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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
新しい始まり編
8/63

あの頃より君が遠い……

ユエルの第三者視点です。

 

「うん。それがいいよ。早くクラスに馴染めるといいね、ユエル」

 引きずられ青葉が遠ざかって行く。微笑を浮かべて手を振る青葉は日本の尊き人にも見えて。こんなことになるのなら余計なことしなければ良かったとユエルは今更ながらに反省した。


 クロネコ討伐のために人界に降りてきたのは本当だ。しかしなぜ転生課の管理職であるユエルが現場入り出来たかとと言えば……。

 未だ捕らえられていないクロネコは討伐隊を嘲笑うように人の魂を狩っては逃げるを繰り返していた。人で言えばただの殺人鬼。回収するべき魂を放置しているところから愉快犯であることが割れているがそれ以上の進展はない。

 八十年ほど休暇をとって人界で青葉と添い遂げるのもいいかなーとか思ってたがユエルの仕事も増える一方で休暇どころではなかった。

 そんな折、討伐隊増員の告知が出された。ユエルは一も二もなく飛びついた。青葉に出会えたきっかけでもあるが今は青葉との逢瀬を邪魔する憎っくき敵。ならばこの手で討ってやろうじゃないかと。溜まりに溜まったストレスを解消出来て何より人界に降りれば青葉に会える。一石二鳥な討伐隊にユエルが加わらない理由はなかった。

 が、最初はすげなく却下された。なんてったってユエルは転生課の長。長が抜けたら仕事が滞るのは目に見えていた。

 しかしここで諦めるユエルではない。いつもはだらだらと片付けている事務仕事をすべて清算し部下に引き継げるだけ引き継ぐ。その際もあらゆる事態を予測した分厚いマニュアル付きだ。受け取った部下は若干涙目になっていた。定期的に帰れば問題ないところまで済ませユエルは再び討伐隊入りを志願する。

 さすがにここまでされれば上も認めるしかなかった。ユエルは本来優秀だが少々やる気が欠落しその優秀さがために怠ける天才だった。もっと上の立場にいてもおかしくないのだがその性格ゆえに無難な地位についている。そのユエルがここまでやる気を出し積極的に物事に取り組もうとしているのだ。起きた子は働かせろとばかりにあれよあれよとユエルの討伐隊入りは決まった。

 そして人に紛れてクロネコを迎え討つという作戦も採用されユエルは心の中で高笑いするしかなかった。

 周囲の天使も大いに喜んだ。怠け者の寵児がやっとまともになったと。下心満載な思惑になど誰も気づかずに。

  ここまでは良かったのに、と少女たちに囲まれて思う。

 クロネコを討伐出来れば仕事は減り予定通り休暇が取れる。駄目でも青葉の側にいられる。大元の願いはどっちにしろ叶うのだ。

 ユエルは意気揚々と人に扮して青葉の前に転校生として現れた。ユエルと名乗れば反応が返ってきて青葉が自分の事を覚えていたのが分かった。そこで調子に乗ったのがいけなかったのかもしれない。

 天使のユエルだと言外に伝えれば察しのいい青葉は気づいてくれた。そんなところは好きだけれど恋愛方面にだけ鈍くユエルのプロポーズを曲解して認識していたところだけは別だが。けれどその行為は周囲にユエルと青葉の関係をほのめかしてしまい……今に至る。


「天野さんって青葉くんのこと好きなの!?」

 青葉の手前無難な質問しか出来なかった少女たちが確信の響きを持って迫ってくる。少女と言えど鬼気迫る勢いで囲まれると怖いものがある。

 ここは食堂の一角。食堂にも第一、第二とありユエルたちがいるのは規模の小さい第二食堂でここはもっぱら特進クラス専用だ。専用というと差別ともとれるがユエルたちの学年ほどではないが不可思議なことに数年前から特進クラスに美形が集まり始めたために他クラスが騒ぎ収集がつかなくなったがための救済措置だ。特進クラスに美形が揃っているのもユエルの二階堂嫌がらせの一環だったりするのだが……。少女たちにとり囲まれるのは巡り巡って自業自得としか言えない。

 他学年の女生徒までやってきてユエルへの尋問が始まっていた。

「えっと……」

「あたしも青葉先輩が天野先輩の手を引いて走って行くところみました!」

「正直に答えてください。あなたたちは付き合ってるんですか?」

「青葉っちに限ってそんな!ねぇ?天野っち?ただの知り合いだよね?」

「そうそう。あの青葉くんだよ?平気で女の子のおでこにおでこ合わせて熱測ったり力ないのにお姫様抱っこしようとする青葉くんだよ?いくら天然だからって彼女がいたらもう少し危機感持つよ」

「ちょっと!!いつそんなことあったのよ!?青葉くんになにしてくれてんの!?」

「そうですよ!!そんなの、そんなの……ずるい!!……あっ」

「あなたこそなに言ってるのかしら?」

 少女たちの間で戦争が勃発しかけている。そっちに気を取られている間にユエルはその輪から離脱しようと試みる。が……。

「天野さん?どこに行こうとしているの?」

「お話したいこといっぱいあるし時間もまだ大丈夫だよ?」

「そういえば、お弁当を作ってきたそうですわね?一個余っているならわたくしたちが食べて差し上げますよ?」

「青葉くんと走ってちゃった後のことも聞きたいし…ね?」

 少女たちは可憐に微笑んでいる。しかし目が笑っていない。ユエルは逃げ場を探すがどこにもない。大人しく席に着き弁当を開けば談笑が再開する。遠回しに弁当を酷評され、青葉との関係をねちっこく問いただされ時計を見れば昼休憩は半分以上残っていた。そのことに絶望したユエルだったが更なるトドメが待っていた。

「天野さん。明日からも私たちとお昼食べようね?ふふっ。楽しみだな」

 少女たちが次々に同意する中ユエルは神ではなく青葉に助けを求める。そんなユエルの思いが青葉に届くはずもなくその頃の青葉と言えば静に弁当が食べたいと頼まれて頬を染めてたりする。


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