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第2話 完全にメス堕ち

 夜……俺はカオルのネットリとした視線にさらされている。

 王都の宿、ベッドは二つだ。

 毎日、別々の部屋を取ろうと提案しているのだがカオルは酷く嫌がった。あんなことがあった後だ、一人では怖いのだろう仕方がないと思う。

 しかしだよ……背を向けて寝ている俺のすぐ傍で、はぁはぁふぅふぅと熱い吐息を漏らし、何か人生を考えさせられるような水っぽい音を響かせるのは止めてくれ。


 俺は眠ることも出来ず、こうなってしまった原因を思い出していた。



 あの衝撃の再会の後、俺のズボンを脱がそうとする淫乱TSダークエルフの元キモデブを拘束して説得し、二人で冒険者をすることにした。

 互いに一銭も持たぬ身、稼ぐにはガテン系が一番手っ取り早かったからだ。

 ちなみに俺は典型的な勇者タイプ、剣と魔法の両方いけちゃうノンケである。

 それに対してカオルにどんなことが出来るのか聞いてみれば、セッ……本人も分からないとの返答。

 幼い頃に奴隷となって以来、知識と美貌を磨くことと〇技の修練に人生の全てを費やし、体を鍛えることは健康のための軽い運動以外はさせて貰えなかったらしい。

 こればかりは本人の咎ではないが、先のことを考えると全て容認するわけにもいかないのが保護者としての俺の辛いところ。


 取り敢えず武器屋に行って気に入った武器があるかと選ばせると、びびっときて手に取ったのは謎の指輪。指にはめると呼び出される美しい水の精霊。

 娼館ゆえに召喚……やかましいわ。

 店主に話を聞くと、その指輪は精霊召喚のための触媒。どうやらカオルには精霊使いの能力があったらしい。


 それから俺達は冒険ギルドで登録をすると、魔獣を討伐して金を稼いだ。


 俺達二人のコンビは実に息がピッタリであった。俺がオールラウンダーだということもあるがカオルもいい感じで合わせてくれるのだ。

 俺が接近戦をすると、それに合わせて壁となる土の精霊を、俺が遠距離で炎の魔法を使う時は威力を増す風の精霊でサポートしてくれる。


 流石は元漫研のネトゲーマー・カオル。癒しのデブネカマの名は伊達ではない。


 カオルは元高級娼婦ゆえなのか、おしゃれをするために化粧やら香水やら、宝石や衣服などの目玉が飛び出るような高価な品を次々と買い金使いが非常に荒かった。

 しかし俺達は討伐の難しい希少な魔獣を倒し、高級素材などを手に入れて阿保のように稼いでいたのであまり問題ではなかった。

 むしろカオルの問題は隙あれば俺の股間を触ろうとしたり、服と呼ぶのもおこがましい格好でうろついたり、思い出したように誘惑してくることだろうか。

 まあそれに関して俺は、奴が牛乳を拭いて放置した後の雑巾のような体臭を持つ元キモデブであると知っていたので欲情などできず。カオル自身も元娼婦という負い目があって気まずさを誤魔化すために冗談でやっていたのだと思う。


