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ゆきんこ、ひとしずく、

ゆきんこが、飛んでいる。

つかまえるとねがいごとがひとつ、かなうのだという。

ぼくはそっと、そっとその羽根を手の中に収めていく。

「ぼくは、今でも君を愛している―――」




.

リンクと同じ、白銀色にそまった空をみてから、ぼくはひとつ、身震いをした。

「あのね、あのね、あのねこうちゃん」

スケート靴の底のにある、なまえも知らない銀色のすべるやつを、氷のリンクにかつかつとぶつけながら、舌足らずな口調できみはぼくを呼ぶ。

「なに」

ぼくが応じると、きみはにっと笑って、

「肉まん、たべる?」

と、その小さな手のひらにちょこんと肉まんをのせて、ぼくに差し出した。

いつ買ってきたのだろうか。

いつでもぼくの知らない間に、ちょこまかと動き回る幼いきみに、抱きしめたくなるくらいの愛しさを感じながら、ぼくはその肉まんを受け取った。

そしてありがとう、といいながらうさぎのニット帽に覆われた頭をなでる。

するときみはさぞかしうれしそうに、ぼくのひとみを見つめていた。

.

どんどんひとがまばらになっていく。

その中で、ぼくたちは隣り合って肉まんを食べた。

となりを見れば、そこにはおいしそうに肉まんを頬張るきみがいて、手をみればそこには君の手が、ぼくの手が、確かにやわらかく重なり合っていた。

世界は白銀色に、ぼくたちを祝福してくれているように。幸せな錯覚だ。



でも、ぼくはきっとなにかを忘れている。

さっきから消えない、消えない何か。

たしかに大きなつめあとを、それは残していったはずなのに。




「こうちゃん」

世界は、赤く、銀色との混色を。

きみはただまっしろに、雪のように。

「雪がね、ふってるの」

ぼくの吐く息は白いのに、きみの吐く息だけは透明だ。

「ごめんね」

ぼくはなにもしゃべることができない。

「もっと、いっしょにいたかった」

じゃあいてくれよ。ぼくも連れていってくれよ。君の世界へ。

「もっといっしょに、肉まんはんぶんこしたかった」

これからすればいいじゃないか。

だから、どこにも行かないでくれ。

ぼくはしろいしあわせを、確かにつかまえたじゃないか。


きみはぼくのくちびるにひとさしゆびを置いた。

笑っているのか、泣いているのか、わからないような顔で。

「ねがいごとはね、ずっとは続かないんだよ」

ああ、雪が、雪がきえていく。なくなっていく。

「だいすきだったよ」

ぼくは、今でも君を愛している。






.





ぼくは今でも、きみを愛している

君はもう、どこにもいないと知っていながら。

この頬に残る、君がこぼしたひとしずく。

その温かさだけが、ほんとうに確かな真実だと信じて。











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