第8話 眠れる館の美少女
購入の候補として下見に来ていた小さい館。
俺が庭を一周してリビングに戻ると外に出た時より人が一人増えていた。
仰向けに眠る赤毛の少女をカオルとイズミが二人がかりで支え、魔女が壊れ物を扱うかのように慎重に診ている。
具体的には全裸の美少女の足首とひざ裏を白黒エロフコンビがつかみ、教科書の教材にしたいほどの見事なま〇ぐり返しを披露していた。
そして変態行為に拍車をかけるように、幼女が少女の股間の前に座り、ちまっこい指でお肉を左右に開いてお医者さんごっこをしていたのだ。
幼女……魔女ポーが振り返り嬉しそうに俺に告げた。
「お、戻ったかヒイロ、どうやらこの娘っ子は処女のようじゃ。この屋敷、中々のお買い得品じゃぞ!?」
ポーの逝っちゃってる言葉に同意するように、良い笑顔でサムズアップする狂ったエロフ達。
ブレーキ係り、突っ込み役が不在の恐怖……。
俺は静かに天を仰ぐ、梁むき出しの天井とレトロな照明器具は、いかにもな西洋風JPRPGの内装で日本人好みだと思う。
――AVタイトル:眠れる館の美少女と痴女達……かな?
残念ながら、俺の心に突っ込んでくれる突っ込み役は誰もいなかった。
◇
夕方の飯時、俺達は宿屋の一室で食事をとっていた。
丸いテーブルに四人、俺とカオルとイズミ、そしてあの赤ちゃんプレイのあばばばばばばばばばばば……ハッ! えっと、忌まわしき事件のあとに何故か俺達について来た魔女ポーがいる。白黒エロフコンビと何かしらの話し合いと取引があったと予想できるが俺には定かではない。
料理はお店のものと、日本料理もどきが仲良く並んでいた。
カオルが宿屋の女将さんと仲良くなって厨房を使わせてもらっているらしく、前世の料理を再現した物を出してくれるのだ。
肉じゃがを作ろうとしてビーフシチューもどきになったのには元漫研メンバー三人で笑ってしまった。そんな手料理、俺とイズミは懐かしさに目を細め舌づつみを打ち、ポーは毎回おっかなびっくりで口に入れては、あひゃっうひゃっと幼女のように大喜びしている。
今日はコロッケもどき、手間が掛かるけど美味しいよね。
宿の一階は酒場も兼ねていて、多くの者が今日一日の労をねぎらうために酒で喉を潤していた。その喧騒は俺達のいる二階まで聞こえてくる。独特のテンポの異国情緒あふれる歌、香辛料などの様々な匂い……空気にすら慣れてしまったが、ふとした瞬間に自分は異邦人なんだと実感する。
しかし部屋の雰囲気は外とは別……それは俺の同胞であるカオル達のお陰かな。
俺とは違い、彼女達は完全な一からの生まれ変わりだ。だとしても、この世界に自分と同じ根源を持つ者達がいることには安心を覚える。まあ彼女達といると日本に帰れるなら帰りたいなぁ……などと情けなく思ってしまう俺もいるわけだが。
そんなワビサビを感じながらカオルの手料理を頬張り、酒で口内の油を流し、隙あれば俺の股間に指を伸ばして来るイズミの腕を叩く。危険なバイブ機能付きの腕を叩き落す。
この白エローフ!? 幼女が真似するから止めなさいよねっ!!
つうか異世界の切ない情景と、僕達は遠くに来てしまったんだと故郷を懐かしみ、望郷の念を抱く人間アピールの中二病一人語りをたまにしていたらこれだよ!
鬼畜エロゲーマーめ、お前は少し股を閉めろ! ワビサビ代わりにワサビを塗るぞ、こらぁ!?
あーちくしょう、コンビニが恋しい。週間漫画雑誌、新作のお菓子、カップラーメン&缶コーラの健康に良くないけど中毒性の高いジャンクな物を食いたい!!
とまあ俺達はこんな日常生活を送っていた。一言でいえば家族ごっこがしっくりとくる。
一時期は病みっぷりが酷かったカオルもイズミが一緒に生活するようになって心に余裕が出てきたのか、俺に対しての束縛が大分ましになってきている……はずだ。
問題は家族四人が一つの部屋で寝起きしていること。大部屋でも女三人もいると何とも言えない匂いがこもる、フェロモン的なものが俺の股間に果敢にダイレクトアタックを仕掛けてくるのだ。
お馬鹿ね、別の部屋をとればいいじゃない?
