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1-3.Shuumatsuron -Resumption-

 宿屋で一泊した俺は、早速この街のギルドからクエストを受諾するべく朝早くから行動を開始した。

 宿では当然一人部屋を取ったためユニがどうしたかは知らないが、この際撒いてしまえた方がパーティなども組みやすいだろう。

 この街でもクエストは基本的に街の中心に据えられている掲示板に貼り出されており、そこから自分に見合ったものを選ぶシステムのようだ。生憎、時間が早すぎてギルドが開いていないが、ギルドのクエスト受諾開始時間までゆっくりとクエストを吟味して、ついでに簡単なパーティでも組めればと思っていた。

 既に掲示板には多くのハンターが集まってきており、俺のテンションは地味に上がっていた。

 掲示板をざっと見たところ、現在の俺のレベルで受諾できそうなのは、やはり簡単なモンスターの討伐クエストや物資や資材などの採集クエストばかりのようだ。他のクエストを受諾するには、もっと上位のハンターとパーティを組む必要があるらしい。

「ジュン!? お前、ジュンだよな!?」

 不意に名前を呼ばれて驚いた。一瞬ユニに見つかったのかと思ったが、声の主が男とわかり安堵する。が、何故冒険を始めたばかりの下位ハンターに過ぎない俺の事を知っているヤツがいるのだろう。

 声の主は明るめの茶髪に黄金色の瞳をした青年で、やはりイケメンだった。身長は俺よりも頭半分ほど低いくらいで、装備している武器を見る限りでは狙撃手か銃騎士のようだ。

「何故俺の事を知っているんだ?」

 俺の方に近寄ってきた茶髪の青年に、改めて問う。

「……もしかして、お前、記憶が無いのか?」

 問いかけたのは俺のはずなのに、青年はさらに質問で返してくる。 無言でいるとそれを肯定と取ったのか、青年が自己紹介をしてきた。

「オレはウヅキ。職業(ジョブ)は狙撃手で属性は風。……えーっと、ホントにオレのこと覚えてない?」

 新手でもないナンパのようなセリフだが、不思議とウヅキに対して嫌な感じはしなかった。

「残念だがお前とは初対面だな。改めて、俺はジュン。火属性の剣士でつい昨日この街に来たばっかりだ」

「そっか……」

 俺の言葉にウヅキは少々落胆するように肩を落としたが、振り払うように首をぶんぶんと振ると、やたら瞳を輝かせて俺の手を掴んできた。

「じゃあさ、オレとパーティ組まない? この街来たばっかってことは、レベル制限で受諾できないクエも沢山あるだろ!? オレこう見えてもそれなりに経験詰んでるからレベルも上がってるしいろんなクエ出来るぜ! ジュンにとっても都合悪くはないだろ!? な、オレと組もうぜ?」

 ウヅキの勢いに圧倒されるが、俺はふとユニの事を思い出した。が、戦闘でも補助魔法ばかりで実質何の手伝いにもならないユニよりは、このウヅキと組んだ方がメリットは多そうだ。それに何よりも、何故かウヅキが(一方的にだが)話しているのを見ていると、不思議と懐かしさが込み上げてくるのが俺を安心させた。

「あぁ、俺は構わないが……それだとむしろ俺の方が足手まといにならないか?」

「大丈夫だって、ジュンならまたすぐ強くなるって!」

 ウヅキは俺とパーティを組むのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。そんなに強い狙撃手ならわざわざ俺のような弱小剣士を誘わなくても引く手数多と行ったところだろうに、不思議なヤツだ。

