半融合
人体と機械もしくは強化生体とを一体化する措置を半融合と呼ばれていた。初期には全身タイツのような特殊なインナーウェアを装着して措置を受けなければ両者の分離が不可能になる危険があったが、現在では細胞レベルでの統制が可能なので、そんな事故は起こらなくなっている。
もっとも、半融合すれば理論上生命活動が続く限り問題が起きないので、機械や人外のような姿で一生を終える人類もいるが。ただミチヨが半融合する長距離ワープ航法運航乗務員用のスーツ・機ぐるみタイプ5012、正式名称「ノルド式5012型超光速航法船内強化機械服」は航空宇宙乗務員学校所有のものなので、実習時しか着用できないものだった。
ミチヨは身体が浸食している感覚が心地よかった。教官によれば(言葉は悪いが)男女の性交の時に気持ちが悪かったら誰もしたくなくなるって事があるのと一緒で、意図的に半融合の時は融合される人体が気持ち良いと感じるようになっているということだった。
半融合のための端子がミチヨの口や鼻から容赦なく侵入していって消化器や呼吸器は様々な物質が満たされて行った。そして頭蓋内部に侵入した端子は大脳皮質にインターフェイスをミクロ単位で挿入していった。そして全身の筋肉組織にも同様のプローグが無数撃ち込まれて行った。この半融合技術は地球と現在では友好関係にあるZ-MOMEGA星系文明から技術移転されたものであった。だから地球上に存在する機械子宮は貴重な存在であった。
ミチヨは自分の身体が機械のようになっていくのが分かった。いくら機械子宮で逆モーション離脱術をすれば人間体に戻れると知ってはいても、一生機械生命体になってしまうのかもという不安が駆け巡っていた。でも融合する快感がそれを打ち消していった。
ミチヨの肉体に無数の機械細胞体が打ち込まれていくにつれて、内臓組織や筋肉組織は機械生命体のようになっていった。また骨格も増えてしまう自重に耐えられるように組織強化が行われた。そしてそれは外観にも及んでいった。
ミチヨの白い素肌は変色していった。もし本人がそれを何も知らずに見たら相当ショックをうけるものであったが、それは肉体制御用の外骨格と半融合させるために必要だった。彼女の皮膚は黒ずんできたところで、機械子宮に外骨格が投入された。その外骨格の内側は半融合した肉体が暴走しないように拘束する機能があった。だから黒ずんだ皮膚、実態は機械化組織内包膜の上にかぶさっていった。かぶさって行く度にミチヨの身体は肉体から金属的なものへと変化していった。
そこまで来た時、ミチヨは自分の身体が機械と半融合したことを認識した。外部の音は耳ではなく収音センサーが収集し、味覚は全くしなくなっていた。そして外部の映像は頭部各所の状況把握センサーからインターフェイスを経由して伝達されるので眼球を使う必要がなくなっていた。彼女の半融合は成功した!