イケメンになった俺
「今日調理実習でクッキー焼いたの。良かったら食べて」
「あ、うん。ありがとう」
「青葉くん、今日の放課後ひま?駅前に新しいカフェがオープンしたんだけど一緒に行かない?」
「いや、放課後は…」
「ちょっとあんた達!青葉くんが困ってるじゃない!自分のクラスに帰りなさいよ!」
「貴方は何の権利があって指図しているのかしら?関係ない方は出しゃばらないでちょうだい」
「なんですって!?」
「あの、僕………」
「青葉っちー、遊びにきたよー!」
「青葉〜〜」
「青葉センパーイーー………」
「…………」
教室の一画がハーレムとかしているのはもはや日常となっていた。各種取り揃えた美少女達の中心にいるのは当然のごとく容姿、頭脳、家柄、三拍子揃って文句なしの超ハイスペック男子であるこの俺ーーではなく可もなく不可もないいたって平々凡々な俺のクラスメイト、青葉浩一だった。
青葉は美少女に囲まれているにも関わらず困ったように眉尻を下げて苦笑している。自分を巡り美少女達が競っているのに気づいているのかいないのか。
そんな様子を教室の片隅から眺めていた俺はひっそりと溜息をつく。
……なにが悲しくて毎日毎日こんな光景見せられにゃならんのだ。
二階堂静。こんな大層な名の下に生まれた俺は二度目の人生を大いに楽しんでいた。二度目。そう、俺は一度死んだ。あれだ今流行りの転生だ。
前世は青葉と同じくフッツーの人間だった。勉強の出来は良くはなかったがスポーツは得意だった。多くの男友達に囲まれまあまあの人生を送っていた。
足りなかったのはただ一つ。そう、女子だ。俺は壊滅的に女子と縁がなかった。というかぶっちゃけ嫌われていた。俺、見栄張ってたんだよな。顔は良くて中の中、そんな俺は女子なんて興味ありませーんという態度を貫いてきた。口を開けば女子に向かってバカじゃねぇのとかブスだとか。はい。そうです。照れ隠しから暴言吐く最低野郎でした。
健全な男であった俺は本当はすごく女子と絡みたかった。しかし素直になれず現実はままならず二次元に逃げギャルゲーにはまった。
男なら誰だって夢見るもんだろ?超絶かわいい女の子達に言い寄られてウハウハフィーバー。それが叶うのがギャルゲーだった。
ツンデレ同級生にクール系才女、金髪天然美女に萌え萌え眼鏡っ娘。爆乳貧乳何でもござれな美少女達が何の取り柄もない自分を好きになってくれる。これほど素晴らしいゲームが他にあるだろうかと初めてギャルゲーをプレイした時の感動は一潮だった。
まあ、それからの俺は隠れオタクになっていった。女子にばれたら俺はもう生きていけない。とか思ってたある日。俺は本当に死んだらしい。
死因は事故死。トラックに跳ねられて即死だった。それがまたベタな話で道路に飛び出した猫を助けようとして代わりに跳ねられた。
死んだ後の反応といえばまじかの一言に尽きた。だってそうだろ?ギャルゲーに嵌ってたとはいえ彼女いない歴=年齢で人生終了なんてそりゃないだろと。
高望みはしない。そこそこ可愛くて笑うとえくぼが出来て、おしとやかで、料理が上手で、時々おっちょこちょいな彼女がいつか出来ると信じていたのにこの結果。
俺、神様に嫌われるようなことしたっけ?
唯一その疑問に答えてくれたかもしれないそいつとの出会いが俺の第二の人生の始まりだった。
トラックに跳ねられ俺は呆然と俺の体を見つめていた。飛び出した猫が轢かれると思ったと同時に動いていたが避けることとが出来ず正面から直撃した。何メートルか先に転がり止まった俺の体にトラックから出てきた運転手が慌てて駆け寄るが俺はピクリとも動かない。あちこちで悲鳴があがり運転手は顔を真っ青にして電話をかけ始める。
現場は大混乱。騒ぎを聞きつけた野次馬がさらに集まり、遠くにサイレンの音がこだまする。
ようやく救急隊員が到着したとき俺の腕がもぞりと動いた。幾人かが期待した視線を向けたがそこから出てきたのは猫だった。真っ黒なその猫はのんきにニャアと鳴いて俺を一瞥することもなく皆が唖然とする中走り去っていく。おい!俺に感謝の言葉はないのか!