「ところで、ジュンはどのクエやるつもりだったんだ? オレはどのクエでも手伝うぜ!」

 人懐っこい表情で尋ねてくるウヅキに、俺は簡単なモンスター討伐のクエストを指した。

「そっか、ジュンは堅実にレベル上げしてくタイプだもんな! いいぜ、オレもそのクエ手伝うよ!」

 どうもこの世界に来てから合う人物は、ユニといいウヅキといい、何故か俺よりも俺自身の事を知っているらしい。

 だんだんとそんな感覚に慣れていく俺を待ち受けていたかのように、ギルドからクエスト受諾開始の合図の鐘の音が響き渡った。

「あ、ギルドが開店だ! 行こうぜ、ジュン!」

 クエスト受諾のためにギルドに向かって走り出した俺たちの事を見つめているユニの視線に、この時の俺は気づかないでいた。


 順調にモンスターを倒して行く俺たちは、街の傍に在る森のかなり深くまで来ていた。

 戦闘の最中や合間に、ウヅキと会話をする。ウヅキの話題は主に戦闘についてだとか武器についてだとか、ハンターらしいものばかりで、俺がまだ行っていない街や村についても話してくれた。そんなウヅキの話しの中に、ユニがあれだけ騒ぎ立てていた『世界の終末』の話しが無い事が疑問に感じたが、やはりユニがおかしいだけだったのだろう。俺の方は基本的に聞き役に回ることが多く、見た目の年齢は同じくらいだがハンターとしてはれっきとした先輩であるウヅキの話しに耳を傾ける事が多く、ユニの言っていたことについて特に質問などはしなかった。俺までユニのような奇行種だと思われてパーティ解散なんてことになる方がよほど大惨事だ。

「そろそろ休憩にしようぜ」

 クエストのモンスター討伐数の半数に達したところでウヅキが提案した。ちょうど昼時でもあったので都合がいい。

 昼食を摂りに街まで戻るのも難儀なので、食材は森の中で現地調達だ。これもウヅキが教えてくれた話の一つだ。ウヅキに一つ一つ確認しながら木の実や香草(とか言われてもぶっちゃけ良くわかってないが)を採取していく。ウヅキは他にも携行できる食材も調達すると言っていたので、今食べる分は俺が担当することになる。

 ウヅキとの距離が少し離れたところで、俺は採取の手を止める。

 息を吐いて顔を上げると、そこには何故か街に置いてきたはずのユニがいた。

「なっ、おま、えぇ!?」

「ジューンー! 置いてくなんてひどいよう」

 俺の右腕には採集用のナイフが握られているため左腕に抱き着いてくるユニに、思わず悲鳴を上げる。

「どうかしたのかジュン?」

 俺の声を聴いたウヅキがこちらに近づこうとする気配を感じとって、俺はウヅキにストップをかける。今ユニを見られたら、こんな奇行種女と関係があると思われかねない。

「大丈夫だ、何でもない」

「そうか! 何かあったらいつでも呼べよな!」

 そう言ってまた向こう側で採集をするウヅキを確認してほっとする。そして俺はユニが草むらに隠れるようにしゃがみ込み、ひそひそと話しかけた。

「なんでお前はここにいるワケ? 何、ストーカー?」

「別にユニはストーカーなんかじゃないよう……ただ、ジュンが無事に世界を救えるようにお手伝いしたいだけ……そのためにはあの男はジュンの仲間にはふさわしくないから、ユニがまだ一緒にいてあげるの!」

「……はぁ」

 またユニの謎理論だ。数日一緒にいただけだが、ユニに常識や理屈が通じないと言う事だけは重々わかっている。だから、ウヅキとのパーティに誘っても応じない事は予想の範囲内だ。

「よくわかんねーけど、俺はウヅキと組むことにしたから。だから、世界がどーとかは別のヤツ探せ」

「やだやだ、ジュンがイイの!」

「だから、俺は世界とかどうでもいいって言ってるだろ! いい加減しつこいぞ!」

 ついユニを怒鳴りつけてしまう。ユニは涙目でオレを睨んでくるが、それ以上何かをいう事はなくなった。

「おい、ホントにどーしたよジュン?」

 俺の怒鳴り声を聞きつけて、ウヅキがこちらにやってきてしまった。俺は慌ててユニを俺の陰に隠す。体格差から言ってユニの姿はすっぽりと隠せているはずだ。

「お前が怒鳴るなんて珍しーな……って、誰もいなくね? 独り言?」

 きょろきょろと周りを見回すウヅキに、そんなはずは、と俺も周囲を確認する。さっきまで口論していたはずのユニの姿は跡形もなく消えていた。何はともあれ、今のところの脅威は消えたというワケだ。

「もしかして、ジュン腹減ったとか? そろそろメシ食うか!」

 笑いながら携行食用の食材を見せて来るウヅキに対して、俺の表情はどこか晴れないままだった。




「……運命からは逃げられないんだよ、ジュン?」

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