『二通の手紙』
昔とても好きな人がいた。
その人とは、私の転校と同時に離れ離れになってしまったけれど、何故か手紙のやりとりだけは続いていた。
他にも文通を始めた友達は沢山いたが、10年も文通が続いたのはその人だけだった。
その人からは何通も何通も届いたが、最初と最後の二通の手紙だけは私の手元にない。
最初の手紙は、当時手紙の出し方が分からなかった幼い私は、最初の手紙を間違って同封し、彼に送ってしまったのだ。
直後、彼から手紙が来たときに『持ってていいんだよ』と顔文字付きの文章で教えてもらったときは、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
最後の手紙は、私が20歳になる年に送られてきたもので、その内容は『来年、付き合っている彼女と結婚します』という内容だった。
それまでの手紙で、彼女の存在を知ってはいたが、それでも手紙を送りつづけていたのは、きっとどこかで、また彼と会えるかもしれないと思っていた私がいたからだ。
それでも、彼はやっぱり結婚してしまうのだ。
だから、私は彼に最後の手紙は返した。
小学生だった最初の手紙と同じように。
彼の言葉は私にはもう贈られるべきでないと思ったし、そうしないと私も、もしかしたら彼も幸せになれないと思ったから。
結局はいい風な言葉で包み込んだ、私のエゴ、なのだけれど。
彼の事を傷つけたかもしれない。
いや、きっと傷つけるだろう。
でも、そうしてでも終わりにしなければいけないのだ。
さよなら、私の初恋と、あなたからの言葉たち。
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昔、好きだった人がいた。
その人は、小学生の時に転校をしてしまって、離れ離れになってしまった。
当時、幼かった僕は精一杯の勇気を込めて、彼女に「手紙をかいていい?」と言った。
彼女は新しい住所を教えてくれて、僕らの文通は始まった。
最初はお互い送り方も分からなくて、あて名の書き方や切手の貼り方などいろいろ間違えてしまったけれど、それでも僕は楽しかったし幸せだった。
まさかそれが10年も続くとは思わなかったけれど。
ずっと彼女を好きだった僕だが、高校を卒業するときに、ふと思ったのだ。
このままの関係でいいのだろうか、と。
彼女を好きだし、彼女から好かれている自信もあった。
けれど、このままの関係を続けていても、だめになってしまうと思ったから。
だから、大学に入って彼女を作った。
彼女と5年付き合った歳に、僕は彼女との結婚を決めた。
そして、文通相手の女性にその旨を書いた手紙を出した。
きっと、文通は終わりになるだろうと分かっていた。
分かってはいたけれど、まさか自分の書いた手紙が同封されてくるとは思わなかった。
最後に彼女から届いた手紙には、「ありがとう、さよなら」と短い言葉だけが並んでいた。
あぁ、僕の初恋は今終わったんだと。
結婚を決めたときにも思わなかったのに。
男って本当にしょうがない生き物だと思う。
身勝手な僕のエゴを許してほしい。
さよなら、僕の初恋。
-END-