ぼうっとその様子を眺めていると俺の体に光が射してきた。スポットライトのように俺の体を照らすその光にどうしようもなく惹かれ俺は上へ上へと昇っていった。
そして気づいた時には真っ白な空間にいた。
「どーもー。ハジメマシテ。僕天使というものですー。はい」
なんとも気の抜ける挨拶が聞こえた方を振り向けばなんともやる気の無さそうな男がいた。天使?らしく白い布を巻きつけたような服を着てその背には羽らしきものが生えている。なぜらしきものかと言えば自称天使の等身に比べあまりにも小さいからだ。正面から見てかろうじてはみ出る程度のそれは飾りにしか見えないが…。
俺が胡乱な眼差しを向けているのに気づいたらしい。眠そうに眦の垂れた目と視線がぶつかる。
「あれ?もしかして疑ってます?」
「当たり前だろう」
僕天使と言われて素直に信じるのは無垢な子供か頭のゆるい阿呆ぐらいだ。もちろん俺はどちらでもない。
「ええぇ〜。困るな〜。信じて貰わないと話が進まないんですけど……ま、いっか」
まったく困って聞こえないのんびりした物言いの後にぼそりと早口で呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「おい。待て。何がいいんだ。ものすごく嫌な予感がする」
「気のせいです〜。はい。さっそく本題に入りたいと思いまーす。生まれ変わるならどんな自分になりたいですか?」
「だから待て。お前はそれでいいのか?俺まだお前の天使発言疑ってるんだけど。普通なんかそれらしことして信じさせるんじゃないのか?しかも本題がいきなりそれって絶対説明とか端折ってるだろ!つーか俺の話に飽きて寝そべるな!頬杖つくな!」
完全にだらけた自称天使は日曜の母がごとく寝そべってどこからか出してきた煎餅をぼりぼりと食べていた。
「僕〜、残業ってやる気出ないんですよね〜。さっきもひとり対応したし〜」
俺は無言で天使の側まで行き煎餅袋ごと取り上げた。天使は今までにない機敏な動きで取り戻そうとするが両手で握り潰し全力投球で空間の遥か彼方へと放り投げる。
「ああぁっ!!僕のせんべい〜っ!何てことするんですか!鬼!悪魔!冷血漢!」
「死んでるからな」
「ちょっと前の僕だったらわーお死人ジョークって愛想笑いしてあげましたけど、それ全然面白くないですから」
キッと睨みつけてくるがフンっとそっぽを向いてやる。煎餅一つでやつから愛想笑いを失ったらしい。やったね。
「って、んなこたどーでもいいんだよ!こちとらいろいろ混乱してんだ!猫助けようとして跳ねられて。気づいたら自分の体見下ろしてて。それでああ、死んだんだって。俺まだ十七だぜ!?人生これからだぜ!?じーちゃんばーちゃん両方ぴんぴんしてんのに俺が先に逝っちまうとか!……皆泣いてるかな」
俺がしんみりと過去を振り返っているとあろうことか自称天使は鼻で嗤った。
「今更そんな殊勝なこといっても遅いですよ。君死んでから真っ先に思い浮かべたの出来もしない彼女のことじゃないですか」
「…………っ!!!?なんで!?」
「僕〜天使ですし〜?分かることは分かっちゃうんですよねー。何のひねりもなくマットレスの下に隠してある例のブツとか〜?ギャルゲーで一番最初に攻略するのは清楚系とか〜?B組のあの子に……」
「わぁぁぁー!!!わぁぁぁー〜〜!!!わかった。ごめん。俺が悪かった。あなたは正真正銘天使様です。煎餅のことは謝るからそれ以上何も言わないで。お願いします」
やつの目はマジだ。俺の黒歴史を全部暴露するつもりだ。俺の中に刻まれた日本人DNAが膝を折り頭を下げていた。つまり土下座だ。
そんな俺をつまらなそうに一瞥し天使はまたどこからか煎餅を取り出して食べ始める。
くそっ!なんでろくでもない死に方してたかが煎餅でこんな屈辱味わなければならんのだ!?