その通り、でも俺の提案は3:1で可決しなかったんだ……。
それに外ではともかく部屋では薄着というか、いっそ全裸のほうがましではという格好をすることが多い二人……とくに白エロフのほう、意味もなく俺の前でがに股ダブルピースをするのは止めて頂きたいこの清楚系ビッチが。
要するに色々な意味で限界、再び暴発する前に鍵付きの個室が欲しいのだよ俺は。
ここ最近では色気づいてきた幼女が俺の前を全裸でうろうろとするので、お父さんとしてはちゃんとした情緒教育を受けさせたいところ。
そこで俺は人生の一大決心の買い物をすることにした。
「そういう訳で母さん、家を買おうと思うのだがどうだろう?」
俺は食事中のテーブルで、ポーの口元についた汚れを拭いていたカオルに突然脈略もなく尋ねた。ちなみにここまでの脳内思考は一言も漏らしてない。
ダークエルフの美女は一瞬驚いた表情を見せるも、あらあらまあまあと微笑んだ。
「そうですねお父さん、ポーちゃんもこれから大きくなりますし、いつまでも宿屋生活は出来ないですものね」
「わー、いいですね、お父様。わたくしも年頃なので、女としての自分磨きのために、自由になる個室が欲しいと思っていたところなんです」
カオルは現状を理解して母さん風な演技で話に乗ってきてくれる、合せる娘役のイズミも何だかんだとノリがよい。二人ともコミュ能力が高いです。
カオルと……その、不本意ながらイズミも、元の職のせいか人と話すということに関しては俺なんかより遥かに優秀だ。そりゃまあ、この世界のトップ権力の人達のお話に付き合えるんだからそうだよね。むしろ俺はかなりコミュ障の部類なんじゃないかとさえ思う。謙虚さよりウザいくらいの自己主張のほうが大事なんだね日本以外の国では。
三人の無言の視線が魔女に集中した。
「お、おぅ……。ワシ……ポーもお家が欲しいな……お、お父さん!」
ロリのじゃも空気を読んでくれたようだ。
◇
何人か知り合いの商人を当たり、候補の館の一つ『え、訳あり物件ですか?……それでは今から相談しましょうか?』と白黒エルフコンビが値切りに値切って、最後に料金を二割ほど戻してあげた建物の下見に来た。値段の下げ上げについて理由が分からず話を聞くと、後々までを考えた飴と鞭の手法であるのだとか。
そうは言うものの値段交渉の際、顔面が段々と蒼白になり最終的には白目を剥いていた商人さんの姿と、微笑みという名の威嚇攻撃をしながら、容赦なく商品説明の矛盾点を発見し次々とぶっこんでいく白黒エロフコンビの鬼畜な有能さが忘れられない。あの魔女ポーですら「お、恐ろしい娘っ子どもなのじゃ!?」と慄いていたくらいで、俺も同意する。
館のほうだが、日本人がアニメなどでイメージする西洋のお屋敷よりは小さいが、一般的な日本家屋に比べると大きく、いい感じで古びた建物。
内部をカオル達が調べ、その間に俺が庭を探索することになった。
商人によると、館は住む者が次々と心を病み不幸な目にあうのだという……ポーの推論では人避けの呪いでも掛けられているのではないかということだ。
まあ、訳ありだから何が出るか分からないけど、大抵のことは俺とポーがいれば何とかなる。最近のファンタジー世界だと今一つ地味になる除霊のようなオカルト絡みなら、貸しを作っている知り合いの僧侶に協力を頼むだけさ。
外を何事もなく散策し野イチゴをツマミながら戻ってきたら、リビングの床板の一部が外れて階段が見えていた。その横では痴女三人娘が赤いロングヘアーの裸の美少女を相手に、企画ものAVのような羞恥レズプレイを展開していたのである。
お父さんは一家の長として、娘達の淫行に対し脳天に拳骨をくれてやったのだ。
しばらくしてから目を覚ました中学生ほどの年齢に見える赤毛の美少女。
ぱちくりとソファーの上で起きて、意識朦朧とした感じで全員を見回し、最後に俺の顔を見た瞬間に大きい目を見開いた。
「…………お、お前は……ま、まさか、鈴木(ヒデオ)かっ!?」
俺を名字呼びする男の心当たり……漫研唯一の良心。
何で掃き溜めに所属しているのか分からないハイスペックイケメン、文武両道で180㎝の長身をもつ、出来るツンデレのアユムであった。
……現時点では謎の赤毛のJC美少女。家族に突っ込み役が加わったのである。