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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
新しい始まり編
3/63

それは職権乱用です…

第三者視点に変わります

 少女達の中心には二人の少年がいた。

 一人はすらりと背が高く、まっすぐな黒髪は艶やかで整った顔立ちは誰もを魅了する。それと同時に切れ長の瞳と固く引き結んだ唇は人に威圧感を与え、なんとも近づき難いオーラを放っていた。

 もう一人の少年は先の彼と比べるとまさに平凡の一言に尽きる。彼の容姿を特筆すれば全体的に体の線が薄く同世代の男子に比べるとひ弱の部類に入り、優しげな顔立ちは中性的ではあるが人混みに紛れれば探し出すのは困難だろう。

 けれど彼らを囲む少女達の視線は平凡な彼に向いていた。それをつまらなそうに眺めているもう一人の少年を今度は少女達が睨む始末である。

 逆であるならばまだしもこの状況を他人が見れば首を捻るだろう。それこそ平凡な男子がモテるのはギャルゲーや妄想の中ぐらいだ。おまけに彼らを取り囲む少女達が揃いも揃って美人だったら尚更である。

 ちぐはぐなこの状況にも彼らにはどうすることも出来ない理由があった。




「さ〜。帰ろう〜」

 一人の天使が本日最後の仕事を終え帰路に着く。さっさと着脱可能な羽を外して凝った肩をほぐすように背伸びをし、ただ一つの出口を抜ける。次の瞬間には真っ白な空間から高層ビルの建ち並ぶーー天界にいた。

 天界はその時代に合わせ様式を変えて行くため今は現世の都会のように鉄筋で固められた背の高い建物が並び足下はコンクリートで被われていた。現世との違いを上げるとすれば白で統一されている所だろう。

 かく言う天使の家も空高くそびえ立つマンションの最上階。意外と高給取りの天使は自身の城へと歩を進める。

 歩きながら思うのは最後に担当した少年とーー少女のこと。我ながらいい仕事をしたと天使は心の中で自画自賛する。

 最近仕事熱心な悪魔がいるらしく魂の乱獲が多発していた。そのため天界はおおわらわで魂の救済措置を行うことになった。

 仕事熱心な悪魔は黒猫の姿で現世に逗留しているため通称まんまクロネコ。

 魂を持ち去られる前に回収し優先して転生手続きが取れるよう体制を整えた。クロネコの討伐隊も結成されたが未だ現世で横行し続けている。

 この辺には天界と現世果ては魔界との制約が深く関わってくるため細かいことは省くがクロネコのせいで管理職である天使まで現場に駆り出され渋々魂の転生業務に当たったのだ。

 しかしそのおかげで彼女と出会えたのなら天使にとっては僥倖と言えた。クロネコが恋のキューピッドに思えてくる辺り天使のくせに罰当たりだが普段は有能なため大目に見られている。それが過ぎると頭にたらいが落ちる訳だが…。

 天使ーーユエルは相当惚れっぽいが条件も厳しい。容姿に拘りはないが自分の三歩後ろを歩く奥ゆかしさを持ち芯の通った強かな女性。おまけに言えば料理が出来て笑顔の可愛い人。その条件に合う人がいたならばまず求婚をする。

 しかし最近はそんな女性もとんと見なくなった。

 適当に周りに合わせ何と無く楽しければいいやと自分で考えるのも放棄して流れに身を任せる。他人に見えるところばかり取り繕って怠惰な生活に浸る。全ての人間ではないが女だけでなく男にも言えるそれは人間の魂の質さえ貶めていた。

 昔は良かったとユエルが思うのはそういうところだ。交際をすっ飛ばして求婚するため今のところ全戦全敗だがこの日の為の布石だったならば良かったとすら思えてくる。ちなみに天界の女は総じて気が強いため却下だ。

 その点、彼女はユエルのどストライクだった。転生手続きの際、天使はその人がどんな人生を送ったか知ることができる。それをもとに転生条件を決めたりするのだが彼女の人生を見たときユエルは恋に落ちずにいられなかった。

 始めは内に篭っていた彼女が一つのきっかけを機に生来の穏やかさはそのままに強かに変わる様は鮮やかではないけれど一種の美しさがあり惹きつけられずにいられなかった。

 ユエルはさっそく彼女ーー青葉に求婚したが案の定断られた。が、まったくめげなかった。ユエルは勝手に青葉を最後の恋の相手に認定し画策することとなる。

 今、青葉の心にいるのは佐々木という男。そして転生の条件に出したのが彼と再び同級生となること。なんの取り柄もない、どちらかと言うと馬鹿で口の悪い佐々木のどこがいいのかさっぱりわからない。青葉の記憶を知っててさえユエルは納得出来ないが本人の許可なく魂を留める事もまたルール違反になってしまう。ならば自分の持ち得る権限全てを駆使して二人の中を割こうではないか。

