2-1.Party -Swordsman-
俺の採った木の実や香草で、簡単に昼食を済ませた俺たちは、クエストの残り半分のモンスター討伐に奮闘していた。気付けばあんなに深いと思っていた森の端まで来ており、開けた平野の向こうには次の街と思われる景色がぼんやりと見える。
「なぁ、ウヅキ、あれって」
「あぁ、次の街だぜ! まだ時間もあるからこのまま次の街まで抜けてクエスト報告も出来るし、いったん森を戻って朝の街のギルドに戻ることも出来るけど、どうする?」
ウヅキが答えと共に訪ねてくるが、もちろん、そんなの決まっている。
「このまま次の街に行こうぜ!」
「そう来ると思った! 平野に出たら森とは違うモンスターも出るから気をつけろよ!」
勢いよく森を飛び出した俺とウヅキは、鬱蒼と茂る森に隠されていた太陽の光に思わず目が眩んだのだった。
「やっぱ環境が変わるとモンスターの種類も変わるんだなー」
平野での初戦闘を終えた俺はそう感想を漏らす。初心者クエや森の中では見られなかったジェルのようなモンスターを斬った剣に、ドロドロとした何かが付いている。
「もちろん。モンスターにもそれぞれ過ごしやすい環境ってヤツがあるからな! 逆に森にいたキノコのモンスターとかイノシシみたいなモンスターはここにはあまりいないぜ」
言われてみれば、キノコやイノシシは見かけなくなり、ジェルのようなモンスターや植物のようなモンスター、鳥のモンスター等が増えてきている気がする。受諾していたクエストでの討伐対象のモンスターはキノコとイノシシだったが、既に森の中でノルマは達成している。掲示板で見かけたクエストの中には、(当時の俺のレベルでは受諾対象外だったが、ウヅキとパーティを組んでいるのでパーティとしてなら受諾できるモノも多数あった)ジェルや鳥の討伐クエもあったので、こんなことなら受諾しておけば良かったか、と今更ながら後悔してしまう。
「でも平野に出るってわかってたら、他のクエストも受諾しておけばよかったかもな」
そうウヅキに言ってみるが、ウヅキは困ったように笑いながら俺の今更な提案をやんわりと否定してくる。
「平野に出たのはあくまでも成り行きでそうなっただけだろ? もしクエスト受諾しても、達成報告の締め切り時間を越えたらペナルティ喰らうんだぜ?」
なるほど、確かにハンターとしての活動を始めたばかりの俺にとってはここでのペナルティは痛い。堅実に確実に、レベルを上げてクエストをこなしていくのが無難というところなのか。
平野に出てから改めて周囲を見回すと、俺たち以外にも他のハンターがいるのが見える。森の中では樹の影になってしまい、ウヅキの姿を確認するのさえ一苦労だったので、なかなかに新鮮な光景だ。モンスターと戦うハンターや、パーティのメンバーと談笑しながら街の方へと向かうハンターたち。俺たちのように複数でパーティを組んでいるハンターもいれば、一人で果敢に戦うハンターもいる。
そんな中、あるパーティの方から叫び声が聞こえた。
「『闇堕ち』だ! 『闇堕ち』が出たぞ! みんな逃げろ!」
その声を聴いて、周りのハンターたちは悲鳴を上げながら一斉に逃げていく。誰も「闇堕ち」とやらに立ち向かおうとするものはいないらしい。ていうか、「闇堕ち」って何。
「なぁウヅキ、『闇堕ち』ってな」
「いいから俺たちも逃げるぞ! 走れジュン!」
ウヅキに訊こうとするも、ウヅキも他のハンターたちと同じように逃げようとする。
大体のハンターたちが逃げ去った後に残ったのは、「闇堕ち」と呼ばれた何かと一人のハンター――杖のようなモノを「闇堕ち」に向けている女の子だった。
「ウヅキ、まだ人が残ってる、助けないと!」
「いいから! 『闇堕ち』には関わるな! アイツの注意があの子に向いてる間に俺たちも逃げ」
「んなこと言ってられっかよ! 俺はあの子を助けに行くからな!」
そう言って俺の腕をつかむウヅキの手を振り払って、俺は剣を抜きながら「闇堕ち」と対峙する女の子の元に走って行った。
「……やっぱそう言うと思ったよ! 仕方ねーな!」
そしてやはりウヅキも俺に続いて走ってくる。
女の子は杖から様々な魔法を放っている。氷や火、風等の攻撃魔法を使っているようだが、「闇堕ち」には全く効いていないようだ。
「なんで私の魔法が効かないのよ!?」
「魔法などオレ様に効くか小娘め!」
若干パニックに陥っている様子の彼女と、高笑いする「闇堕ち」にようやく追いついた俺たちは、彼女の前に立ちはだかるように「闇堕ち」に対峙する。
「そこまでだ『闇堕ち』! 俺たちが相手になってやる!」
そう言って剣と矢を「闇堕ち」に向ける俺とウヅキ。俺の方はただの弱小剣士だが、ウヅキはそこそこ強いはずだ。
「ジュン、コイツ多分魔攻耐性持ちだ。恐らく物理攻撃が有効なはずだぜ」
相手の装備を観察していたウヅキが弓を構えながら俺にそう耳打ちする。「闇堕ち」の装備は長いローブに大きな杖のようなモノを持っていて、俺やウヅキのようなハンターとは別のタイプのようだ。
「なら俺たちの方が有利だな、行くぞ!」
そう言って剣を振りかぶりながら「闇堕ち」に向かって走り出した俺だが、「闇堕ち」は高笑いしながら砂のように消えてしまった。
「土属性の転移魔法か……! 逃げられたな。ま、無駄に『闇堕ち』と戦ってもリスク大きすぎるし調度良かったか」
そう言いながら構えていた弓を下ろすウヅキの言葉に、後で街に着いたらいろいろと聞くことがあるな、と思い直す俺。とりあえず今は、女の子の方のケアが必要だと判断し、彼女の方に向き直る。……が、彼女の様子が明らかにおかしいことに気づいた。先ほどよりも恐怖が表情に現れている。「闇堕ち」は既に去ったというのに、何に怯えているのだろうか。
「おい、大丈夫か……」
「イヤ……来ないで……それ以上近づかないで」
ガタガタと震えながら両手に握りしめた杖を俺に向けてくる。「闇堕ち」から助けたと言うのにどうしてこんなことになるんだ?
「『魔王軍四天王・魔剣士のジュン』……私の仲間達の仇、今ここで取ってやるわ!」
「はぁ!? ちょ、人違い!!」
何だかよくわからないが俺に攻撃魔法をかけようとする彼女。もう何がなんだかわからない。とりあえず応戦するために剣を構えた俺と彼女の間に、ウヅキが慌てて滑り込む。
「はいストップ、ストーップ!! ゴメンねー! コイツはつい最近ハンター始めたばっかのただの剣士だから人違いだよー! だからアンタのパーティの仇じゃないんだよー! 紛らわしくてゴメンねー! でも人違いだからできれば君とは戦いたくはないなーって!」
そう言いながら両手を上げて降参のポーズをとるウヅキに、殺る気満々だった彼女は仕方ない、と言ったような感じで杖を下ろし、くるりと背を向けて街の方へと歩いて行ってしまった。
「なぁ、ウヅキ……」
「悪い、聞きたいこと山ほどあるのは分かってんだけどさ、とりあえず俺たちも移動しようぜ? 何気にクエストの報告時間も近くなってるし」
申し訳なさそうにそう言うウヅキに俺は、「街に着いたら聞くことリスト」を頭の中で整理することにした。