馬鹿らしくなってきてがばりと頭を上げ、天使に詰め寄った。
「いい加減説明しろ!お前はなんだ?ここはどこだ?この状況はなんだ!?」
天使はひっじょーに分かりやすく面倒くさそうに顔を歪めたがそっちの方が早く終わることに気づいたらしい。これまたどこからか表紙に『新人天使のお迎えマニュアル』と書かれた本を取り出し、だるそうに読み上げ始めた。
「ああ〜、ごほん。ようこそここは審判の間です。担当はワタクシ天使の太郎です」
「お前まんま読んでるだろ。いいのか。天使の名前が太郎で本当にいいのか?」
「本日お亡くなりになったあなた様にはお悔やみ申し上げます」
「それ遺族に言うセリフだよな?死んだ本人に言う言葉じゃないよな?」
「そんなあなた様に神様からのビックチャーンス!死ぬ予定のなかったあなた様に本来順番を待たなくてはいけないところを優先して生まれ変わりの権利が与えられます」
「ヘェ〜、そうなんだ。……って俺死ぬ予定じゃなっかたの!?なんで死んでんだよ!?」
「そこには深〜くてふっっく雑な天使の事情があるんです!聞かないでください。というか話が進まないので黙っててください」
それまで俺のツッコミ総無視してたくせにいやに鬼気迫る顔して質問を切った。なんというか“事情”なるものがメチャクチャ怪しい。
じと目で見る俺をまた無視して天使は話を続ける。
「そして生まれ変わるにあたって特典が付与されます。来世での…言うなれば確約ですね。来世の自分について一つだけこれがいいということを決められます。どうします?何がいいですか?」
「……それって金持ちになりたいとか、頭良くなりたいとか?」
「そいうのもありますね。ただ自分に関してなので無条件でモテモテになりたいとかはダメですよ?それだと相手の意識に干渉することになりますから。あと、他にも……」
「イケメンでっっ!!」
天使が何か言うのを遮り俺は即答していた。自分について決めていいと言われればもうこれしかないだろう。色の白いは七難隠す。七難あってもイケメンモテる。これは乙女ゲームが証明してくれていることだろう。
「……だと思いました。だからこんなやりとり無駄って言ったじゃないですかー」
天使が心底嫌そうに文句を言ってくるが俺の耳には入ってこない。イケメンになっちゃったら女子にモテモテだろうなー。あーんな可愛い子とかボインなお姉さんとかが俺を取り合っちゃったりして……。
妄想に忙しい俺に軽蔑の目を向けていた天使が徐に用紙に何かを書きつけそれを宙に放り投げたことにも気づかなっかった。
「はい。手続き終了しましたー。イケメンには生まれますが他は一切責任持てませんので悪しからず〜。では、良い来世を〜」
「…………へっ?」
俺の意識が戻ってきた頃には天使の姿がぼやけていた。錯覚かと思って目をこすって見ても天使は薄れていくばかり。
「えっ?これで説明全部?これから俺どうなんの?生まれ変わるってどうやって!?〜〜っ!こんのクソ天使〜〜っ!!」
俺の言葉は届かず遠くから「さ〜、帰ろ〜」という何とも清々しい天使の言葉が聞こえるのみ。そうして俺の意識は闇に落ちていった。
結果から言う。俺はイケメンに生まれ変わった。不思議なことに前の俺をベースにして完璧にしたような顔をしている。実業家の父と服飾デザイナーの母はそれぞれ名家の出らしく家も裕福だ。そんな二人からそれぞれ顔の特徴を受け継いでいるのだから神様の計らいだろうかとらしくもなく考えてみたりもした。
しかしお気づきだろうか?俺はバッチリ前世の自分を覚えている。それこそ天使との会話まで。そこまで流行りに乗らんでもいいだろう!
あの後目覚めた俺は赤ん坊になっていた。手も足もまともに動かず巨人に顔を覗き込まれ叫びたくとも口から出る言葉はオギャー。生まれ変わったばかりなのに若干死にたくなった。
おそらく記憶を持ったまま転生したもの達と同じ境遇を経て、巨人が新しい両親で有ることを理解し、言葉を話せるようになった頃には二階堂静という生を受け入れていた。
頭も前世とは比べるまでもなく格段に良くなり前世の知識がーとかは少なくとも俺には当てはまらないだろう。言えるのは前世の俺はとんでもなく馬鹿だったということだ。
優しく美しい両親の元、俺は完璧な人生を歩んできた。いや、別に前の両親がということではない。父ちゃん母ちゃん大好きだったし。前世とは違った境遇も悪くないとだけ言っておこう。
成長した俺は中学までそりゃーモテた。顔良し。頭よし。家柄よし。こんな俺を女子がほっとくはずがない。取っ替え引っ替えしても良かったがそこは育ててくれた両親の手前自重した。そんな中学生の息子嫌だろ?
……おまけに言えば元の俺は高校だったわけで流石に中学生を恋愛対象に見れなかったという所もある。
で、高校に進学。とうとう俺の時代来たーーーー!!!とか思ってた矢先。俺はクラスを見て愕然とした。
レベルが高い。アイドルやらモデルやらと遜色ないそれ以上の美少女があちこちにいる。リアルギャルゲーか?ギャルゲーの世界だったのかと喜んだのもつかの間。ヤロー共のレベルもべらぼうに高かった。こっちは乙ゲーかと思うくらいの美男子達がクラスには集まっていた。
……ヤバイ。これ霞むわ。
俺の当初の懸念通り高校ではまったく女子にモテない。どちらかというと前世と同じように冷めた目で見られるようになった。何故だ!
