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2-3.Party -Magician-

「あ」

 ギルドで無事にクエスト達成報告を終え、宿も取ることが出来(大きな発展都市なだけあってか、複数の宿があったので、ギルドで見かけた大勢のハンター達との宿の争奪戦を気にしていたが、案外すんなりと宿を取ることが出来て、俺は内心ホッとしていた)、混雑している食堂でやや遅めの夕飯を掻き込む俺達。

 ガチャガチャと食器の鳴る音や他のハンター達の話し声の中、独りで食事を摂っているハンターが目に留まった。先ほど「闇堕ち」と対峙し俺に杖を向けてきたあの女の子だ。彼女はどうやら魔術師などが良く着用しているのを見かける黒いフード付きの長い上着を着ている。中の服装は良く見えない。他の魔術師たちとは違い、上着の前を開けて着ていたことだけは覚えているのだが。先程の件が食堂の至る所で話題に上がっていることを懸念してか、彼女はその上着のフードを被ったまま食事をしていた。それでも彼女を判別できたのは、フードを被っていても脇から垂れたゆるくウェーブの掛かった薄いピンク色のロングヘアは、それだけでも十分目立つからだと思う。

「どうした、ジュン?」

「あの子」

 そう言ってウヅキにも彼女のいる方向を指し示す。彼女は既に食事を終え、空になった皿を持って席を立とうとしていた。

「……ちょっと話してくる」

「え、おい、待てよジュン!」

 席を立った彼女の後を追うように同じく席を立った俺を見て、慌てて残りのパンを口に詰め込むウヅキは放って置く。ウヅキは喉にパンを詰まらせたようで顔色が赤くなったり青くなったりしているが、俺は彼女を追う事を優先した。今を逃したら二度と彼女と話せないような気がしたからだ。

 彼女はトレイを返却棚に戻すと、客室のあるフロアへのドアを開けるところだった。俺も同じくトレイを返却棚に突っ込み、後を追う。

「なぁ」

 客室の連なる廊下へ出たところで、彼女に話しかける。名前がわからないので女の子に話しかけるには少々野暮ったい言葉選びだが仕方ない。それでも、彼女は自分が呼ばれている対象だと思ったのか、歩く脚を止めてくれた。くるりと振り向いた彼女はこちらを睨み付けるように見ながら、先程と同じように杖をこちらに向けていた。

「何」

 愛想もへったくれも無いような彼女の返事だが、それが詠唱の呪文では無かったことだけは感謝しようと思う。俺は生憎ウヅキのように知らない人間に好意的に話しかけるような術は持っていないので、単刀直入に用件を切り出す。

「さっきの」

 そこまで言いかけると、彼女はさらに目付きを鋭くさせる。……街の掲示板に在るクエストの中でも、ここまで難易度の高いものはなかなかお目に掛かれないのではないだろうか。

「……さっきはありがとう。助かったわ。それじゃ」

 俺を牽制しながらもそれだけ言うと、彼女はまたくるりと向きを変えて立ち去ろうとする。その杖を握っていない方の腕を思わず掴んでしまう。すると彼女は明らかな嫌悪感を表情に表わしてくるが、それよりも俺は「ウヅキ」ではなく「彼女」に聞きたいと思っていたことを尋ねた。

「アンタの仲間……どんな奴らだったんだ?」

 その質問に反応を見せた彼女。俺はさらに畳み掛ける。

「その……思い出したくはないかも知れないが、……せめて『四天王』と戦った勇姿だけでも」

「アンタ、何も知らないのね」

 必死に言葉を選んでいた俺にそう言うと、彼女は馬鹿にするような(おそらく実際に馬鹿にしているのだろう)軽く笑みを浮かべる。杖を引っ込めて俺に掴まれた腕を振り払うと、俺の背後を指差しながら更に続けた。

「ていうか、そこに隠れているアンタもバレバレよ? 二人纏めて付いてらっしゃい」

 彼女の指した先には、照れ笑いを浮かべながら壁の影から出てくるウヅキの姿があった。……どうやらパンは上手く飲み込めたらしい。


 俺とウヅキはピンクブロンドの少女に連れられて、とある客室の一つに入った。どうやらここが彼女の取っている部屋らしい。一人用の部屋には彼女のモノと思われる荷物が散らからない程度に広げられていた。部屋に入ると彼女は黒いローブを邪魔そうに脱ぎ、部屋の入り口脇に立っていたポールに投げるように適当に被せた。……一応皺にならないように気を使ってはいるらしい。ローブを脱いだことで、彼女のローブの中の服装を見ることが出来た。ポケットやボタンのたくさんついた黒のシャツに、同じく黒のミニスカート。脚に纏っている黒のニーハイソックスと茶色の革のショートブーツ。腰と右脚に付いているベルトとホルダーのピンクが差し色になっていて、彼女のピンクブロンドの髪と良く合っていた。

