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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
新しい始まり編
4/63

どストライク美少女来たーー!!……が。

 

「……最後にもう一つ、先日も話したと思うが今日からこのクラスに新しい仲間が加わる。天野、入れ」

「失礼します」

 鈴を転がすような綺麗な声が聞こえたかと思うと扉が開き一人の少女が入って来た。青葉の周囲以外は比較的静かな教室に微かなざわめきが走る。

 少女は教卓の前まで来ると担任の近藤に促され自己紹介を始めた。

「天野ユエルです。親の仕事の都合でこっちに引っ越して来ました。この学校についてはわからない事だらけなので教えてくれると嬉しいです。みなさん、これからよろしくお願いします」

 言い終わり少女ーー天野さんは両手をへその上で重ねてお辞儀をする。その綺麗な所作にクラス中が担任でさえも魅入られてしばし言葉を忘れる。

「天野…ユエル……」

 誰かのつぶやきに皆がはっと我に帰り口々に歓迎の言葉を述べる。近藤も誤魔化すように咳払いするとみんな仲良くするようにと定番のセリフでもって締めくくり転校生の席を指示する。

「天野の席は一番後ろの……二階堂の隣だな。二階堂、隣の席になるんだからそんな人を射殺せそうな目で見るのはやめて親切にしてやれよ」

 その時俺には近藤の言葉がこれっぽっちも耳に入っていなかった。そう俺は転校生をガン見していた。腰まで伸びた黒々とした髪、透き通るような白い肌、けぶるまつ毛、紅色の唇、黒目がちの大きな瞳、人形のような整った顔立ち、口元に浮かべる微笑。

 完璧だった。全てがパーフェクト。彼女を見た瞬間から俺の中で教会の鐘がけたたましく鳴り響いている。

 これはあれか?俗に言う一目惚れってやつか?好み。モロ好み。清楚な感じ、何にも染まってない純朴な笑みに俺のハートは撃ち抜かれた。

 俺が目をかっぴらいてガン見していると彼女がこちらを見た。お、落ち着け俺の心臓!余裕の男を見せるんだ!青葉を見習え!奴は常に泰然と構えている。お見合いパーティーでもがっついてるやつほど嫌煙されがちだ。向こうが近寄って来るのを待って一気に捕獲すればイケる!

 俺にイケメンとして生まれた優越感と自信はもはや皆無。夢だったハーレムは目の前にあるはずなのにその中心にいるのは俺ではなく青葉。

 最初はそんな青葉に並々ならぬジェラシーを感じていたが奴と話すようになってから考えは変わった。人間外見より中身、“イケメン”は鑑賞には値しても干渉には及ばない。そのことを悲しいかな痛感した。

 だから俺は決めたのだ。その他大勢の女子など眼中に入らないぐらい理想の彼女をゲットしよう、と。神様だってこれくらいなら許してくれるはずだ。言っておくがこれは負け惜しみではない。青葉なんてこれっぽっちも羨ましくなんててないからな。

 そして今理想はここに体現した。

 俺を一目見た彼女も俺と同じように恋に落ちるんだ。運命の恋人に巡り合った二人はもうよしてくれと周りの人間が砂を吐くくらいイチャイチャするんだ。

 妄想に忙しい俺は俺を見た彼女が一瞬汚物を見るような目をした事に気づかなかった。うん。気のせいだ。俺は絶対気づかなかった。次の瞬間には彼女はにっこりと俺にーーではなく青葉に微笑みかけ青葉は珍しく困惑の表情を浮かべていた。

「お久しぶりです。青葉さん」

「…………ユエル?」

「はい。また会いましょうって言ったでしょう?」

「でも、あなたは……」

 意味深な二人の会話にクラスが主に俺と女子が騒然とする。

 どういうことだ!?青葉と天野さんは知り合い!?ま、まさかこここ、こ、こ、恋人!!?青葉は女子の名前を呼ぶとき基本名字にさん付けだ。なのに転校生に対していきなり名前を呼び捨て。ただの知り合いでないことが容易に窺い知れた。

 くそっ!だから青葉のやつどんな美少女に言い寄られてもなびかなかったのか!?もしかしたらそっちの気があるのかもとか俺が狙われてるのかもとか思っちまったじゃねえか。…いや、そっちの方が良かった。こんなウルトラスーパー超絶美少女が青葉のものなんてそんなの嘘だ!!嘘だろ!?嘘だと言ってくれ!!!

 青葉の取り巻き達も新たなライバルの登場に気が気ではない。なんてったって今まで同じ土俵で戦っていたのに思わぬ伏兵が現れたのだ。ここから激戦になるのは間違いない。担任がいる手前辛うじて平静を保っているが心の中では大嵐が荒れ狂っている。

「天野、挨拶はそのくらいにして席に着け。すぐ一限が始まるぞ」

 このまま近藤が担当の古文のため転校生の紹介で長引いたホームルームに引き続き授業が始まる。天野さんは机の合間を抜けて後ろまでくると俺の隣の席に腰を下ろした。えっ!?俺の横!!?マジで!?さっきの青葉とのやりとりがなければ純粋に喜べたのに。青葉め!俺の夢をことごとく奪いやがって!

 天野さんは俺を一瞥することもなく反対隣の岡倉に小声でよろしくと挨拶をしている。普段は自身の顔にうっとりとしている岡倉もさすがこのレベルになると興味が沸くのか顔を赤らめて挨拶に答えている。

 もちろん俺にも彼女が話しかけてくれるはずがなく残酷にも始業ベルが鳴った。

 ……ひとつ聞いていいか?俺天野さんに嫌われるようなことした?

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