機械子宮
ワープ航法が実用化されて四世紀。地球人類の活動範囲は飛躍的に拡大した。拡大の過程で数多くの地球外文明とのコンタクトを果たしそのたびに数多くのトラブルを地球人類が経験することになったが、概要だけでも数十万語では説明しきれない情報量である。その過程で既に知的生命体文明が繁栄している恒星系のうちワープ航法を保持しないところへの不介入法理が確立したため、後発の地球人類は他の文明圏が見向きをしていない恒星系しか開発する余地はなかった。そのため地球から半径10パーセク以外の植民恒星系はどうしても長距離ワープに頼らなければならなかった。
地球人類の場合、ワープ航法中は身体的機能が著しく制限される欠陥があった。原因は神経伝達系と筋肉組織へのネットワーク速度がワープしている間は極度に遅くなるというものであった。
だから、ワープ時の活動は鈍くコップに注がれた水を飲むだけで一時間近くかかる場合もあった。その極度に遅いという欠陥は訓練でも克服するのは不可能なので、どうしても地球文明のワープ航行宇宙船は自動操縦が主流になっていた。
しかしそれでは非常時、たとえばワープ航行回廊で異物と遭遇した場合に対処が出来ないという事が起こり得るわけだ。そのためワープ航法中の乗務員は身体を一時的に機械と半融合しなければならなかった。だから運航乗務員のうち客室担当も半融合しないといけなかった。
その半融合であるが、一種のサイボーグになれば人間の外観のままでも出来なくはないが、地球連邦宇宙航路管理機構傘下の運航乗務員養成学校のカリキュラムは相変わらず半融合の課程が定められていた。だからミチヨも半融合措置を受けないといけないが、それはミチヨの憧れでもあった。しかし入校して実態を知って嫌になっていたが。
ミチヨが全身ハダカで入れられた半融合装置の事を宇宙艇の船員たちは”機械子宮”と揶揄していた。これは人間の体内に無数を端子を挿入して外骨格と融合する過程がまるで機械生命体へと育てているように見えるからだ。もっとも半融合までにかかる時間は二時間ほどであるが。そのため合意したあと待ち受けているシステムからの質問があった。
「アズミ・ミチヨさん。あなたかこれからの半融合措置の間、眠りますか、それとも意識を保ちますか?」
眠りというのは麻酔薬を投与される事であるが、目を覚ました時は自分が機械にされたと勘違いしかねなかった。そこでミチヨは・・・
「そのままでいいです。わたし自分が半融合される様を感じていたいから!」
すると下腹部だけでなく全身の毛穴に蚊でも刺されたかのような刺激を感じた。それはミチヨの皮膚組織にナノマシーンが侵入しはじめたのだ。その過程は前もって教えられているものとはいえ、驚きしかなかったがミチヨは生まれて初めてのエクスタシーだと感じていた。私は機械と一体化するんだと、なんて素晴らしい事なんだろうかと!