「で? 何だったかしら?」

 俺とウヅキをそれぞれデスクの椅子と簡易式のスツールに掛けるように促した彼女は、ボフリと音を立ててベッドに座った。腕と脚を組んで座る様は、まるで何処かの国の女王様のようだ。その淡いブラウンの瞳は突き刺すように俺を睨みつけてくる。

「……『四天王』と戦った時のアンタのパーティの仲間について、だ」

 ソレを聞いた彼女は、ふと思いついたように言う。

「いつまでも『アンタ』なんて呼ばれちゃ難よね。私の名はエイプリルよ」

「改めて、俺はジュン。コイツはウヅキだ」

「どーも、ウヅキでっす! っていうか、エイプリルって長いね! 以前の仲間からは何て呼ばれてたの?」

 律儀に自己紹介をしてくれる彼女に、俺も改めて自己紹介をする。スツールに座るウヅキを紹介すると、ウヅキはいつもの調子でエイプリルに話しかけ始める。

「……前のパーティでは、エルって呼ばれていたわ」

「じゃあ、俺達もそう呼んでいい?」

「構わないわよ。というか、アンタがあの『神風射手(ゴッドアーチャー)のウヅキ』なの? お噂はかねがね。……実物はこんなにアホっぽいなんて、知りたくなかったわね」

 溜め息を吐きながらそう言うエルの言葉に耳を疑う。え、ウヅキ(コイツ)ってそんな有名なのか?

「そっちこそ。『氷華女王(アイスドールクイーン)のエル』さん? エルは愛称の方だったんだな……どーりでハンター概覧で見当たらないわけだ」

 どうやらこちらも有名人らしい。というか、俺、場違いじゃないか?

「で、そっちは『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』ね……なかなか面白い盤面だこと」

「だから、俺は魔王軍なんかじゃないって」

「わかってるわよそんなこと。アンタのレベルなんてステータス見なくても大体わかるわよ。あの『ジュン』とは似て非なる人物でしょう?」

 どうやらそこそこの有名人らしいエルにそう言われ、気づく。そういえば……

「……ステータスって何だ?」

「はぁ!?」

 元々呆れ気味に話していたエルが、今度こそ呆れた、と呟く。ウヅキに至っては「え、知らなかったのか……?」と狼狽えている。

 それから、エルとウヅキの指導により自分の現在の「ステータス」を見ることが出来た。「ステータス」とはどうやらハンターのレベル(つまり強さという事らしい)や、状態、称号等を一覧で見ることが出来るものらしい。俺の場合、このように表示されている。


 ジュン-男

 属性-火 職業-剣士 Lv.34

 称号-なし 通り名-なし

 周回数-1(+1)


「ちょっと待て、周回数って何だ」

 そう尋ねると、エルが解説してくれる。今夜に限ってはウヅキは全くの役立たずになっている。

「文字の通りよ。このカッコの中の『+1』は、おそらく前回闇堕ちしたときの周回の事でしょうね……実はステータスについても、全てが研究され解き明かされているわけではないのよ……というか、ついこの間始めたにしては随分とレベルの上りが速いわね……」

 そう言うとエルはチラっとウヅキの方を見る。言外に、ウヅキに感謝しろという事なのだろう。

「そういえば、ウヅキとエルのステータスってどうなっているんだ?」

「え? 私のステータスを見たいの? ……まぁ別に他人に見せたところでルールには触れないし、減るもんでもないし、見せてあげてもいいわよ」

 そう言ってエルとウヅキのステータスを見せてもらった。


 ウヅキ-男

 属性-風 職業-狙撃手 Lv.99

 称号-カンスト,狙撃の神(オ リ オ ン),他 通り名-神 風 射 手(ゴッドアーチャー)

 周回数-1


 エイプリル-女

 属性-氷 職業-魔術師 Lv.99

 称号-カンスト,永久凍土(ツ ン ド ラ)を背負う者,他 通り名-氷 華 女 王(アイスドールクイーン)

 周回数-1(+2)


「それにしても、レベルが99でカンスト(カウントストップ)なんて、物足りないわよねぇ」

「だよなー。経験値もったいねーって」


 ……どうやら俺の周りは奇行種か化け物しかいないらしい。


「で? アンタ達、何しに来たのよ?」


 お前が横道に反れたんだろうが!

廚二力は割と重要です←

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