったのか。
ごめんなさいと言いつつも、ピアスから眼が離せない。
それどころか我に返ったのは一瞬で、訝しげに私を見る先輩の眼つきに憤りを感じた。
……なによ、その眼。
そんな鋭い眼をしないでよ。
疑わしい顔をしないで。
すると、破られた画と翠狼の緑色の瞳が、脳裏に蘇った。
やっぱり、許せない……。
画を破られたのも、翠狼に連れ去られて殺されそうになったのも、先輩のせい。この、雪野翔のせい。
待って。
もしかして私だけじゃなく、翠狼だって本当は被害者じゃないの?翠狼の方が歳上なんでしょ?本当は、翠狼の方が天狼神の石に相応しいんじゃないの?
このピアスを翠狼に渡した方がいいのだとしたら……?
なら、私が翠狼にこのピアスを。
ナイフはどこ?ハサミでもいい。耳を切って、天狼神の石を翠狼に……。
「瀬里っ!!」
激しく体を揺さぶられて、私はビクッと身を震わせた。
「おい、しっかりしろっ!!俺の眼をしっかり見ろっ!」
気がついたら先輩は起き上がっていて、私の両肩を掴んでいた。至近距離で視線が絡む。
……嘘でしょ……?!
私、とんでもないこと考えてた……!!先輩が憎いだなんて!耳を切ってまで翠狼に石を渡したいなんて!!
なに、なんなの!?
再び頭の中に、破られた画と翠狼の緑の瞳が現れてグルグルと回る。
「私多分、頭、おかしい!!嫌あああっ!」
「瀬里!!」
取り乱しながらも、本能的に思った。ダメだ、ここにはいられない!先輩から離れなきゃ、私は先輩を憎んで傷付けてしまう。
「離してっ!」
ありったけの力で、私は先輩を突き飛ばした。
「瀬里、待てっ」
「ごめん先輩……!」
私は身を翻すと、玄関から飛び出した。
怖いよ、自分が怖い!どうなっちゃったの、私……!これが暗示なの?分かんない、分かんない!!
ハアハアと息が上がるのに足が止まらない。
私は泣きながら走り続けた。




