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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
新しい始まり編
6/63

こんな展開はありですか?

主人公の存在が霞に……

「もう、青葉さんってば大胆ですね。衆目の中、僕の手を引いて走るなんて」

 両手を当てた頬をポッと赤らめる姿は可憐かもしれない。けれど僕に彼女を気にする余裕はない。息が整うまで待ってほしい。切実に。

 ここは体育館と体育準備室の間。人目のない場所を求めてこんなところまで来てしまった。追いかけて来られないよう全力疾走したために僕は瀕死の状態でしゃがみこんでぜーはーと深呼吸を繰り返す。喋ることもままならず息が整うまで結構な時間を要した。

 そんな僕とは打って変わってユエルは息を乱した様子もなく冗談を言える余裕もあるらしい。

「……そんな事よりどうしてここに!?ユエルって天使だよね!?」

 どうにか呼吸を落ち着け一番の疑問をぶつける。

「青葉さんに会いたくて」

 見た目は美少女でも中身が残念天使だと知ってる身としてはどうも素直にその言葉を受け取れない。少女らしく鈴を振るうように澄んだ声をしているが口調も天使の姿をしてる時と同じなため外見と内面の違いに違和感を感じ得ないし殊勝なこと言われたって反応に幾ばくか困る。それに…

「理由になってないよ」

「まあまあ。いいじゃないですか。それよりこうして男女として出会えたんですからこれからを楽しみましょうよ。ね?」

「ユーエール?」

 ふらりと言い逃れようとするユエルを壁に手をついて囲い逃げられないようにする。しかつめらしい顔を作って上から覗き込むと黒目がちの瞳を左右にさ迷わせる。悪戯をした犬も最初は何のこと?と目を合わせようとしないがそのうち観念してしゅんと尻尾をたらすのだ。ユエルにも効果はあったみたいで肩を落とすと深いため息をついた。

「女の子たちの気持ちがよーくわかりました。こういうところなんですね。男の子にすれば厄介払いも出来て、誰も青葉に気づかないと思ったのに失敗でした…」

 ユエルはよくわからないことを呟いて恨みがましいものを見るような目線を向けてくる。

 僕、何かした?けれどその態度も答えをはぐらかしているようで僕は更に問い詰める。

「ほら。答えて?」

「答えます!答えますから離れてください!」

 ユエルは顔を真っ赤にして腕を突っ張る。答えるという言質は取れたので僕も素直に一歩下がった。

「…女の子のままにしとけば良かった。僕の青葉が天然たらしに……」

 ユエルは絶望的な顔をしてまたしばらくぶつぶつ言っていたけれどやっと僕の問いに答えてくれる気なったらしい。

「どうしてここにいるのか、でしたね?これも天使としての仕事の一環なんです。詳しくは話せないんですがあるものを捜していまして。その捜し物は妙に勘がいいみたいで天使のままだと僕らの気配を察して逃げてしまうんです。だからこうして人の姿を借りて来たって訳です」

 ユエルはその場でくるりと回ってみせる。膝丈のプリーツスカートがふわりと円を描き、黒髪が宙を躍る。そこにいるのは頭に美は付くが普通の少女だ。天使と例えられることはあっても本物の天使だと思う人はいないだろう。

「そっか…。天使も大変なんだね」

 天使の仕事ならば僕に話せないのも頷ける。天使が現実に現れて最初の会話がまるで僕を追ってきたみたいだったからちょっと自意識過剰になってしまったみたいだ。良かった。くだらない理由じゃなくて。行き過ぎた発言を反省してこれまでの穿った考えを改める。

「そうなんですよ。上にはこき使われて下は役立たずばっかりで。僕は身も心もよれよれです。だから青葉さんに癒して……」

「仕事頑張ってね!ユエルには願いを叶えてもらった恩があるんだ。僕にも出来ることがあったらいくらでも手を貸すよ!」

 そう。僕はユエルの登場に混乱してたのかもしれない。よくよく考えればユエルには前世の死後あんなによくして貰ったのだ。ふざけた態度は僕の心を紛らすためだったに違いない。別の人間として時間を経て客観的に見られるようになった今ユエルの行動すべてが計算されたものだったことに気づく。そしてもう一つ。

「ユエル、ありがとう。私の願いを叶えてくれて。佐々木くん……二階堂くんの側にいられて私は、僕は幸せなんだ。あの時は言えないままだったから。本当に、ありがとう」

 二階堂くんに出会えたことは前世の私にとっても今の僕にとってもかけがえのない奇跡だった。彼に出会わなければ僕は僕であることに違和感を抱き続け理由の分からないそれに向き合うことも出来ず答えを見つけられないまま一生を終えただろう。

 けれど違和感の正体も判明し何より二階堂くんと友達になれたのだ。前世からの大躍進に幸せでないはずがない。それもこれもすべてユエルのおかげだ。二度と会えないと思っていたのに今こうして目の前にいる。受けた恩は大き過ぎるけれど少しでも返していけたなら。その機会を与えられた僕はやっぱり幸せ者なのかもしれない。

 ユエルはあっけに取られたように目を見開き、かと思うとまたがっくりと肩を落とした。

「はい…。頑張ります……」

 こうして転校生の少女として現れた天使について僕の中で一段落ついたのだった。


 ***


「ところで、どうして女の子なの?」

「青葉さんに合わせてに決まってるじゃないですか」

「?僕に合わせると女の子になるの?」

「……あれ?僕プロポーズしましたよね?」

「僕の気を紛らわすためで本気ではなかったのでしょう?というか天使って結婚出来るの?」

「……出来ますよ 」

「そうなんだ。ユエルだったら素敵な女性がお似合いなんだろうな」

「僕には青葉さ……」

「もしかして相手はもういるの?」

「……いません」

 この時ユエルの声が若干震えてたのは言うまでもない。

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