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メタリックドール・ミチヨの冒険  作者: ジャン・幸田
1.出港準備はいいかい?
8/9

パレンバン発進

 実習艦「パレンバン」は、元々は国連宇宙軍巡行哨戒艦メコン級8番艦で、主に地球圏宙域の哨戒活動に従事していたが、性能の陳腐化により今から30年前から宇宙船乗務要員の訓練用に転用された老朽艦だった。そのためワープ機関のトラブルもあり、訓練でありながら実践的な対処が求められると揶揄されていた。


 そのため本来最初から実習艦として建造された新型が使われる予定であったが、深刻な初期不良に見舞われたため、急遽退役寸前だった「パレンバン」が、月面モノポールエリアから回送されてきた。それには新型実習船の艦長に内定していたグエン・ヘレンも異議を申し立てたが、無い袖は振れないと却下された。


 「そこの操船課の・・・マツイさん。ワープ装置の機動シークエンスは間違えないで! 間違って変な次元に飛び出すことないように!」


 グエン・ヘレンは艦橋エリアで念入りに準備させていた。この実習艦は旧式の機関が使われていたので、マニュアルを参照しながら行っていた。


 「艦長! フライトプランによれば地球引力圏脱出後、十二時間後に最初のワープに突入し、あとはパルス・ワープを連続して行うのですね? その間に準備すればいいのですか?」


 「そんな風に十二時間のうちに済まそうとは思わない事! もしかすると何らかの事情で早くワープしないといけない事もあるんだからね! そのためにやることは? 答えない!」


 「それは・・・何パターンもワープ航路を作成しシミレーションすること! そして様々な事態に常に備える事!」


 そんな風に艦橋で出発準備している間、ミチヨら特殊運航乗務員は艦内の最終チェックをしていた。この艦は実習とはいえ一般乗客が50人もいるのだから様々なものをチェックしなければならなかった。その中にはコールドスリープカプセルがあった。


 それは身体の自由が利かないワープ航行中に体力が消耗しないようにするための装備品で、扱い方を誤ると入った者が永遠に覚めない眠りにおちてしまうものであった。だから慎重を要していた。


 乗客の中には退屈という事で既にコールドスリープに入っている者もいたが、初めての恒星系間飛行だというものは「パレンバン」の展望デッキに集合していた。その中にはミチヨの妹のマナミもいた。


 「お姉ちゃん、本当にゴツイわ、その外骨格! せっかく私と同じ容姿なのに! 残念だわ!」


 一卵性双生児の片割れであっても姉と違ってマナミは少しメタリックドールに嫌悪感を持っていた。なのに姉と言ったら・・・そんな態度にも見えた。しかし、そんなチミヨのボディを細く可憐な手で撫でながらこういった。


 「でもね、このボディがみんなを守るかもしれないのよね、お姉ちゃん!」


 その時、自分とよく似た肉体がこの機械の中に埋まっているんだと愛おしかったようだ。


 「ねえ、ミチヨちゃん。次はあなたと立場が逆になっているかもしれないのよ! カリキュラムの消化状況によっては!」


 「それは嫌よ! シミレーションで済ませるわ! そんな機械仕掛けのボディに一時的にでもなりたくないよ!」


 ミチヨは少し怒っていたが、艦内放送で出発するとのアナウンスに他の展望デッキにいる乗客と一緒に注目していた。出発の際は艦内は重力と慣性力が制御されているのでショックはなかったが、徐々に地球の姿が小さくなるのが分かった。そして月が見えたかと思うとあっという間に地球と同じように小さな点になってしまった。そのとき「パレンバン」は地球の公転面から垂直方向、地球から見て北極星を目指す角度で地球圏から脱出しつつあった。


 「これでしばらく地球とはサヨナラだな」


 そんな声が聞かれたが、それがこの場にいた多くの者の運命であった。

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