で、話は最初に戻るわけだが。
「二階堂くん。次の授業移動教室だよね。一緒に行こうよ」
こうして俺を誘ってくれる女子がいるはずもなくハーレムから抜け出して来た青葉がいつの間にか俺の机の前に来ていた。
改めて見てもフツーの野郎だ。特進クラスにいるため頭は良いのだろうが容姿は並の並。癖っ毛なのか毛先があっちこっち跳ね、身長もぎりぎり百七十あるかないか。顔も不細工かと言われればそうでもなく容姿の整い過ぎた連中に囲まれているため際立って普通に見える。
そのくせハーレム築いているのは腑に落ちない。美少女の条件に目が悪いとか、趣味悪いとかあるのだろうか?そんな事を考えていると青葉の後ろから美少女達にもの凄い形相で睨まれた。わーい。美少女達が俺を見つめてるーってなるかー!ほんとどうしてこんな奴がいいんだ。
そんな青葉は何を思ってか最近良く俺に話しかけてくるようになった。もれなく女子も着いて来て仮ハーレム状態になるのだが…。
「二階堂くん?」
「お前の後ろに群がってる奴らと行けばいいだろ。ギャンギャンうるせーしとっとと連れてけよ」
片耳に指を突っ込んで、もう片方で犬を追い払うようにしっしと振る。すると女子達がもの凄い勢いで詰め寄って来た。
「ちょっと、二階堂!!青葉くんに向かってその態度は何よ!?性格悪くて友達いないあんたを心優しい青葉くんが誘ってんのよ!?それを無下にするなんて頭腐ってんじゃないの!?」
「うるせーー!!友達いなくて何が悪い!?俺はひとりが好きなんだよ!!」
「まあ、強がっちゃって。わたくし知ってますのよ?貴方が羨ましいそうに青葉様の事見ていらしたの」
「うっわ〜、やらし〜。こんなやつほっといて行こ青葉っち」
青葉は女子達に腕を引かれ遠ざかって行く。何か言いたげに見て来たが俺は横を向いて気づかないふりをした。
何故こうなるんだ……。青葉達の後ろ姿が見えなくなった頃、俺は誰にも気づかれないよう袖で目元を拭い移動教室のために席を立った。
「二人一組で実験だって。僕と組もうよ」
「…………」
俺は無言で青葉を睨む。そんな俺を美少女達が睨む。
学校恒例の好きな子同士の二人一組。仲の良いやつがいなければその場でジ・エンド。いつもつるんでるのが三人ならば一人はぶられるという落とし穴付き。学校側は好意のつもりかも知れないが、それで心を抉られる可哀想な生徒が居ることを理解してほしい。切実に。
お気づきかも知れないが今世の俺に友達はいない。前世ではたくさん友達(男に限る)がいた俺もこの容姿と性格が禍してぼっち人生まっしぐらだ。
何故なら前世から性格が良いとは言えなかった俺だが馬鹿でもあったため敵を作る要素も少なかった。
しかし今はどうだ。イケメンで頭脳明晰、家柄良しの金持ちで前世に引き続き運動も出来るが性格も元のまま。これじゃあただの鼻持ちならない嫌味野郎だ。前世の俺だったら確実に嫌っている。実際中学まで友達が出来なっかったのはそれが理由のほとんどだ。
ならば高校はといえばもうこの際女子は置いといて多少の差はあれど同レベルのスペックを持った男子がこのクラスに集まってはいる。が、なんというかまあ、あれだ。男子のくせに鏡の所持率驚異の七十五パーセントを誇り、休み時間の度に覗いている。確かに神様から贈られた俺の顔も霞むほどにイケメン揃いなのだが鏡に向かってカッコつけ、中身の方も生粋の坊ちゃん風が多いため反りが合わない。というかどいつもこいつも俺が話しかけるとびくびくするため友情を育めるとは思えないのだ。
そのため今生は友達ゼロだが美少女ハーレムエンジョイしてやろうとそれだけを心の支えにしてきたのにだ。
美少女には軽蔑の目を向けられ、憎っくき天敵は見せつけるように俺に構ってきやがる。
青葉くんをまた無視する気?と非難轟々の眼差しを向けてくる美少女達は俺が組んでも断っても文句を言ってくるに違いない。なんて厄介なもんひっ連れて来るんだと青葉に怨みの込もった視線を向けても首を傾げるばかりで悟ってはくれない。
俺は覚悟を決めて口を開く。
「……組むから。後ろの女どもをどうにかしてくれ」