 そう、あの事件が起きるまでは……。


 俺達は冒険者ギルドでも有望なルーキーとして名を売っていた。

 特に美貌のダークエルフであるカオルの注目度は非常に高かった。

 それなのに警戒心が足りてなかったのだろう。

 迂闊だった。この世界に来てから騙される経験は何度もしていたのに……俺がもっとしっかりしていればよかったのだ。


 ある日、カオルはさらわれた。


 別々の仕事の依頼を受けている時のことだった。

 犯人は依頼主の、とある小国の有力貴族。

 カオルは元高級娼婦だ。

 高級娼婦とは、ただ美しければいいというわけではない。

 何故なら王国の高級娼婦とは教養と品格を兼ね備え、政治や商業や芸術といった様々な分野の知識に精通した頭脳明晰な女性しかなることが出来ないからだ。

 相手は王族や大富豪といった国家レベルの権力者達が殆どなのだが、体を求めずに助言や愚痴など話だけをしに来る者も珍しくはないのだという。 

 ましてやカオルは王国一の高級娼婦だった。下手な貴族令嬢やお姫様より遥かに高みにあると言っても過言ではないだろう。

 そんな普通であればお目に掛かることすら難しい天上の美姫が、冒険者として依頼を受けてくれるというのだ。


 不埒なことを考える者がいてもおかしくはなかった。


 精霊がカオルの危機を知らせてくれた。

 俺はすぐさま、そのクソ貴族の屋敷に襲撃をかけた。

 カオルを見つけだすまでどんなことがあったかは、まあ割愛しよう。

 そしてベッドの上、薬を盛られて意識を朦朧とさせられた全裸のカオル。

 それに圧し掛かかり始めようとしていたサカッた醜い豚。

 俺は怒りのままに、豚……貴族とか言う名の男に地獄を見せた。


 カオルを抱きかかえて、その小国を抜け出した。

 相手に非があるとはいえ一国の有力貴族、どんな危害を加えてくるか分からない。

 俺一人ならいいがカオルを守る必要があったのだ。

 目を覚ましたカオルは泣きながら俺に抱きついて来た。


「ごわがっだっ! 私、本当にごわがっだの”!!」


 カオルはエンエンと鼻水を垂らしながら俺の胸の中で泣いた。


 今まで、カオルが高級娼婦として相手をしてきたのは徳のある高い身分の者、つまり紳士的と言える者達だったのだろう。そんな彼女にとって欲望のまま獣のように襲い掛かってきたクソ貴族は本当に恐ろしい相手だったんだ。

 その時ばかりは俺も、彼女が漫研仲間の牛のクソみたいな顔をした元キモデブであることを忘れて優しく頭を撫でて慰めてやった。


 そして……カオルは俺から片時も離れなくなった。


 それからカオルは一切の贅沢を止めた。

 冒険者家業は続けているので相変わらず莫大な稼ぎはあったのにも関わらずだ。

 宿も高級なところではなく健康を保てる程度の場所にランクを落とし、服も見た目よりも丈夫で長く使える簡素なものを選んだ。

 まあ、カオルがそれで満足しているなら俺としては問題ないのだが、たまに……。


「私達の将来のための資金だものね」


 頬を染めて愛おしげに自分の下腹部をさすりながら言うのだ。

 ……冒険者ペアとしての活動資金だよね?

 深い意味はないと思いたいのだが、ひまわりのような笑顔で言われると何も言えなくなって、何だかものすごく恐ろしい。

 それに以前は冗談程度だったボディタッチが最近では冗談にならない感じで変化しており、むっちりとした褐色の乳や太ももを所構わず密着させて蠱惑的な微笑みを浮かべてくるのだ。

 仕事をしている時と寝ている時以外は常時であった。

 手洗いや風呂ですら出るまで扉の外で待っていて下手したら一緒に入ろうする。

 夜は夜で……人間的な水っぽい音をたてている。

 そんな風に張り付かれている俺は……自己処理をする暇がまったく無かった。


 そして朝が来る。

 カオルはベッドに横座りし、はにかみながら左手を差し出して待っている。

 俺の手には精霊の指輪。

 あの事件の後、カオルが恐怖から立ち直るために俺に望んだことの一つだった。

 俺はカオルの美しい左手を恭しく取り、彼女の薬指に指輪を通した。


「今日もありがとう……ア・ナ・タ」


 艶やかなダークエルフの美女は、指輪のはまった左手を朝焼けの光にかざしながら、目を細めて幸せそうにつぶやくのであった。

 その本当に嬉しそうな笑顔を見て俺は思った。


 漫研仲間の元キモデブTSダークエルフ女と間違いを起こす前に、高級娼館にいって今度こそ童貞卒業と発散してこよう……と。

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