 天使らしからぬ企みは功を奏すこととなる。




 話は変わるが魂にも性別があることをご存知だろうか?女型、男型、どちらの性質も合わせ持つ中性型の三種類がある。

 中性型の場合は女より男よりと魂によってまちまちで環境にもよるが女よりの魂を持って男として生まれれば所作が綺麗だったり繊細だったり女性的美しさを備えていたり、男よりの魂を女が持って生まれればお転婆だったり凛々しくなったりする。

 そんな中完全な女型、男型の魂の場合逆の性別に生まれる事はほとんどない。何故なら魂ーー心と体の間に違和が生じバランスを保てなくなる場合があるからだ。

 青葉は完全な女型だった。本来ならば女として生を受けるはずだった青葉はユエルが書き換えた転生項目のために男として生まれた。佐々木と同じ性別ならば恋愛に発展し得ないと思っての強行手段だ。

 可憐な少女が一時的とは言え失われるのはユエルにとって大きな損失だが万が一にも佐々木と結ばれでもしたら堪えられない。

 そして一番の被害者は何と言っても佐々木静ーー来世の二階堂静だった。タイミングが良いのか悪いのか。クロネコによりその短い生涯を終えた静は青葉に続けざまユエルのもとにやってきた。

 静の人生を見たユエルは外と内のギャップに絶句した。頭は悪いが硬派を気取っている静は口は悪いが面倒見も良く同性にもて、異性には怖がられながらもそこがいいという物好きな女子からは好意を持たれてもいた。

 しかし考えてる事と言えば女子にモテたい。あんな可愛い子が告白してこないかななどとゲスかった。常にしかめっ面だったために周りには気づかれていないのが悔しいところだ。

 “僕の青葉があんなゲスに片想いなんて!”

 ただでさえ気に入らなかったのによりにもよってこんな奴がと憤慨し、静の転生項目も書き換えることにした。

 静が望んだのはイケメンになること。しかし真の目的は女子にモテることだった。もちろんユエルは静の企みなどお見通しなのだがそれを逆手にとって『完璧なイケメン』になるよう設定した。完璧であればある程人はその対象を自身から遠い存在に感じる。

 神のように崇めるか、普通ではないと妬み忌避するか、自身の方が劣っているとわかっていて近づくのは人との垣根に鈍感な者かよっぽどの身の程知らずだろう。これで静の目論見は潰せるし青葉にとっても近寄り難くなれば一石二鳥というものだ。

 そしてもう一つ。記憶消去も転生項目にあるがあえて二人の記憶は消さないでおいた。青葉の場合は純粋に自身を覚えていて欲しかっただけだが静のそれはただの嫌がらせだ。

 よって青葉は成長してから思い出す形になったが静は最初から記憶を持って生まれたために余計な心労を煩うことになったのだった。

 


 その結果は皆さんご覧の通りだ。大体がユエルの思い描いた通りに進んだが予想外な事が一つ。青葉がハーレムを築いたことだ。男になった青葉は…天然たらしだった。

 もとが女だったために女子に対して気負いもなく自然体の青葉は普通男子ならば恥ずかしくて出来ない言動を平気でとる。高校に入ってからはその度合いが増した。

 特進クラスには美形が集まり過ぎ青葉は逆に浮いて見えた。しかも他の男子が自分大好きのナルシストばかりの中紳士的な青葉がモテない訳がなかった。

 逆に美形の中でも際立って容貌の整っていた静はその口の悪さのために“だけ男”と不名誉なあだ名をつけられてしまったのだが。



「はあ〜。どうしてこうなちゃたんだろう……」

 ユエルは一人ため息をつく。たまにこうして青葉のことを覗き見ているのだが青葉の中の静に対する恋情が消えてないことがわかる。

 日に日に強くなっていくその想いに焦りを覚え始めていた。

「そろそろかな。バ神の許可も降りるし……待っててね、青葉。もうすぐ会いに行くから…………っていったーー!!?」

 一人ほくそ笑む天使の頭の上にはもちろんたらいが落ちる。罵ってはいけない人は天使のひっそりとした呟きも聞き逃すことはなかった。


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