正直に言おう。ものすごく辛い。ほんと泣けてくるぐらい美少女に貶されるって胸を抉られる。俺は一時の安寧のため青葉の申し入れを受けたのだった。
「なあ、なんで俺に構うの?」
今は化学の実験中。俺は試験管にスポイトで薬品を垂らし、青葉は垂らす度に変化する中身を細かく丁寧にメモしていた。ふとした疑問が口をついて出ただけなのだが実験用に幅広の机の向こうから顔を上げた青葉は心なしか焦った様子で答えを返す。
「えっと、あの。…ほら二階堂くんてカッコいいし頭もいいから友達になりたいなって」
「それならクラスの大半が当てはまるぞ」
「他の人は話しかけにくくて。自分の世界を持ってるっていうか、浸ってるというか」
その意見には激しく同意するが答えにはなっていない。
「別に俺でなくてもいいだろ。女子がいるから独りぼっちってわけでもねーし」
俺はまたポタリと薬品を垂らし、青葉も素早くメモをとる。
「そうなんだけど。僕はほんの少しだけ彼女達の気持ちが解るから気に入られてるだけでやっぱり僕は男だし、男の友達が欲しいんだ」
青葉の言い分はわかるようでわからない。野郎に囲まれるより美少女達に囲まれる方が良いに決まってる。女は友情より恋を取るが男だって友情より美少女を選ぶ。
それなのに事実ハーレムを築いている青葉は俺と仲良くなりたいと言う。もしかしてそっちの気があるんじゃないかと俺が疑いの目線を向けているのに気づいているのかいないのか青葉は若干頬を赤らめ上目遣いに俺を見て。
「だから僕と友達になってくれる?」
「無理!!」
瞬間全身にぞわぞわっと鳥肌が立った。スポイトを放り投げ、椅子を跳ね除け立ち上がり青葉と距離をとる。
なんだこいつ。なんだこいつ。なんだこいつ!!ただ友達になってと言われただけなのに俺の中で警報が鳴り響く。言い知れない不快感の答えを出す前に俺の背筋が凍った。
大きな音を立ててしまったために教室中の注目が集まり女子から蔑みの視線を向けらる。普段は自分にしか興味のない男子も何事かと見てくるが何もわかってない気の抜けた感じが大変ありがたい。意識して女子の視線を目に入れないようにしているが殺気立った気配がビシバシと伝わってくる。
こんな時事態を穏便に済ませられるであろうただ一人の人物ーーおじいちゃん先生にSOSを送るが教卓で船を漕いでいらした。目を覚ます気配はない。なんてこった!仕事してくれ!蛇の大群に睨まれ崖っぷちまで追い詰められた俺にトドメを刺したのはやっぱりというべきか目の前の男だった。
「そうだよね。僕なんかと友達になりたくはないよね…」
しょんぼりと肩を落とした青葉の元にクラスの女子全員が集結し俺を取り囲むように円陣を組む。
「二階堂…。あんた、なに青葉くんを悲しませてんの?」
「最低……」
「青葉くん!元気だして!青葉くんには私たちがいるんだから!」
「そうですわ。あんな“だけ男”のために落ち込むことありませんわ」
「青葉くんの誘いを断るなんて、だから友達がいないのよ!」
念願の美少女ハーレムとはかけ離れたこの状況に俺は神様に嫌われているとしか思えない。俺は女子に罵倒されて喜ぶ変態的思考も持っていなければ、男に言い寄られて応じるような趣味も持っていない。俺はいたってノーマルだ!
高望みしなければ良かったのだろうか。美少女ハーレムなんて考えず控えめな彼女一人夢見ていれば良かったのだろうか。そこそこ可愛くて笑うとえくぼが出来て、おしとやかで、料理が上手で時々おっちょこちょいな彼女。ああ、理想の彼女が遠い。意識さえも遠くに飛ばしそうになってこの事態を収束すべく俺はやけくそで叫んだ。
「わかったよ!友達になれば良いんだろ!?これからよろしくな?なっ!?青葉!!」
俺の言葉に青葉は一瞬きょとんとしたが意味が飲み込めたのか満面の笑みを浮かべる。散々俺を罵っていた女子達も青葉の笑顔に見惚れてその口を閉じる。
「こちらこそ、よろしく!」
笑うと出来るえくぼに自身を囲む美少女達よりもよっぽど可愛げがあるのかもしれない。疲弊した思考の中でそんなことをぼんやりと思った。